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ルクセンブルクは宇宙ベンチャーに有利 欧州テックイベント参戦のメリット

ルクセンブルク「ICT Spring 2022」参加報告会

特集
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 欧州屈指のテックイベント「ICT Spring 2022」が2022年6月30日、7月1日にルクセンブルクで開催された。3年ぶりのリアル開催となり、日本からも数社のスタートアップが参加した。8月末、ルクセンブルク大使館で、ICT Springに参加した6社のスタートアップが参加報告会と題して、テックイベント活用や欧州進出について語った。

ルクセンブルクがスタートアップと相性が良いワケ

 ICT Springは2010年に初回が開催されたICTイベントだ。この間、ICTだけではなく、金融や宇宙などルクセンブルクがフォーカスする分野もカバーするイベントに発展している。日本との縁も深く、過去には楽天の三木谷浩史氏、日産自動車の福島正夫氏が基調講演に登壇している。2012年より日本のスタートアップ向け特別参加プログラムを用意していることもあり、多数の日本企業がブース出展、スタートアップピッチに参加している。

 そのICT Springを開催するルクセンブルクとはどのような国か? 報告会に先立ち、ルクセンブルク大使のピエール・フェリング(Pierre FERRING)氏が紹介した。

ルクセンブルク大使 ピエール・フェリング氏

 ベネルクス3国の中でも最も小さい国であるルクセンブルク、2568平方キロメートルの面積に約64万人が住む。一人当たりGDPは世界1位の約13万ドル 、これは日本の3倍以上だ。フェリング氏は、「ルクセンブルク政府が継続的に経済活動重視の姿勢を貫いたから。またテクノロジーに投資してきたから」とその理由を述べる。

 小国ならではの立ち位置の変遷も興味深い。1970年代は鉄鋼が主な産業だったが、それが金融を呼び、投資ファンド設置拠点として成功する。その金融からICTの必要性が生まれた。1980年代には「政府が起業家になった」とフェリング氏。宇宙衛星分野に投資をし(衛星通信のSES創業を支援)、メディア産業に活用されるようになる。そしてICTの必要性が生まれた、と流れを説明した。

 あわせて、人材ではオープンなポリシーをとることで優秀な人材を引きつけることに成功した。公用語はルクセンブルク語、それにフランス語とドイツ語だが、英語をはじめ様々な言語が行き交うという。

宇宙ベンチャーにはメリットが多い?

 そのルクセンブルクで開催されたICT Spring、2022年は3500人以上の来場者があったという。コロナ前は5000人以上だったことを考えると、まだ完全復帰とはいえないようだ。

 ルクセンブルク貿易投資事務所が開催する特別参加プログラムは、イベントの前後にもプログラムを用意する「3段活用プログラム」。イベント前日に日本大使館、アクセラレーター、楽天がルクセンブルクに構えるヨーロッパ本社、ispaceヨーロッパなどを訪問、イベントの後にはワイナリーを訪問してルクセンブルク政府関係者や地元企業のキーパーソンを招いた夕食会に参加できるというものだ。

 今年同プログラムに参加した日本のスタートアップは6社。この日は、そのうちの5社となるoVice、スペースシフト、SWAPay、toraru、ワープスペースの代表者が集まり、ICT Springの体験やルクセンブルクの印象を語った。

 そもそも、なぜICT Springに参加しようと思ったのか? 宇宙関連のスペースシフトとワープスペースの2社はわかりやすい。衛星データ解析AIソフトウェアを開発するスペースシフトの代表取締役CEOの金本成生氏は、「ルクセンブルクが宇宙事業に投資していることもあり、欧州進出の拠点として検討していた」という。「ルクセンブルクはこれまで衛星を打ち上げる企業に投資を続けてきたが、活用に焦点が移りはじめており、我々のような解析ソフトウェアへの関心が高まっている」と続ける。実際、ブースにルクセンブルク経済大臣が立ち寄ったという。

スペースシフト代表取締役CEO、金本成生氏

 宇宙光通信ネットワークサービスのワープスペースの最高戦略責任者、森裕和氏は、イベント前からルクセンブルクを何度か訪問していたそうだ。「衛星業界ではルクセンブルクは強い。衛星製造の計画を拡大しようと考えており、ルクセンブルクには人材の面でも魅力」と語る。イベント出展の狙いは「現地で宇宙関連の人に会って、名前を売っておこうと考えて」のことだという。

ワープスペース最高戦略責任者、森裕和氏

 NFTを活用したエスクロースワップ決済プラットフォームを進めるSWAPayは、金融の側面を評価しての出展だったようだ。自分たちのサービスをペイメントサービスプロバイダではなくエスクロースワップとして欧州で展開できるのか調べたいと思っていたところ、実際に「ブースにふらっと立ち寄った方が元ルクセンブルクの金融監督当局のフィンテック部門トップで、そうとは知らずにサービスを説明したところ、いろいろとアドバイスをもらえた」と、同社の代表取締役CEO、梅村圭司氏は満足顔で報告した。

SWAPay代表取締役CEO、梅村圭司氏

スタートアップならどんどん露出していくべき

 欧州市場への進出という点で検討を始めての参加だった企業もある。仮想オフィスのoViceの代表取締役CEO、ジョン セーヒョン氏は、「我々のようなITサービスで海外展開となるとアジアが出てくることが多いが、購買能力という点で欧州は魅力的」という。一方で、メルカリがイギリスから撤退するなど「購買能力はあるが、GDPR(General Data Protection Regulation、一般データ保護規則)などの規制もあり、謎」と訪問前の印象を語る。

oVice代表取締役 CEO、ジョン セーヒョン氏

 実際に展示会場でブースを構えてみての印象は「特殊すぎる(笑)」。「日本で売れているポイントが刺さらないし、米国でうまくいきそうなところも刺さらない。だが市場は大きい。実際に飛び込んで現地でガッツリやらない限りは難しそう」と印象を語る。幸いピッチは2日目だったので、1日目のブースでの印象から用意していたピッチを急遽変更して挑んだそうだ。

 クラウドソーシング型現地体験共有サービス「GENCHI」を開発するtoraruの代表取締役、西口潤氏も同じく、「グローバル展開として欧米を考えているところで、起点として動く国をどこにするのかというところを見極めに行った」と参加の動機を明かす。展示会では、60インチ級の大型ディスプレイを現地調達してデモをすることで、人を惹きつけることができたという。現地の人にも手伝ってもらい、名刺を集めて今後につなげることができたそうだ。

toraru代表取締役、西口潤氏

 ワープスペースの森氏は、イベント参戦時は出展だけではなく登壇でインパクトを残すようにしているという。森氏は、「オンラインで手軽に情報が得られるが、そもそも(その企業やサービスを)知らないと見られない(調べてもらえない)。我々のように新しい企業は、オフラインのイベントでこんな企業があるのかと知ってもらい、知名度を上げて、オンラインでも見てもらえるようになる」と述べ、スタートアップならどんどん露出していくべきだと助言した。

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