人の縁をつくるきっかけがスタートアップエコシステムに必要
堺市「中百舌鳥イノベーションシンポジウム2」レポート~人と縁がつなぐ地域活性のスタートアップエコシステム~
地域のスタートアップエコシステムに必要なこと
野崎:スタートアップを立ち上げるときには人・モノ・金が必要だと言われるが、皆さんが地域のスタートアップエコシステムに必要だと思うことをお聞かせください。
それと、堺市はこういうところが良かったといったことがあればそれも付け加えてお伺いできればと思います。
田中:行政の方が携わるエコシステムって、基本的に箱とか場を提供することに終始しているように感じます。助成金も工事費の一部として使われるといったことが特に地方に多い。私はもっと日本らしいコミュニティづくりということを突き詰めて考える必要があるのではないかと思っています。
例えば米国ではマンションごとにFacebookページがあって、今日パーティしようぜとなったらみんな集まってくる。でも日本人って隣の人と触れ合いたくない。私がやっているRe:ZONEでも、特にフリーランスの方は隣の人との触れ合いは嫌だと言っています。なぜそういう違いが生まれるのかを突き詰めて考えると、やはり日本には伴走型の支援の方が合うのではないかと思うようになりました。それを地域の特性に合わせて変えていくことがスタートアップエコシステムを成功させる要因、キーワードなのではないかと思います。
野崎:やはり見てわかるものに予算が付きがちで、ソフトとかコミュニティには予算の付け方が難しかったりするという話をよく聞きます。田中さんのおっしゃる通り、私が住んでいるマンションでも隣の人との関係性はほとんどありません。Facebookページがあって常に仲良くというスタイルが良いかどうかというのは確かにありますね。
野崎:伴走型の支援というのは具体的にどのようなものになるのでしょうか。
田中:会社と会社を繋ぐというのはかなり難しいことと私は思っています。本質的、構造的にそれぞれの事業を見てつながないといけない。それをできる方、そういう絵を描ける方というのは相当経験値を積まれた方でないと難しい。お金を調達するにしても会社や人を繋ぐにしても、実務家の方が伴走していく、例えば上場会社の社長がメンターにつくといったようなことが必要ではないかと思います。
野崎:堺市のサポートで、ここが良かったといった点はありますか。
田中:堺市の方は皆さんベンチャー育成やベンチャー創出に対して前向きで、S-CubeにRe:ZONEを入れていただいた際も私たちに実績があまりない中で採択していただいた。スタートアップに対して非常に前向きに取り組んでおられるところが、また一緒にやりたいと感じたところでした。
野崎:高尾さんはいかがでしょう。地域のエコシステムに必要なことをお聞かせください。
高尾:私どもの扱っている塗料というのはどこでも使えるものなので、もっと使っていただきたい。ですから是非もっとマッチングとか事例を一緒に増やしていただくとかをお願いしたい。
あと例えばこの製品は堺市のお墨付きです、サステイナブルです、といったような営業活動に使えるような承認システムがあってもいいかなと思います。
野崎:そういう信頼性担保のシステムがあるとグローバルに出た時も成長速度が速くなったりしますね。あと堺市のサポートで、ここが良かったといったことはありますか。
高尾:タイで遮熱断熱塗料事業をやっていた時、光触媒と一緒にするというアイデアはあったのですが、どうやってそれを実現するかはわかりませんでした。当時社長をしていた母親に相談したところ、堺市の方を通じて大阪公立大学の先生を一緒に開発してみてはどうかと紹介していただきました。その時の開発費用も堺市さんが負担していただけましたし、それは一生感謝しています。
ただ、それは一旦終了しているので、改めてまた一緒にやらせていただきたいなと思ってもいます。
野崎:木村さんはいかがでしょうか。
木村:広島県の方々とは伴走というより本当に我々のチームメンバーのようにカジュアルなコミュニケーションを取ることができています。ですから我々が目指している先というものを共有で来ていると感じています。
また、県をハブにして地元の事業者や学校とコンタクトさせていただきました。例えば広島商船高等専門学校とは自律航行船の共同研究契約を締結しています。その結果、10人くらいの学生さんが我々の欠かせないメンバーとしてプロジェクトに参画してくれていて、むしろ彼らが主導的に回しているくらいになってきています。
学校の側からも我々が常日頃から感じていることを学生さんにフィードバックするという授業を実施させていただき、非常に良い関係を築けています。その中で1人の学生さんが起業をしたいと相談してくれて、起業家仲間になってくれるような方が出てきてくれたということは非常に良かったと思っています。
野崎:実際に会社を立ち上げてから、スタートアップってこんなに大変だったんだとわかるということが多いと思いますが、初めからプロジェクトを一緒にやっていると、しんどいところももちろん楽しいところも一緒に経験ことになりますし、すごく良いエコシステムですね。
木村:そうなると注目度も上がってきて、周りにサポートしたいと言ってくれる人も増えてくる。スタートアップで一番苦労をするのは資金調達だと思うんですが、特に地方は絶対数が少なかったりして調達しづらいという部分がある。そういったものの一助になればと思っています。
これから起業する方に向けてのメッセージ
野崎:最後に、皆さんが取り組まれている社会課題の解決に向けて、スタートアップだからできることとか、今後起業される方に向けてのメッセージなどいただけますか。
高尾:例えばFemTechであったりITであったりメディカルであったりと、今いろんなフィールドで社会的貢献が問われていますが、まずは皆さんが取り組んでいることが社会のため地球のためになると信じてあきらめず進み続けるということが何よりも大切だと思っています。自分を信じてあきらめないということを貫いてください。私もそれで頑張ってここまで来ています。
野崎:ありがとうございます。いろいろとご苦労されてきた高尾さんだからこそというすごく重みのある言葉ですね。続きまして田中さんお願いします。
田中:岸田さんもスタートアップ元年にすると言っていますし、お金も借りやすいし態勢も整ってきています。若い方には是非チャレンジして欲しいと思っています。
あと堺市については思うことがあるんですが、堺市は貯蓄額が大きい割にGDPが小さい。それはすごく大きな問題だと思っています。経常利益をずっと何億も出していて、売り上げ規模もずっと同程度に保っている。そんないい企業が堺市にはたくさんある。それは素晴らしいことだけど、もう少し若手に機会を与えて欲しい。
ただこれは行政に対してだけ言うことではなくて、民間企業も連携して取り組まなくてはいけないこと。そうしないと堺市も成長していけない。堺市にはポテンシャルがあるので、私自身ももっと連携を拡げていきたいと思っています。
野崎:これから起業する方へのメッセージはありますか。
田中:堺市はお金も借りやすいですしチャレンジしない手はないと思います。もともと日本はチャレンジしてダメでももう一回再帰もできる。もっと人を巻き込んでどんどんチャレンジして欲しいと思います。
野崎:最後に木村さんからメッセージをお願いします。
木村:我々起業家ができることとは、「社会的課題を世の中に知らしめていくこと」の一つに尽きると考えています。それぞれの方が頭の中で考えている課題というものは、多くの場合既に誰かがそれを解決するための手段とかに取り組んでいる。だからこそ自分の中で一番心に響くもの、これを絶対自分の人生で解決したいんだという何かを見つけて欲しい。それを世の中にしっかり発信していけば、潜在的にその課題に感じるものを持っていた人たち、仲間は必ず集まってきます。
仲間が集まってこの事業を実現できるという算段が立てば、それに対するお金のサポートなどは非常に受けやすくなります。だからまずは本当に自分の情熱を燃やせるようなものを見つけることが大事です。そのことで困っている人がいるんだということを世の中にしっかりとアピールしていけば、きっと面白い事業を生み出すことができます。あとはそれをやり抜くだけです。
野崎:最後に熱いメッセージをありがとうございます。このセッションを通して皆さんの堺市への想いや、一緒に堺市の課題を考えて良くしていこうという気持ちがひしひしと伝わってきました。堺市と起業家、行政とスタートアップの関係の良さが感じられて、私自身勉強になりました。ありがとうございました。
2022年度の堺市によるイノベーション創出への取り組みの総決算となったシンポジウムの様子をお届けした。堺市には先進的な行政の支援、分厚いアカデミアの存在、立地に恵まれた地元企業が持つ活力という産官学連携インフラがある。そしてそこから生まれるスタートアップエコシステムが堺市のイノベーション創出基盤としてそのポテンシャルを発揮しつつあることが伝わってきた。
この取り組みは昨年度で終わるものではなく、2025年の大阪・関西万博を越えて少子高齢化に悩む堺市の処方箋になることが期待されている。堺市が生み出す更なるイノベーションの創出に注目していきたい。