メルマガはこちらから

PAGE
TOP

「ロボットフレンドリー」な環境の実現に向け、官民のキープレーヤーが実証の成果と知見を講演

「自動配送ロボのラストワンマイルシリーズ04」レポート

特集
ASCII STARTUP イベントピックアップ

1 2 3 4 5 6 7

QBIT Robotics「新たな配送サービスの実現に向けた技術開発」

 続いて登壇したQBIT Robotics 代表取締役社長の中野浩也氏は、森トラストの朝比奈氏が説明した実証実験をロボットシステム提供者側から「2020(令和2)年度配送ロボ事業実証事例」として、QBIT Roboticsが取り組んだ「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービスの実現に向けた技術開発事業」を説明した。

QBIT Robotics 代表取締役社長 中野浩也氏

 QBIT Roboticsは2018年1月設立のベンチャー企業で、企業のロボット導入支援やコンサルティング、サービス産業向けロボットパッケージ開発を手がける。ショッピングモール「渋谷MODI」のHIS渋谷支店のロボット店舗「変なカフェ」が2018年2月に営業を開始し、そのロボット開発で起業した。さまざまなサービスでのロボット導入や、POC(概念実証)・実証実験の実績を持つ。

 実験期間は2021年6月2日から7月2日。森トラストの「城山トラストタワー」(東京都港区)で、佐川急便と西濃運輸の荷物を運んだ。入居テナント5社が協力し、複数の自動搬送ロボットを統合管理して宅配荷物を館内で配送・集荷した。ドライバー用とテナント用のアプリケーションを開発して試し、エレベーター連携やセキュリティ付自動ドア連携でロボットが円滑に走行するかを実験した。

 ロボットは2種類。ひとつはSavioke社のRelay(リレー)というセンサーにLiDARを使うロボットで、Sサイズ荷物用として書類などを運ぶ。もうひとつは最近レストランに導入されているPudu社のPuduBot(プードゥーボット)で天井マーカーを頼りに走行する。荷室を改造して約50cm幅のプラケースを搭載し、Mサイズの荷物用とした。運用システムは「QBITロボットサービス開発基盤」を活用。さまざまなロボットサービスを短期間で実現できるプラットフォームだ。

 配送サービスでは、アームロボットを付けた「自動ロボット棚」を開発して荷さばき場に設置。物流業者が棚に荷物を入れると、自動的に配送ロボットを呼び出し、荷物サイズに応じてロボットを選択して、アームロボットが自動的に荷物を配送ロボットに積み込む。今回は、高層階と、荷さばき場の反対側にある店舗へ持っていくものとに分けて実験した。

 荷さばき場を出たロボットは、裏の導線を通って高層階まで荷物を運んだ。狭い通路や自動ドアと連携し、セキュリティも解除して通過する。エレベーター待機場まで来ると、エレベーターの呼び出しや、行先階の指定もロボットとシステムが連動して行ない、目的の場所の顧客まで配送した。

 一方、集荷では、集荷用アプリでロボットを呼んで荷物を預けた。時間指定は15分単位ででき、時間になるとロボットに自動的に電源が入り、集荷に呼ばれた場所まで向う。天井に1メートル間隔のマーカーを付け、そのマーカーを頼りにゆっくり走り、集荷の待機場所に到着したらテナント用タブレットの音声を鳴らして通知する仕組みだ。

 運んだ荷物は1カ月間で133個。Sサイズは自動でアームロボットが載せ、Mサイズは物流業者が手作業でロボットに積み込んだ。かかった時間は、集荷は高層階で平均10分。1階の低層階も10分ほど。配送も10~12分で往復できた。ただLiDAR制御のRelayが途中で止まるなどのトラブルがあった。エレベーターとの連携も完全にはうまくいかず、調整が必要だ。

 ロボット配送についてテナントにアンケートを取ったところ、コロナ禍での非接触が評価された。配達員に集荷を依頼するのは心理的な抵抗感があるが、ロボットだと気兼ねなく呼べることが好評だった。将来的な利用についても集荷は「ボタン1つで呼べるのがいい」や「書類ばかりなのでロボットで十分」などの意見が集まった。

 テナント以外の入居者アンケートも概ね好評で、「将来的に利用したいか?」にはほとんどの回答者が「あれば利用したい」と答えた。物流業者へのアンケートでは、将来的に館内配送がロボットになるかに関して「一部がそうなる」「半分ぐらいはなる」「多くはそうなる」と回答している。

 今回の実験データを基に、実際に取り扱っている荷物を1日で運びきれるかどうかをシミュレーションしたところ、「全部終えることは厳しいとわかった」と中野氏は話した。ロボットの台数を増やしても厳しく、1台に1個の荷物を運ぶ非効性に問題があるとみている。1回の配送で複数個の荷物を運べるようなロボットの開発はすでに終えているそうで、近く東京都内で実証が動き出す予定だ。

 会場参加者との質疑応答では、「館内配送では荷物の置き配がベストではないか」との問いに中野氏は、「最終的には配送では自動受取棚、もしくは置き配にする対応が必要だ。そうすれば夜中もずっと運ぶことが可能で配送効率も上がる」と答えた。

1 2 3 4 5 6 7

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー