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「ロボットフレンドリー」な環境の実現に向け、官民のキープレーヤーが実証の成果と知見を講演

「自動配送ロボのラストワンマイルシリーズ04」レポート

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三菱商事「筑西市における配送ロボサービス実証事例紹介」

 最後に登壇した三菱商事コンシューマー産業グループ食品流通・物流本部戦略企画室シニアマネージャーの高橋法夫氏は、「筑西市における配送ロボサービス実証事例紹介」についてプレゼンテーションした。詳細な報告は示唆に富んでいた。

三菱商事 コンシューマー産業グループ 食品流通・物流本部
戦略企画室 シニアマネージャー 高橋法夫氏

 三菱商事は独自で配送ロボットを実証実験するため、2020年に候補地となる自治体を探り、岡山県玉野市と茨城県筑西市で準備を進めていた。2020年5月14日に開かれた首相主催の「未来投資会議」で政府の成長戦略案件として自動配送ロボットが指名され、成長戦略案件となった5件うち2件を三菱商事が担った。2020年11月に玉名市の実証実験をファーストステージとし、セカンドステージとして2021年4月に筑西市で行なった。

 筑西市の人口は現在9万9000人で産業は農業中心。耕作地を挟んで集落が独立しており、集落と集落を結ぶ交通が不便だ。人口が減って高齢化が進み、新たな交通手段や配送に関心が高かった。日本初の「農業分野でのロボット活用」を想定して、国道50号バイパス沿いで北関東最大級とうたう道の駅「グランテラス筑西」の敷地内とその近隣にて実験した。

 施設の産直スーパーには近隣農家が農作物を納品していて、1日に何度も軽トラックで届けるのが大変だ。その集荷にロボットが向かい、産直スーパーまで運ぶ実験をした。商業施設のテナント商品を近隣の個人宅に届ける配送実験もした。期間は2021年3月29日から4月14日までの土日を除く12日間。新たな交通参加者となるロボットが受け入れられるのかの社会親和性も探った。

 実証実験では三菱商事が全体を統括し、東京海上日動火災保険が緊急時やトラブル予防体制を、三菱地所がロボット運用を助言した。遠隔操作の設定や実験を株式会社ティアフォー、高精細3次元地図作成をアイサンテクノロジー株式会社、ルート最適化AI技術を株式会社オプティマインドが提供した。ティアフォーは東京オリンピックの選手村で無人バス運転システムを担った企業だ。4G-LTE通信環境の確認はKDDIが担った。

 ロボットは公道用「Logiee S」と、施設のバックヤード向け「Logiee SS」の2台を使用。ともにティアフォーが開発したマシンだ。当初、人目に付かぬ所での利用を前提としている「Logiee SS」には子供たちが近づかなかったので、筑西市のキャラクター「ちっくん」の人形を乗せたところ「マシンに体当たりするかのごとく人気になった」(高橋氏)。

 配送ルートを最適化して複数の荷物を集荷し複数個所に運べるかどうかが、実験の成否を握る。「ルート最適化技術」の活用では、オプティマインドのシステム「Loogia(ルージア)」を使用。配送情報を入力し指示するとAPI連携でロボットにつながり自動で走り出す。荷物のピックアップポイント6カ所、ドロップポイント7カ所を設定し、配送先や時間指定、左折優先、右折Uターン回避、通行回避道路などの制約条件を反映する最適化アルゴリズムを試した。農作物集荷とテナント商品配送の2つの実験とも公道1.5キロ、私道0.5キロの計2キロを走った。

 農産品の集荷業務では、スマートフォンを活用して注文から荷物の確認を構想。しかし、農作業をする屋外でのスマホ操作は画面が光って視認できないため、コールセンターを介して電話音声で確認した。集荷に向かったマシンにはカメラとマイクがあり、オペレーターが親切に話しかけて分かりやすいと好評だった。

 筑西市での実験でロボットは公道を走った。改正道交法ではロボットが「みなし歩行者」となることについて高橋氏は、「歩行者は右側通行で車両は左側。ロボットが右側を走り、スピードを出した車両とすれ違った場合のリスクが潜在的にある」と懸念する。

 社会インフラの対応で足りなかったのは、公衆回線の通信環境だった。場所によっては電波環境が悪く、通信が遅延すると、遠隔操作画面がフリーズする。情報が送られてきた時点でロボットがその情報よりも何メートルも先に進んでいれば事故リスクが高まる。通信キャリアには高速通信の5G環境の普及促進と安定性の担保に取り組んでもらわなくてはならない。

 筑西市ならではの課題として、ロボットの自己位置推定能力がクローズアップされた。平らで遠くまで見渡せるような地形では似たような地形が続き、ロボットは今どこにいるのか推定する能力が鈍る。そのため、間違って認識すれば誤作動につながる。「カメラやLiDARの精度が重要になる」と高橋氏は指摘した。

 EV(電気自動車)同様バッテリー性能も課題だ。使用したロボットは2時間しか走れず、サービスも2時間で往復できる範囲に限られてしまう。「バッテリーの容量を増やして長距離を走れるようにしないといけない」と高橋氏。また、障害物の回避機能や登坂性能も課題で、現状では6度を超える斜度の坂道を進むのは難しく、技術開発が待たれる。

 会場参加者との質疑応答で「バッテリー(による駆動時間)をどのくらい想定するか」問われた高橋氏は、「1回の充電で終日走れるのが理想。夜に充電して翌日は充電なしで仕事ができる。10時間あるといい」と話した。バッテリーをモジュール化し、簡単に交換するだけで次の配達に行ける機体の開発にも期待感を示した。

 事業化の将来像について高橋氏は、サービスエリアを限定し、そのエリアが複数ある形をイメージしている。質疑応答で「おおよそコンビニの商圏に重なるエリアと想定し、この中にマシンを2台投入する物流量があるかどうか」と答えている。産業化まで見据えれば、ドローンとの連携や遠隔監視操作者の地元育成、障害者雇用、観光活用など地方創生の可能性があるという。

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