メルマガはこちらから

PAGE
TOP

創業前に知財戦略を考えるメリットとは

「創業前から知っておきたい、特許庁のスタートアップ向け施策と知財戦略の基礎 by IP BASE」レポート

特集
STARTUP×知財戦略

 2021年5月21日、特許庁ベンチャー支援班は、スタートアップ向けの知財戦略オンラインセミナー『創業前から知っておきたい、特許庁のスタートアップ向け施策と知財戦略の基礎 by IP BASE』を東京の創業支援施設「Startup Hub Tokyo 丸の内」から無料配信した。特許庁では、スタートアップの知財戦略に役立つ情報を配信するYouTube番組「IP BASEチャンネル」を開設。今回が初の配信となる。本セミナーでは、特許業務法人IPX 代表弁理士CEOの押谷 昌宗氏と瑛彩知的財産事務所 代表弁理士・米国弁護士の竹本 如洋氏を講師に招き、創業期、創業初期に役立つ知財戦略をパネルディスカッション形式で議論した。

 最初のコンテンツは、特許庁総務部企画調査課ベンチャー支援係長 今井悠太氏による特許庁のスタートアップ施策の紹介。知財アクセラレーションプログラム(IPAS)、スタートアップ向けサイト「IP BASE」、スーパー早期審査や手数料が3分の1になる減免制度、全国47都道府県に設置されているINPIT知財総合支援窓口について説明した。

特許庁総務部企画調査課ベンチャー支援係長 今井悠太氏

 知財アクセラレーションプログラム(IPAS)は、知財専門家とビジネス専門家からなるメンタリングチームをスタートアップに派遣し、知財戦略の構築を支援するプログラム。2020年度は113社の応募から15社を採択し、5ヵ月間の支援を行なった。過去3年間の支援企業数は40社、支援以降に出願された特許件数は154件、うち1社はEXITに至っている。

 IPASの成果事例集「知財戦略支援から見えた スタートアップがつまずく14の課題とその対応策」と具体的なメンタリングの流れがわかる「IPASを通して見えた 知財メンタリングの基礎」を知財ポータルサイト「IPBASE」にて公開中だ。

 なお、IPBASEでは、各種事例集、先輩スタートアップや投資家、知財専門家へのインタビュー記事、イベント・セミナー情報を掲載している。無料会員向けの勉強会も開催しているのでぜひ登録して活用してほしい。

 全国47都道府県に設置されている知財総合支援窓口は、知財に関する悩みを無料で相談できるサービスを提供している。弁護士や弁理士、中小企業診断士といった専門家からのアドバイスも無料で受けられる。

スタートアップの知財公開相談会

 第1部「スタートアップの知財公開相談会」では、株式会社REVORN 代表取締役松岡 広明氏、知財専門家の押谷 昌宗氏と竹本 如洋氏が登壇。特許庁 ベンチャー支援班長 鎌田氏のモデレータのもと、松岡氏がREVORN創業当時に抱えていた知財の悩みに対して、押谷氏と竹本氏がそれぞれ回答した。

株式会社REVORN

 REVORNは、においの知覚AIを開発するスタートアップ。においセンサーで取得したデータをAIで分析することで、食品等の品質管理、オリジナルの香りの調合、農産物の評価、息のにおいを使った健康診断など、さまざまな分野での活用が期待できる。

株式会社REVORN 代表取締役 松岡 広明氏

 松岡氏は創業時、「自分が作った技術はすでに特許になっているのでは」とすごく気になったという。

特許業務法人IPX 代表弁理士CEO 押谷 昌宗氏

 押谷氏は、「製品を作ったあとで、すでにあるのでは? と気にされるスタートアップは多いですね。そのものは新しい技術でも、もとになっている何かの技術は他社が権利化している場合はあります。しかし、広範囲にすべて調査すると費用がかかってしまうので、リスクとスピードを天秤にかけて、判断するしかありません」と回答。

瑛彩知的財産事務所 代表弁理士・米国弁護士 竹本 如洋氏

 もうひとつの悩みは、特許費用の資金繰り。特許事務所に支払う手続き費用、海外特許も含めると、どれだけかかってくるのかわからない、という不安はよく聞かれる。

 押谷氏は、「特許庁の減免制度や外国出願が半額になる補助制度はありますが、出願する国や地域の数が多ければ、何千万円になってしまいます。資金調達前は、いかにキャッシュが出るタイミングを後に回すかが重要。数年後の調達計画を視野に入れて知財予算を組んでいくといいでしょう」とアドバイスした。

 松岡氏は「特許を初めて出願したとき、すぐに審査されないことにすごく驚きました。期間が延ばせる感覚がいまだによくわからない」と質問。

 竹本氏は、「最短では早期審査を使えば2ヵ月で結果が出てすぐに特許取得できますが、拒絶査定になるリスクがあります。逆に、特許出願中をマーケティング効果に特許を的に使うのであれば、出願だけをして最長5年ほど延ばす手もあります。タイミングを早めるか、遅らせるかは、弁理士さんと相談して資金繰りのフェーズとも合わせて戦略を立てるといいと思います」と回答した。

創業前から知っておきたい知財戦略の基礎

 第2部は「創業前から知っておきたい知財戦略の基礎」と題し、パネルディスカッションを実施。松岡氏、押谷氏、竹本氏の3名と、モデレーターとして特許庁ベンチャー支援班の鎌田 哲生氏が参加し、4つのトピックについて議論した。(以下、敬称略)

 最初のトピックは、「スタートアップにとって創業期から知財戦略を考えるメリットとは?」

鎌田:「松岡さんは、いつから知財を考えるようになりましたか?」

松岡:「創業したばかりの時期はやることが多くて気にする暇もなかったので、1年後くらいでしょうか。開発中の技術について大企業から何か言われたら怖いな、と考えたのがスタートラインですね」

鎌田:「考え始めてよかったことは?」

松岡:「事業計画に直結しましたね。他社の知財を踏んでいる可能性があれば、根本が崩壊してしまう。弁理士の先生に相談する際に、知財になりやすいもの、なりにくいもの、知財にしないほうがいいものを押さえておくと重要だと思います」

竹本:「開発した内容すべてを出願するのはお金もかかりますし現実的ではないので、対象事業への重要度、特許の取りやすさの2軸から検討していくだけでもかなり整理されます。この2軸で見て、特許を出すか、出さずにノウハウとして秘匿しておくのかを開発の都度確認していく。同じ出願しないにしても、あえて戦略的に出さないことを判断したのであれば、安心して事業を進められます」

押谷:「なんとなく最先端の高度なテクノロジーじゃないと特許にならないと考えがちですが、知財は、技術が高度かどうかは無関係で、ユニークさがあるかないかだけの観点で見ます。すべての部品が既存のものであっても、その組み合わせがユニークであれば、特許になる可能性があるのを頭の片隅に置いておいてほしいですね」

経済産業省 特許庁 ベンチャー支援班長 鎌田 哲生氏

 続いて、2つ目のトピック「商標・特許・知財について考えないとまずいケースは?」について。

松岡:「我々はにおいを取り扱っているので、『IINIOI』という単語と『香度』を商標で取っていますが、この言葉で商標が取れるんだ、と思ったのと同時に、先に取られていたら、と想像してゾッとしました。それまで、香りの度数は誰でも計測できるから、一般の用語のように当たり前に使っていたんです。将来は『鮮度』や『糖度』と同じように『香度』も使われるようになる、と想像していたので」

押谷:「自分たちのプロダクトでは当たり前のことが、世の中がまだ追い付いていないのが今回のケースですね。もうひとつ、自社の名前を商標登録するのを忘れていることがけっこう多い。会社の登記と同時に商標を取るのが安心です」

松岡:「そんなことできないですよ。スタートアップは知財の決済にはすごく悩みますから。本当に必要なのだろうか。でも取らなかったときの恐怖も同じように襲ってきますし」

 3つ目のトピックは、「自社に合う知財専門家とどうやって出会えるのか、どう相談すればいいのか?」

松岡:「税理士、弁理士、弁護士、司法書士…と士業がたくさんありますが、最初は違いやお願いしなければいけない理由もわからなかったんです。付き合っていくうちに、だんだん士業の役割や、同じ士業でも人によって得意分野が違うことがわかってきました」

押谷:「1回会っただけでその人を信じてしまうのは早計。ほかを知らなければ、ベストなのかどうか判断できないので、できるだけたくさんの人に会うことが大事です」

松岡:「医師と同じように、セカンドオピニオンは必要。また、いろんな先生と会って話すことで、いざ実際に依頼することになったとき、説明がうまくなります。最初は、先生方が話す専門用語も理解できず、コミュニケーションをとることすら難しくて、ひたすら不安でした」

竹本:「士業の中では、弁理士が圧倒的に少ないのも一因かもしれません。しかも、若い人が極端に少ないので、スタートアップの社長と話の合う、フットワークの軽い弁理士となると相当限られてしまいますね」

松岡:「我々のほうも専門用語を羅列してしまうから、お互い様の部分もあります。お互いに理解できるまで根気よくコミュニケーションするのは、ハードルは高いな、といまだに思っています」

鎌田:「もし周りに知財専門家が見つからないときは、最寄りの知財総合支援窓口へお問い合わせください」

 最後のトピックは「知財専門家にとってスタートアップ支援に必要な要素とは?」

竹本:「スタートアップと同じくらい熱量がある人。どうやったら特許を取れるかだけでなく、どうやったら事業が良くなるかを一緒に議論できるような弁理士が向いていますと良いですね」

押谷:「コミュニケーションの円滑さとレスポンスの早さ。特に、チャットツールとオンライン会議ツールを使えることは絶対条件です」

竹本:「Slack、Chatwork、Facebookメッセンジャーなど、相手によっていろんなツールを使っているので、どれにも対応できるようになっておくこと。ただ、時間を問わず常に呼び出されるので、それに対応しつつ、自分で時間を管理できる能力も必要かもしれません」

■関連サイト

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー