「投資額を増やしてもいい」デジタルヘルスが多数。ヘルスケア領域スタートアップがピッチを繰り広げた HVC KYOTO 2023
「HVC KYOTO 2023」レポート
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実用性が高いデジタルヘルス技術が多数採択
全体的な印象として今年はデジタル技術の活用が実用的で、ビジネスにつながる可能性が高いものが採択されていたように感じる。例えばJETRO賞を受賞した広島大学病院以外にも医療デバイスを開発する会社が複数あった。
鹿児島初メディカルデバイススタートアップの株式会社サーモンテックは低コストで汎用性が高い超音波センサーを開発している。AMI株式会社は心音をデジタル化する手のひらサイズの「超聴診器」を開発しているように、いずれもリモートで使用できる低価格で利用しやすい機器を開発している。
また、東京大学発スタートアップの株式会社commissureは、触覚フィードバックを備えたIoTデバイスとアルゴリズムにより、遠隔のリハビリテーションを可能にする機器を開発中だ。同じ遠隔リハビリテーションのシステムでは、VRを使用したユニークなリハビリテーション機器「カグラ」を株式会社mediVRが開発。すでに福祉施設やリハビリテーションセンターなど73施設で導入され、年末までにFDAの承認を受けることを目指している。
アプリで治療を行うデジタルセラピューティクスも複数採択されており、女性の更年期障害をケアする株式会社YStoryのアプリはAppleストアでの配布を始めている。IMPUTE株式会社が開発するASD(自閉症スペクトラム障害)向けのセラピーアプリは米国で保険認証を受けているそうで、日本でも保険申請を目指している。
バイオテック部門ではiPS細胞由来の膝関節インプラントを開発するArktus Therapeautics、新規経鼻ワクチンなどの開発に取り組むバイオコモ株式会社、台湾で免疫チェックポイント阻害薬などを開発するAnbogen Therapeautics, Inc.、免疫制御というアプローチで自己免疫疾患やがんなどを治療する治療法を開発するレグセル株式会社、フェロトーシスならびに酸化脂質をターゲットとした医薬品の開発で熟児網膜症の早期治療や加齢性疾患の治療に取り組む株式会社フェリクスらが登壇した。
いずれも審査員からは市場性や技術力が評価されていたが、希望する投資額を増やしてもいいのではないかというコメントがしばしば聞かれるのが気になった。日本のスタートアップは世界に比べて投資額が少ないといわれるが、資金面に関するサポートが少なく、研究者自らが事業を担当していることも問題の要因ではないかと感じた。
バイオテクノロジーやメディカルテクノロジーを取り巻く状況はCOVID-19の影響もあり、大きく変化し続けている。今年のHVC KYOTOについて、リードアドバイザーを務める京都大学医学部附属病院先端医療研究開発機構の小柳智義氏は、「全体的にデジタルヘルスに関する内容が多く、医療現場での経験を積んでいるスタートアップが増えており、コミュニティが様変わりしていると感じる」とコメントしている。
京都リサーチパーク株式会社代表取締役社長の門脇あつ子氏は閉会の挨拶で「起業志向が高いヘルスケア領域のスタートアップや研究者らを海外展開含めてサポートするイノベーションプラットフォームとして、より多くの方たちと連携を深めていきたい」と述べ、プログラムを締め括った。再びリアル開催に戻り、密度の高い交流や情報共有の機会が設けられた本会が次回にどうつながっていくのか、今後も注目していきたい。
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