『STEINS;GATE』スタッフが贈る科学ADVシリーズ最新作!
ハッキングトリガーの“気付き”がクセになる!『ANONYMOUS;CODE』開発陣が作品へ込めたこだわりとは?
開発者インタビュー
発売直後のタイミングで、本作の制作に深く関わったキーマンである3名にインタビューを敢行。設定の意図や、ゲーム開発に込めたそれぞれのこだわりを語っていただいた一方で、作中に登場するガジェットに関するお話などもうかがった。
■松原達也氏(画像左)
MAGES.所属のプロデューサー。『ANONYMOUS;CODE』『STEINS;GATE』などを代表とする 科学アドベンチャーシリーズ全般の制作を統括。作品のプロデュースだけでなく、ロゴデザインや UI、ムービー制作などの実作業も担当している。
「“入力端末”の形はもっと自由であるべきです」
■林直孝氏(画像中央)
MAGES.所属のシナリオライター。『ANONYMOUS;CODE』『STEINS;GATE』などの科学アドベンチャーシリーズのシナリオを担当。アニメ「プラスティック・メモリーズ」原作・脚本。「ダーリン・イン・ザ・フランキス」シリーズ構成を務める。
「ポロンが使うのは成功を獲得するための“能動的なループ”です」
■末廣彩乃氏(画像右)
MAGES.所属のシナリオライター。『ANONYMOUS;CODE』のシナリオ担当。代表作は『\コメプリ/』、プランナーとして参加した『暗闇の果てで君を待つ』など。
「最後までテンポよく楽しめる形になっています」
アスキー編集部員(以下、編):2015年の開発発表から約7年越しの発売となりました。いまの感想と、ユーザーからの反響についてお聞かせください。
松原氏:率直なところ「ようやくか……」というところです、他のタイトルと並行して進めて来たので、本作のみ7年間作り続けてきたわけではありませんが。ただ、そこには制作中の苦労はもちろんありまして、最後までシナリオが完成しても「世界観がちょっと違っていたり」「扱っている要素が時代と合わなくなってしまったり」という理由でやりなおしをしたりしていたので、完成シナリオ含めたら3本分ほど作っていました。
林氏:長かったなぁという感想が第一ですね。松原も話したように「捨てた設定」が多々あるんですよ。本当はそれらも使いたかったなという想いもありつつ、その設定を全部入れると話としてまとまらないので、今の形でうまくまとめられたかなというホッとした部分があります。
末廣氏:私は2017年ごろからの途中参加ですが、長い闘いだった、完成して本当に良かった……という気持ちです。科学ADV最新作のメインシナリオに関わるということでプレッシャーがありましたし、テンポ重視で進めてほしいというオーダーに対してすごい情報量で、これでどうテンポよくすればいいんだろう、というのがシナリオとして大変でした。なんとかテンポよく最後まで楽しめる形になっていると思います。今までの科学ADVシリーズ作品とは違う体験になるよう設計されているので、戸惑う方もいると思いますが、当初のオーダーに沿った新しい形のものが出来たことは良かったです。
編:本作は『STEINS;GATE』スタッフによる科学ADVシリーズ最新作ですが、共通するテーマのようなものはあったのでしょうか。
松原氏:志倉(※)からは「難易度を高くしてほしい」というオーダーがありました。プレイヤーに悩んでもらう事で進行するタイトルという意味では、『STEINS;GATE』や『ROBOTICS;NOTES』などとも共通している考え方なので、この難易度になっています。
(※)志倉千代丸氏:科学ADVシリーズの企画・原作を務めるMAGES.の代表取締役会長
あまり解説するのも野暮ではありますが、『STEINS;GATE』のキャッチコピーである「神をも冒涜する12番目の理論~」と、本作のキャッチコピー「神を、ハッキングせよ」で言っている「神」は、それぞれ別のものを指しています。『STEINS;GATE』の神は「宇宙の法則」「物理法則」といった絶対不変なものを指していて、それを捻じ曲げるタイムリープのことをキャッチコピーでは表していました。
本作の「神」は、自分たちのいる世界層をコントロールできる存在=「神」のようなものという意味合いで使われており、ポロンからすれば「セーブ&ロード」が上の世界層であるプレイヤーと繋がっていて、それをハッキングして活用している形になります。
編:なるほど、その「ハッキング」という物語のテーマと、「セーブ&ロード」という独自のゲームシステムは非常にマッチしていると感じました。これは、物語のテーマとシステムどちらが先にあったのでしょうか?
松原氏:まず「セーブ&ロード」を使って何とかしていくゲームというコンセプトが先にありました。ユーザー体験としての「セーブ&ロード」システムが導入されたのは、開発中盤になってからです。ユーザーとポロンのセーブエリアが共有されているのも本作の特徴ですが、これは非常に作るのが難しかったんです。プレイヤーがどこにどうセーブデータを作るかは読めないので、ポロンが空きエリアを探すシステムを作ったり、セーブが全部埋まっている場合はどうするのかとか。普通は実装しなくてもいい要素が多々あって…。最初は両者のセーブエリアを分けていたんですが、やっぱり「それじゃつまらないよね」ってことで共有することになりました。
林氏:志倉からはコンセプトとして「新たなループもの」の表現方法として「セーブ&ロード」を使うと言われていたんですね。それに加えて主人公もハッカーであるなど、緻密な設定が最初から決められていて、それは最初からずっと変わっていません。『STEINS;GATE』をどうしても意識してしまうんですが、個人的にシナリオを作るうえで意識したのは、成功を獲得するための「能動的なループ」を主人公が使う点です。失敗を回避するための「消極的なループ」ではないのがポイントですね。
松原氏:『STEINS;GATE』の場合は、主人公の岡部がいろいろやらかしてしまったことをタイムマシンを使って「なかったこと」にしていく物語だったんですけど、本作はこれから起こる事象に対して「未来を変える」ためにループを駆使していく物語、という違いがあります。
編:「セーブ&ロード」の能力を獲得する際、ポロンが「なぁ見てるんだろ?」とこちらに語りかけ続ける場面があったのですが、そこでプレイヤーに「このボタンを押せ」という指示を出さなかったのは、あえての演出だったのでしょうか?
松原氏:そうですね、あえてです。「メタ科学ADV」を謳っているというのもありまして、プレイヤーはポロンの視界を覗き見しているという感覚にしたかったので、そういったチュートリアルを出してしまうと、そのメッセージはどこの誰が出しているんだという話になってしまいます。また、単純に「このボタンを押せ」だけが出るチュートリアルって個人的には記憶に残らないと考えています、ガイドをあえて出さない事で「とあるボタン」を押したら進行したという「気付き」をプレイヤーに印象付けたかったんです。自発的な行動から気付いたことってそうそう忘れませんから。
編:なるほど、納得の理由です。続いてマンガ風のコマ割りでシーンを描く表現を取り入れた理由についてお聞かせください。
松原氏:今回の開発のテーマとして「テンポのよさ」を表現したい、アクションシーンを積極的に描いていきたいという点がありました。従来の立ち絵や一枚絵で表現するADV形式だとアクション的な動きを表現するのは難しいです。今回起用させていただいた、キャラクターデザインの中田春彌さんがマンガ家というところからインスピレーションを得て、アクションシーンや科学的なややこしい説明のときは積極的に使っていこうと考え「マンガトリガー」を作っていきました。実際実装してみて漫画風の演出は汎用性が高く、まだまだ出来ることがたくさんあることが解ったので、今後も積極的に活用したいと考えています。
末廣氏:今回のオーダーの1つに「素材の枚数制限は気にしなくていい」と言われていて、見栄え重視でカッコよくお話を作ることを優先しました。だからアクションシーンを描くマンガトリガーも多くなっていまし、一瞬しか映らないイベントCGもあったりします。従来のADV制作はイベントCGや背景などの数に制限があるなかでやりくりするので、制限がないことが逆に難しかったですね。
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