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大阪公立大学教員、学生ら10名による社会実装を目指すアイデアピッチ

教員/研究者、学生/卒業生によるピッチイベント「第1回 イノベーションアカデミー」レポート

特集
堺市・中百舌鳥の社会課題解決型イノベーション

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 今回の「イノベーションアカデミーワークショップ」では5人の大阪公立大学教員と5人の学生、卒業生によって、アカデミア発の技術力と学生の発想力が新産業を生む社会的課題の解決を目指す10のアイデアピッチが行なわれた。それぞれの概要とアドバイザーからのコメントを紹介する。

「微生物センサーで食の安全を守る」
大学院工学研究科 物質化学生命系専攻 教授 椎木 弘氏

 2021年の国内での食中毒の発生は700件を超えており、被害者は1万1000人以上となっている。スーパーマーケットや総菜工場では独自の衛生管理システムを開発、運用しているが、判定までの時間や検査コストがかかりすぎるという課題を抱えていた。そこで椎木氏は独自の微生物センサー「eBacSens」を開発し、人件費や時間などの削減、食の安全レベルおよび商品価値の向上を実現した。

大阪公立大学 大学院工学研究科 物質化学生命系専攻 教授 椎木 弘氏

 従来の検査手法(培養法)では、検査結果が判明するまでに菌種ごとに1日を必要としており、出荷前に結果を得ることができなかった。人手も多くかかっており、大手スーパーなどでは年間6000万円のコストがかかることもあった。さらに培養法ではノロウイルスを検出することができなかった。

「eBacSens」ではノロウイルスを含む複数の菌とウイルスに対して30分で一括検査を行なうことができる。出荷前に検査結果を得ることができるため、汚染された商品を出荷することがなくなる。検査内容も簡単であるために人件費やランニングコストを大幅に削減することができる。

「我々の強みは金属、高分子のナノ粒子の製造技術にある。ナノ粒子を標識として用いることで安定した光学、電気信号を得ることができる。これにより菌とウイルスの種類を区別できるようになり、その数も計測できるようになった」(椎木氏)

 今後は、まず大手スーパーや総菜工場へのセンサーの販売を進め、続いて中小スーパーや総菜工場に対して簡便なパッケージを安価に販売していくとしている。知財も取得済みで、すでにいくつかの企業とも契約を締結しており、早期の事業立ち上げが期待できる。

アドバイザーからのコメント
 今のシステムでも十分事業になると思うが、測ろうと(作業を)しなければ測れない。これが常時連続的に計測できるようなシステムにならないか。それができれば世界が変わると思う。将来が非常に楽しみだ。

「見守り電子皮膚~遠隔、無線、多検知センサシート~」
大学院工学研究科 電子物理系専攻 教授 竹井 邦晴氏

 急速に進んでいる日本の高齢化により、若い世代が遠隔地から両親や祖父母の見守りを行いたいという要望が出てきている。竹井氏はこれを解決するために、皮膚のように柔らかく、かつ多くの情報を一括計測できる「電子皮膚センサシート」を開発した。

大阪公立大学 大学院工学研究科 電子物理系専攻 教授 竹井 邦晴氏

 現在市販されている時計型のウェアラブルデバイスでは常時計測できるバイタル種が限られており、健康管理や遠隔見守りを常時行うために用いることができない。竹井氏は無機ナノ材料を大面積形成し、デバイス化する独自技術を持っている。これを応用して絆創膏のような貼付型のセンサシートの開発を進めている。

 このセンサシートは複数のデータを一括取得できるセンサーを無機ナノ材料によって柔らかいフィルムの上に印刷形成したもので、スマートフォンのアプリを利用すると、心電図や活動量を常時計測することが可能となる。

「センサー構造を最適化することによって、日常生活の活動レベルではノイズがなく、安定してバイタル情報を計測することが可能になった。歩きながら心電図を測ることもできるし、軽いジョギング程度であれば安定して心電図を計測できる」(竹井氏)

 温度、湿度、歪みなど多くの情報に関するセンサーについて特許を取得、申請している。これらの技術を用いて見守りデバイスを開発し、誰でもどこでも簡単で安価に利用できる遠隔見守りシステムの開発へとつなげていきたいとしている。

アドバイザーからのコメント
 デバイスを開発することと並んで、得られたデータを分析することも非常に重要なテーマだと思う。ウェアラブルデバイスのメーカーには情報が集まっている可能性があるから、一度話をしてみて欲しい。また飛行機の羽根や橋脚など、(それにかかる負荷などが)計測できないためにオーバースペックに作っているものに対して、このセンサーシートなら使えるという状況もあるのではないか。多くの人を巻き込んでこの技術を広めて欲しい。

「過酷環境で使用できる静電気検知技術の開発」
大学院工学研究科 電子物理系専攻 准教授 高橋 和氏

 宇宙産業は今まさに急速に伸びつつある産業分野だが、昔から静電気に起因する事故に悩まされてきた。宇宙空間で人工衛星などを守る静電気対策を適切に実施するためには、まず静電気の状態を測定する静電気センサーが必要になる。高橋氏は宇宙空間でも利用可能な帯電計測デバイスの開発を行なっている。

「宇宙空間は真空と思われているが、実は気体分子が存在しており、それらが太陽風や地球磁場によってプラズマ化、帯電している。また高エネルギー線というものもあり、それらによって人工衛星が帯電する。ひとたび帯電すると空気が薄いために放電しにくく、基本的に宇宙空間は静電気事故が起きやすい環境だということができる」(高橋氏)

大阪公立大学 大学院工学研究科 電子物理系専攻 准教授 高橋 和氏

 地上においても産業施設における火災の15%が静電気によるものといわれており、それらを防ぐために静電気検知機器が開発されている。しかしながら、それらの多くは電気を用いており、爆発を誘発する恐れがあるために化学工場など爆発危険空間では使用することができない。また放射線にも弱いので原子炉内や宇宙空間で使うことができない。

 そこで高橋氏は電気技術の代わりに光技術を用いることにより、宇宙空間でも利用可能な静電気検知装置の開発を進めている。その技術の核となるのは高橋氏が以前から研究を行ってきた超小型シリコンラマンレーザーで、これに静電気を当てるとレーザー発振が停止するという特性を用いて静電気を検知する。

 今後、アルテミス計画を始めとする宇宙開発の進化に伴い、日本企業が得意とするエレクトロニクス製品を宇宙に持っていく機会が増えていくと考えられる。その際には静電気対策が必須の技術となることは間違いない。高橋氏は光技術を実用化した静電気検知モジュールを出発点に、Space Silicon Photonicsという新たな産業分野の開拓に乗り出そうとしている。

アドバイザーからのコメント
 帯電を検知した後、それを放電するところがビジネスで非常に重要になる。是非その技術を開発して欲しい。また、宇宙という特殊な実験環境を他の宇宙ビジネス企業に提供する実験環境サービスというのも成立するのではないか。(アドバイザーも)仲間づくりで協力していきたい。

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