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自身の経験も生かして、働き方を変革するスタートアップや女性起業家に出資し伴走支援する

株式会社Yazawa Ventures 創業者/CEO 矢澤 麻里子氏インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」に掲載されている記事の転載です。

 Yazawa Venturesは、2020年に矢澤麻里子氏が設立した独立系VC(ベンチャーキャピタル)だ。「働く」をテーマに、働き方を変革するスタートアップや女性起業家に出資し、伴走支援している。女性起業家へ投資する理由、矢澤氏の目指す働き方の世界観について伺った。

株式会社Yazawa Ventures 創業者/CEO 矢澤 麻里子(やざわ・まりこ)氏
ニューヨーク州立大学を卒業後、BI・ERPソフトウェアのベンダにてコンサルタント及びエンジニアとして従事。国内外企業の信用調査・リスクマネジメント・および個人与信管理モデルの構築などに携わる。その後、サムライインキュベートにて、スタートアップ70社以上の出資、バリューアップ・イグジットを経験した後、米国Plug and Playの日本支社立ち上げおよびCOOに就任し、150社以上のグローバルレベルのスタートアップを採択・支援。出産を経て、2020年Yazawa Venturesとして独立。

「働く」をテーマに、労働環境や女性活躍の課題に取り組むスタートアップを支援

 Yazawa Venturesは、「働く」をテーマに、働き方の変革に関わるスタートアップへ出資する独立系シード特化型ベンチャーキャピタルファンドだ。投資領域は、企業や組織のDXなど労働環境の構造を変革するスタートアップ、テクノロジーを軸に個人の多様な活躍を推進するスタートアップ、一人ひとりがより良く働くための基礎となるヘルスケアや教育、女性の活躍推進における課題の解決に挑むスタートアップを中心としている。

 ポートフォリオの約半分は女性起業家だ。女性起業家へ積極的に投資する理由として矢澤氏は、「女性の起業家が少なく、VCからの出資も限られるのは、妊娠や出産といったライフステージが事業の継続性や成長スピードに影響するからです。しかし、優秀な女性起業家はしっかりと事業を拡大させており、妊娠や出産があるからこそ、事前に準備をし、資金を調達してから臨めるようにサポートした事例もあります。日本が発展するためには女性の活躍が不可欠であり、女性が成功するための事例をたくさん出していきたい」と話す。

 この思いは、矢澤氏自身の経験によるものだそう。

「私がファンドの準備を始めたのは、子どもが6カ月のタイミングでした。そこから半年でファンドを組成したのですごく大変でしたが、やる意義はすごくあると感じていました。だからこそ、自分が投資するスタートアップには、ライフスステージに関わらず事業ができる環境、メンタリティをサポートしたいと考えています。私自身はサポートが何もなかったので出産後にファンドを立ち上げましたが、投資先にはチームをつくるキャッシュがあるので、出産前にチームをつくり、資金調達する支援をさせていただいています」(矢澤氏)

 メンタルが不安定になりやすい妊娠や出産の時期に、起業や資金調達をするのは相当な精神力が必要だ。メンタル面をサポートするため、事業だけでなく、プライベートを含めて相談にのり、アドバイスをしているという。

「定期的にミーティングしながら、先輩の女性起業家がどのように両立しているのかを、私なりにアドバイスしています。女性の起業家は家庭やパートナーの状況に左右されやすい傾向があります。家族が起業を応援しているかどうか、パートナーがスタートアップに理解があるかどうかによっても変わるので、それらを踏まえてアドバイスするようにしています。私もファンドを立ち上げるときに先輩方に相談し、応援していただいて今があるので、しっかりつなげていきたい」(矢澤氏)

 設立から3期目を迎え、期待以上の成果を上げる投資先が少しずつ出てきているそうだ。

「私が投資するのは、その業界の領域に専門性を持っている方。ビジネスの知識がなくても、その領域の課題を解決したい、という方に投資するのが好きです。男性、女性に関わらず、起業についてよくわかっていらっしゃらないからこそ、私がサポートできることがあります。例えば、KPIの作り方、目線の上げ方、どのような資料が参考になるのか、などをアドバイスします。ゼロイチを支援するうえで、スタートアップが陥りがちなポイントを積極的にサポートしています。最初はまったくビジネスの知識がない女性起業家でも、1年でしっかりとした数字を出せるようになり、次の事業を考えるときにはすぐに資料を作れるようになります」(矢澤氏)

働き方に関する市場は、5年後、10年後には大きく広がると確信

 支援先は、ブライダル事業者向けのDX支援を展開する株式会社TAIAN、動物病院に特化したオールインワンSaaSを開発するミニイク株式会社、助産師と出産・子育て家族のマッチングサービス事業を展開する株式会社Josan she'sなど、働き方や女性の社会進出に関わる事業領域が多い。

「ブライダルはライフスタイルが大きく変わるタイミングだからこそ、そこから取得できるデータに価値があり、マーケットの広がりが期待できます。ミニイク株式会社は男性の起業家ですが、動物病院の業務をDXで効率化することで、女性の獣医師が働きやすい環境を整えられることから出資しました。

 助産師の働き方を変える事業は、ファンドを立ち上げたら絶対に投資しよう、と考えていた領域です。株式会社Josan she'sでは、新生児のベビーシッターとして助産師とのマッチングサービスを提供しています。新生児は保育士に預けることができませんから、起業家を中心に、すぐに仕事復帰したい女性に喜ばれています。また、産婦人科向けに、外部の助産師に業務をアウトソースするサービスを提供し、院内の助産師の働き方の改善にもつなげています」(矢澤氏)

 矢澤氏自身が明確なビジョンを持ち、投資先を通じて社会を変えようとする強い思いが伺える。

 こうした矢澤氏の活動が共感を得て、2021年のForbes JAPAN「今年の100人」に選ばれるなど、メディアでも注目されている。

「市場はつくるもの、と思っています。そこに課題があり、良い事業を提供すれば、しっかり市場をつくっていけると信じています。業界によって難しさもありますが、現時点での市場が小さくてもあまり気にせず、課題があればしっかり投資し、市場を拡大していけるように支援します。実際に、10年前には誰も目を向けていなかった企業が上場して大きくなった例は数多くあります。働き方に関する技術や企業は5年後、10年後に大きく発展しているでしょう。女性起業家も、まだ少ないからこそ希少価値があり、5年後、10年後に事業が大きくなることを確信しています」

 働く環境が良くなれば、女性を含めた今まで働けなかった人が働けるようになり、労働人口が増える。生産性が上がれば、賃金も上がる。GDPを労働人口×賃金とすれば、働き方の改革はGDP増加にも貢献する。

 矢澤氏の投資家としての目線や支援のスタイルには、サムライインキュベートと米国Plug and Playでの経験が大きく影響しているそうだ。

「当時のサムライインキュベートの投資志向はすごく独特でした。市場の大きさにこだわり過ぎず、課題があればしっかり投資する、という価値観を学ばせてもらいました。Plug and Playでは日本支社を立ち上げてCOOも経験し、ゼロからの事業の立ち上げ方、組織の作り方、グローバル投資の基準などを学びました。大きいのはリーダーシップを学べたことです。私は本来、リーダーシップをとるタイプではなく、サポートが向いていると思ったからVCを始めたのですが、COOになったからにはリーダーシップを取らないといけない。この経験があったからこそ、自分でVCの立ち上げを決断できたと思います」

知財だけでなく、業界ならではの法規制にも注意

 矢澤氏の支援する起業家は、最初から知財を意識していることは少なく、投資先には積極的に知財を取るようにアドバイスしているそうだ。

「スタートアップは知財を意識した事業、プロダクトづくりをしてほしい。取れるかどうかわからなくても、専門家に相談すると違う角度から取れることもあるので、少しでも可能性があれば、なるべく早く出願することが重要です。最近は、技術革新やトレンドの変化が激しく、知財をどうやってつくり、守っていくのかの見極めが難しくなってきているように感じます。最近であればWeb3、今は生成AIといった知財をどう扱うべきなのか、私自身も模索しているところです」(矢澤氏)

 特定業界向けのDX事業では、法規制や個人情報の取り扱い、生成AIを使う場合の著作権などの問題もある。特許や商標を押さえるだけでなく、それぞれの領域に詳しい専門家と連携しながら、ビジネスモデルに違法性がないかも精査しているそうだ。

女性の働き方が変わると、男性の働き方も変わる

 最後に、日本のスタートアップエコシステムの課題と矢澤氏が目指す将来像について伺った。

「数年前に比べて、圧倒的にプレーヤーが増え、お金の流れも大きくなり、スタートアップが成長しやすい環境になってきています。一方で、ドメスティックな企業が多く、グローバルにチャレンジするスタートアップが少ないのが課題だと感じています。

 また、大企業によるM&Aが少なく、あったとしても小規模です。出口がIPOだけだと、起業のインセンティブが落ちてしまうので、大企業にはもっとM&Aを活用する仕組みをつくっていただきたいです。例えば、2020年に「ZOZOTOWN」を運営するZOZOが2018年創業のアパレル企業yutoriを買収したケースのように、M&A後も起業家が引き続き役員として残り、事業を継続する事例が増えてくるといいですね」(矢澤氏)

 多くの課題はあるが、悲観はしていないという。

「女性のベンチャーキャピタリストも増えていますし、私のようにVCを立ち上げたいという女性もいらっしゃいます。日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)のように、目標を設定して動いている流れもあり、きっとこれからさらに変わっていくでしょう。

 一方で懸念しているのは、積極的に女性が活躍できる流れに対して、賛同する人と否定する人が二極化していることです。ダイバーシティや女性活躍の実現は、否定的な声に引っ張られずに、数を増やす取り組みを達成できるかにかかっています。女性が活躍できていないのは、バッターボックスに立っていないから。場数が増えればやり方がわかってきますし、活躍できる女性は必ず増えていきます。その先には、女性が働きやすい環境があり、プライベートと仕事を両立して、キャリアをまっすぐ進める世界観があると思っています。

 女性の働き方が変わると、男性の働き方も変わります。これまで女性が家にいて、男性が子育てに関われないのはとてももったいないこと。育休を取りやすくなり、男性も子育てを楽しめるのは、絶対に必要なことだと思います。女性が活躍することで、男性も生きやすい社会になるのではないでしょうか」

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