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大阪公立大学教員、学生ら10名による社会実装を目指すアイデアピッチ

教員/研究者、学生/卒業生によるピッチイベント「第1回 イノベーションアカデミー」レポート

特集
堺市・中百舌鳥の社会課題解決型イノベーション

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「都市の新しい食糧循環システム~生ごみがエネルギーと食料に~」
大学院生命環境科学研究科 緑地環境科学専攻 D2 佐久間 哲氏

 日本はOECD各国と比べるとごみのリサイクル率が非常に低いとされている。特に大阪府はリサイクル率が低く、年間約57万6000トンの生ごみが焼却されている。佐久間氏は微生物を利用して生ごみをメタンガスと液体肥料に変換する技術を研究しており、これを活用して家庭内でできる食糧循環システムの構築を提案している。

大阪公立大学 大学院生命環境科学研究科 緑地環境科学専攻 D2 佐久間 哲氏

 家庭内で出される生ごみをメタンガスと液体肥料に変換するモジュールを開発し、メタンガスは化石燃料を代替し、液体肥料は家庭菜園で活用する。これにより家庭から出るCO2を削減するとともに、菜園によるCO2吸収力を得る。これを大阪府の全家庭に導入すると、年間で石油火力発電所1.3基分に相当するCO2を削減することが可能となる。

 このモデルは究極のエネルギー地産地消モデルと捉えることもできるため、災害時のインフラ確保の側面も併せ持つ。また、月面基地など閉じた空間での資源循環にも有効なアイデアとして期待されている。

アドバイザーからのコメント
 嫌気性分解を家庭に持ち込もうとすると、臭いの発生など管理を徹底する必要が出てくる。メタンガスの利用のために嫌気性分解を使うなら、収集のための機材など、費用的な側面も解決しなくてはならないだろう。

「あなたと毎日、家庭教師プラットフォーム」
生命環境科学域 理学類 B3 竹森 洸征氏

 中学や高校に通う学生は成績向上のために自宅での学習が必須である一方で、モチベーションの欠如や集中力の低下などの課題に直面している。そこで竹森氏は塾での教師経験や家庭教師としての経験から得られた知見に基づき、「毎日」、「短時間」、「先生と一緒に」勉強を進められるプラットフォームを開発している。

大阪公立大学 生命環境科学域 理学類 B3 竹森 洸征氏

 このシステムでは、学生と先生を毎日10分間オンラインでつなぎ、生徒ごとに用意された問題の添削解説や、学校や塾で出された問題への指導を行なう。

 これにより生徒は短時間に高い集中力で勉強に取り組むことができるうえ、先生から適宜フィードバックを受けることができるために孤独感を感じることがなくモチベーションを維持できる。また、先生側にも自分の空き時間で効率的に働くことができ、かつ高い時給を得ることができるというメリットがある。保護者にとっても、単価の高い家庭教師に比べて試しやすい価格で塾の補助機能を得ることができる。

 現在はプロトタイプを試作して4人が使用中だが、今後は広くユーザーニーズ調査やユーザーの獲得について意見や協力を求めたいとしている。

アドバイザーからのコメント
 家庭教師をやった経験からこのようなサービスが必要だと考えたとのことだが、このサービスの肝はシステムではなく、生徒に常に伴走してくれる先生の存在だと思う。それなら新たなシステムを開発するのではなくZoomを活用するのでも良いのではないか。今後は先生も生徒も増やしてデータが蓄積されてくると面白い結果が出てくると思う。

「鳳ちぐさのもりプロジェクト~つながりからできる相互安心生活システムデザイン~」
大学院看護学研究科 看護学専攻 M1 蔭西訓子氏

 ちぐさのもりは2014年、大阪府堺市鳳駅前商店街にある、さまざまな人が集う「居場所」としてスタートした。しかしながら活動主体となっていたクリニックが医療法人であるため、コロナ禍により大人数での活動が制限されてしまうこととなり、独立した「鳳ちぐさのもりプロジェクト」として活動再開することとなった。

大阪公立大学 大学院看護学研究科 看護学専攻 M1 蔭西 訓子氏

 高齢者の幸福度の向上やうつ・認知症リスクの低減に地域活動が効果的であるとされている。「鳳ちぐさのもりプロジェクト」はこの考え方に基づいて、誰もが心身ともに元気に住み慣れたまちで暮らすことのできるシステムをデザインすることを目指している。

 本プロジェクトの抱える課題は活動資金であるが、それを自力で獲得するために、これまでプロジェクトに参加してくれた多くの人たちを人財として活用することとした。まずプロジェクトが主体となってイベントを企画、運用し、そこにこれまでの活動への参加者を招く。そしてイベントの様子などをSNSなどにアップすることにより、参加者の家族に参加者の様子を見てもらい、プロジェクトへのフォロワーを増やしていく。

 フォロワーが増えればそれを用いた仕事(商品モニタリングやアンケート調査など)を企業から受託することができるので、これをプロジェクトの活動資金とする。活動資金の一部は参加者に給与として支払い、(特に高齢者の)自己肯定感の充足やいきがいの向上を実現する。

 3年後をめどに法人化を目指しているが、まずは足下でまちの保健室やまちライブラリーの運営と並行して、特技を生かした講師企画や日替わりカフェオーナーなど、持病や障がいがあってもチャレンジできる場を生み出していきたいとしている。

アドバイザーからのコメント
 もう少し具体的なアクティビティが描けるとNPO的な予算を引っ張ってくるなどしてスケールさせることもできると思う。自治体との連携も有効だろう。ただ現在の3人で回していけるのか、仲間づくりが大事になる。学びにもつながるし、良い意味でのクラブ活動的な形で看護学科の後輩を巻き込むとかしても良いだろう。

「ねこちゃんに教えてあげて~教える立場を逆転させたオンライン個別指導~」
商学部 商学科 B4 古川 寛美氏

 古川氏は個別指導塾でこれまで2000人以上の学生(主に中学生)を指導してきた。その経験から、理解が浅くテストで問題を解けない、どこがわからないのか把握できていないなどの課題を中学生が抱えていることがわかった。これは学校や塾が提供する従来型の学習だけでは生徒の理解が十分深まっていかないということを示している。

大阪公立大学 商学部 商学科 B4 古川 寛美氏

 そこで、古川氏はこの課題を生徒が「他者に教える」というプロセスによって解決しようと考えた。具体的には、スマートフォンのチャットアプリに現れる「ねこちゃん(講師が扮するアバター)」がわからない問題を提示し、生徒ユーザーがその解き方をねこちゃんに教えてあげるというサービスを提案している。

 中学生は普段教えられる立場であるが、受動的な学習ではモチベーションも上がらず本来の学習効果が得られない。このサービスは自分が教える立場となることによって、自然にカリキュラムを理解しようという意欲を持たせることを狙っている。自分で説明することによって理解を深めるだけでなく、(わからない箇所があれば)どこがわからないのかを把握することもできる。そうすると改めて講師に質問してわからないところを解消することができるようになる。

 保護者100人にアンケートを取ったところ、その61%からこのようなサービスを子どもに利用させたいとの回答を得ている。アプリの設計など越えるべきハードルはまだ高いが、子どもたちが能動的に学びに取り組むようになるサービスは多くの保護者・生徒のニーズにマッチすると期待できる。

アドバイザーからのコメント
 教えることは学ぶこととよく言われるが、何をどのように教えていくか、そのコンテンツ作りが非常に難しい。またオンラインで教えあう相手にねこちゃんがふさわしいのかという点もある。しかし自らの経験に基づいた着眼点は良いし、それを上手くビジネス化していると思う。頑張って欲しい。

ポスターセッション&閉会の挨拶

 10人の教員/研究者、学生/卒業生によるピッチの後、講演会場の外に設けられた特設ブースでポスターセッションが催された。ピッチが終わったばかりの登壇者に直接質問をぶつけることができるため、それぞれのプレゼン概要を記したポスターの前には多くの参加者が詰めかけていた。

ポスターセッション会場

登壇者と参加者の間で熱心な質疑応答が交わされていた

 閉会の挨拶において、大阪公立大学 副学長(高度人材育成)/高度人材育成推進センター長 教授の松井利之氏は「イノベーションを基軸に、地域の経済や世界の経済にどのような貢献ができるかを考え、イノベーションアカデミーという組織を立ち上げた」と話している。

 そのイノベーションアカデミーが開催した本ワークショップは単なるピッチイベントではありえない。これは大阪公立大学が「知の拠点」として広く学外との関わりを深めていくという宣言であり、さらに世界に対して発信を行うイベントになることを狙っている。

大阪公立大学 副学長(高度人材育成)/高度人材育成推進センター長 教授 松井 利之氏

 教授陣にとっては学外の多様な知見を持つ方々との出会いの場であると同時に、その研究成果を社会実装へとつなげる機会となる。そして学生にとっては自らの未来を活力あるものとするために、次の一歩を踏み出す勇気を得る場となるだろう。

「イノベーションアカデミーワークショップ」は今後も継続開催が予定されており、さらに内容が充実してくることが期待される。ますます熱気を帯びる大阪のイノベーションに触れたいと思うビジネスパーソン、起業家、投資家たちはぜひ大阪公立大学に注目をしてほしい。

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