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Project PLATEAU by MLIT 第1回

齋藤精一(パノラマティクス)× 若林恵(黒鳥社)

都市データから、我々はいかに未来を立ち上げるのか 3D都市モデルがもたらす本当の価値

2020年12月22日 14時00分更新

文● 西田宗千佳 ●撮影 森ひろみ ●編集 北島幹雄/ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

 デジタルデータが存在し、さらにデジタルのまま、デジタルでないとできない処理や解析を加えることを前提に、仕事や社会のあり方を変革していくこと。

 いわゆる「デジタルトランスフォーメーション」に一つの定義を与えるなら、そんなところではないだろうか。だとすると、3D都市モデルはまさにその本命と言える存在だ。

 本連載では、「オープンデータとしての3D都市モデル」の存在でなにが起きうるのか、さまざまな識者同士の「対談」形式で発想を加速し、展望を聞く形を目指している。

 第1回目は、パノラマティクス・齋藤精一氏と、WIRED前編集長であり、編集者/コンテンツメーカーの黒鳥社・若林恵氏による対談。都市にまつわるデータがどのような未来を生み出しうるのか、お二方の意見を見ていこう。

パノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー) 主宰 齋藤精一(SEIICHI SAITO)
1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを機に帰国。フリーランスとして活動後、06年株式会社ライゾマティクスを設立。16年から社内の3部門のひとつ「アーキテクチャー部門」を率い、2020年社内組織変更では「パノラマティクス」へと改める。
2018-2020年グッドデザイン賞審査委員副委員長。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。

株式会社黒鳥社 コンテンツ・ディレクター 若林 恵(KEI WAKABAYASHI)
1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。

国交省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」

 従来より、国土の地形情報とそれに紐づく地価や地盤などの情報は、国土交通省・国土地理院を中心にデータ化が行われていた。ただ、過去の情報は「平面の地図として人が見る」ことを前提としており、さらに、地価・地質・治安、さらには建物の用途や人口流動、地区開発の変遷、環境やエネルギーのデータなど、場所に関係する各種データは、各地方自治体などに分散して存在していた。昨今の「オープンデータ」化の流れでずいぶん風通しはよくなってきたものの、それでも、「分散している」「平面を前提にデータが集められている」ことが、活用するうえでの限界ともなっていた。

 そこで登場したのが国交省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」だ。この計画では、国土とその上にある建物までを3D都市モデルとして集積する。データは航空測量によって写真+LiDAR(light detection and ranging:レーザーを使った距離センサー)による高さデータが取得され、それを加工することで立体的なデータができあがる形だ。

 建物などをどこまで詳細に再現するかは、利用計画に応じて変わる。そこには「LOD(Level of Detail)」という概念が導入されており、もっともシンプルな「LOD 0」では地形のみ、 「LOD 1」では建物をシンプルな「箱」として再現する。ここまでならば手間もコストも小さい。さらに、建物の外形を再現していく「LOD 2」「LOD 3」という段階を経て、最終的には、建物内の各フロアの状況までを再現する「LOD 4」に到達する。

 さらに、各省庁や地方自治体が共通形式でさまざまな地形にまつわる属性データを集積することで、これまでの地図には付加されていなかった「空間的な意味を持つ」セマンティクス(semantics)な3D都市モデルができあがる。

 これらはAPI(Application Programming Interface:ソフトウェアやデータなどを、外部プログラムから通信して利用するための手順やデータ形式の規約)で整備され「3D都市モデルに紐づく情報」として適切な形で検索・ダウンロード可能にする。

 3D化された地形データそのものは、映像制作などにも使えるが、真の価値は異なってくる。各種データの掛け合わせや外部との連携によって、人流や気候、交通などの立体的なシミュレーションも行える。結果として、「3D都市モデルが生み出す価値」はさらに高まっていく。

 現状の計画では、2020年度末までにデータ提供のプラットフォーム整備が行われる予定となっている。

デジタルデータになった都市が見せてくれるもの

 ここからは齋藤氏・若林氏の対談に入っていこう。まず齋藤氏から口火を切っていただいた。齋藤氏は過去に経済産業省の計画にも関わっており、「3D地図をサービスに落とし込んで価値を見せる」ことを試みてきた側でもあるからだ。

齋藤氏(以下敬称略):2017年に、経済産業省とライゾマティクス・アーキテクチャーで「3D City Experience Lab.」(3dcel)というプロジェクトを行いました。その時も、「まずは3Dの地図データを整備しなければいけない」というところからスタートしてはいたのですが、若干時期尚早なところもありました。今回はいよいよ国交省からこういう事業として整備されるので「ようやく本丸が動いたな」という感じがしました。

 「スマートシティ」にまつわる話は多いのですが、日本ではまだ実装されてはいないですよね。結局、デジタルのレイヤーはデジタルで、現実の地上部分は地上部分で民間の会社が、という形で進んではいるのですが両者が合わさることはありませんでした。そこを今回、国交省が入ることによって、組み合わせようとしています。

 まずは安心・安全・便利・快適、防災などの部分ですが、僕たちがやっているエンターテインメントの領域でもいろいろな可能性があります。

 今、映画やゲーム、CMでは東京の3Dデータをけっこう作っているんですよね。結局、「渋谷のスクランブル交差点で撮影したい」といっても、現実には無理なので。そういう表現の世界でも使えるかもしれません。

 やってみるまでわからない部分はあるのですが、「LOD 4」くらいのデータが用意されていくということにはすごく大きな意味があるのかな、と思います。

若林氏(以下敬称略):基本的な話ですけれど、データというのは「サービス化」しないと意味がありません。もちろん、データは今までも行政・国家が一番持っていたんです。そこから用途を考えるというのはいいんですけれど、付加価値に変えていくところでは、当然民間も入ってこなきゃいけないし、多様なプレイヤーが一緒になって進めていかなければいけないでしょう。

 そこでの戦略をどうするのか、動機をどうするのかな、というところです。データがあることすなわち価値、とはならないんですよ。産業をそこからどう立ち上げるのか、ということです。

 航空産業を例にとれば、今出てくるのは「飛行場をたくさん作ります」という話に近い。でも飛行場が生み出す経済価値というのは、決して「航空会社が儲かります」で終わる話ではないですよね。ある意味「空港を作ることで航空産業が大きくなります」という話ですらないかもしれない。

 それによって人やモノが移動することで、新しいサービスやビジネスがどんどん拡張していく、ということが実際の効果で。重要なのは、その戦略のところですよね。

齋藤:そういう意味では、中国はベネフィットの設計がうまいです。アリババが提供しているスマートシティパッケージは、簡単に言えば「緊急車両が8分早く到着する」とうようなわかりやすいベネフィットを提供しています。結果として、マレーシア政府などが導入しているんですね。

 日本の場合にも、そういうベネフィットを民間との共創で作り上げて行かなければならないでしょう。

 あと期待しているのは、他の省庁との連携です。例えば総務省などは、国交省とは違う観点でさまざまなデータを持っているはず。今回のプラットフォームができたことで、そういう複数の省庁にあるデータがタグ化・レイヤー化していかないと、とは思うんです。

若林:政府の施策について言えば、複雑なデータソースの話の前に「もっと効率化を進めるべきでは」いう部分はあると思います。公共サービスによるデータ連携の効率化、すなわちまずは「マイナスになっているものをゼロに戻す」部分。これはデジタルトランスフォーメーションのミッションですよね。それだけで価値は大きいだろう、という気がします。

 また、特に都市計画などにおいては、シミュレーションなどを使ったエビデンスをもとにより精緻な意思決定ができるようになります。政府が実際にそうするかは別ですが、そうしたことを、かなりの透明な形で情報を開示しながらできるのが大きな意味でしょう。

無数にサービスが生まれる状況をいかにつくるか

若林:一つのあり方として「目的が用途を決定する」という部分はあるように思うんです。結局データだけをとっても、なにに活用したいのかによって、どう役立つかも変わります。例えば、その地域をどうしたいのか、なぜ変えないといけないのか、という方向性によってしか、決定されない部分があると思うんです。データを用意したからといって、経済が回るわけではないので。

齋藤:「デジタイズそのものはお金を産むわけではない」ということですよね。世間では「これまとめてデータベース化したらいくらかかるのか。そんなにコストがかかるならやらない」という感覚論に陥ることがあります。これを日本では、政府だけじゃなく民間も都市開発などで繰り返していました。

 そこで、フォーマットや基盤の部分を作るのは、やはり国のお仕事だと思います。ただ、そこにインセンティブがないと、データを集めるだけでその先が止まります。

若林:「データは21世紀の新しい石油だ」という話は、基本的には正しいと思うんです。ただその比喩で言うなら、石油産業は「みんなが石油を買ったから」大きくなったわけではありません。石油を使うプラスチック産業や交通産業というものを開発することが一種の「アプリケーション」だったんです。そういう意味で、アナロジーとしては正しいんです。

 ですので、データの上にどういう産業が乗ってくるのかという話が必要です。インフラ投資はある意味、そういう価値を生み出すための賭けです。橋をかけるのも、橋をかけるのが目的ではなく、2点間の交通によって生まれる価値が目的なわけです。

 このプロジェクトが進めるセマンティクスによる意味の与え方も、公共のためなのか、なんなのか、もうちょっとそこにいる人、すなわち「生活者の視点」から生まれてこないと価値が出ない部分があるのではないでしょうか。

 もちろん、期待はしたいです。

 例えば、厚労省が医療的なデータを載せて、民間活用されるなど。国家におけるデータ最適化を、国民に対してだけでなく、全省庁にもっと進めてほしいです。

 日本全国の約50都市で3D都市モデルを作成しオープン化する今回の計画に、国交省は20億円の予算を計上している。もちろんデータを「用意するだけ」では意味がないのはわかっている。データ活用の目的の第一義は各自治体での「まちづくりへの活用」だが、もっと広い視点で、データ・テクノロジー活用ができる多くの民間企業に使ってほしい、と願っている。行政サービスとして内部での活用の標準化を進めているのも、いろいろな用途で使えるようしたい、という考えがあってのものだ。

 時代が変化を俯瞰するためのデータが求められており、そのためには、場所情報とセマンティクスを集積し、問題をどう解決するかというビジョンとサンプルが必要になる。そういう意味で、行政における3D都市モデルが持つ可能性は大きい。

 だが、いったい誰がそれを実行するのだろうか? 一番最初に「あるべき形」を見せるのは誰がやるべきことなのだろうか?

齋藤:デジタルに関連するような技術では、今回のケースのように実は国交省のほうが先に行っている部分はあると思います。そこで、リテラシーが低いところからどう上げていくか、ベネフィットが生めるのかどうかを示してほしいと思います。

 例えば「安全・安心・便利・快適」。地すべりや津波から命を守るための調査や情報があるわけですが、国としてのアウトカムを、自治体レベルでできるようにすることができないか。鎌倉市は、南海トラフ巨大地震がきたときにどうなるのか、独自に再現してYouTubeに動画をアップロードしています。しかしそれは、単に海抜で計算しているだけです。今なら、3Dデータに流体シミュレーションを組み合わせて見せられます。

 そういうことができる基盤を、まずは「国交省の省内サービス」でやればいいと思うのです。そして「これはいけてるぞ」という部分が出てくれば、他の省庁や自治体も、同じフォーマットでデータ格納するというのが戦略的によいのではないでしょうか。

若林:重要なのは、無数にサービスが生まれてくる状況をいかにつくるか、ということです。

 台湾のデジタル担当大臣のオードリー・タンと先日も話したんですが、実は彼の部署は予算を持っていないんです。民間でのサービスや取り組みについてのプラクティスを彼の部署が吸い上げて、それが学校で役立つことなら、文科省にもっていってつなぐだけ。要は、完全にハブなんです。

 行政は民間のプラクティスと異なるものです。民間はビジネスですけど、行政は「相互にパクるのは大歓迎」という空間であったほうがいい。よいものはどんどん使っていけばいいんです。そうやって、良いプラクティスを活用する後押しをしていけばいいのではないでしょうか。

齋藤:問題は見せ方にもあると思います。プロジェクトが終わったら報告書が出て終わり。それではプラクティスが共有できません。

 より多くの人たちに知ってもらうには、自由にデータをダウンロードし、企業だけでなく学生やクリエイターも利用できるなど、もう少し幅の広い形が必要です。そこから、知りたい・使いたい・興味があるものが見つかることがカギです。

都市のデジタル・トランスフォーメーションに参加するためのロジックが必要

 3Dデータには「解析」的な用途もあるが、それだけではなく、コンテンツ制作やアート、エンターテインメントでの可能性も見えている。映画業界やゲーム業界から見れば、地形・建物のデータが自由に使えることになれば、コスト削減効果は非常に大きい。

 この先、3D都市モデル活用は「産業」になることを期待されている。そのの旗振り役となる行政や事業者には、どのような期待を寄せるべきなのだろうか。

齋藤:エンターテインメントは入口だと思います。やはり「楽しいな」「ユーティリティ的にも便利だな」と思うものが一番よいです。

 国交省の取り組みは、さかのぼること1995年からスタートしています。阪神淡路大震災の時、どこが被災したのかをマップとして確認するための情報収集からはじめて、そこから成長してきたんです。そういう意味では、悲しいところから生まれているものです。

 1960年代の科学もそうですが、一般の人がわからないところまで進んでしまって、興味を持ってもらえなくなってしまいました。

 GIS(Geographic Information System:地理情報システム)も、そういうものになってしまっています。今回はもう一度引き戻し、幅を持たせることができるはずです。

 「こんなデータがあるなら使おうぜ」というふうに、考えてもらえるかどうか。今回国交省が作るデータは、民間でやろうと思うと相当お金がかかるものですよ。

若林:国がやることに「アドオン」できる付加価値の開拓、例えば、アーティストや学生が使う種になりうる、ということはやっぱり重要だと思います。

 一方でその手前、はるかに行政の現場で「マイナスになってるのをゼロにする」のをどうすればできるのか。実際、自治体にはいろんな困りごとがあるものです。それをもっと効率よく解決することが重要。地方自治体がいかに使いやすくなっているかが大切ではないでしょうか。

 別の言い方をすれば、「人の困りごとに対応する方法」が即座にわからないと、結局誰も使わないようになってしまいます。そういう使い方について、自治体でのワークショップなど、地道にやり続ける必要はあるでしょう。

 またオードリー・タンの言葉を引用するんですが、彼はよく「リテラシー(読解力)という言葉が好きじゃない。コンピテンシー(関わり方)という言葉を使え」というんです。重要なことは「与えられたものに対する読解能力」ではない。参加させるところが重要。これはいい言い方だと思います。

 例えば、「高齢者のデジタルリテラシーをどうしたらいいか?」という言い方がありますが、そもそもそれが間違っています。「やりたいことが、実際にできる」というのを見せることが重要なんです。

 要は、デジタル・トランスフォーメーションに参加するためのロジックを作る、ということなんですが。

齋藤:そのためには、思考モデルを確立しないと無理ですね。デジタルは魔法だと思われていますが、そうではないわけで。何を作りたいか、届けたいのか。それを読み解くためのリテラシーは必要ではありません。

若林:現状、標準的なスマートシティは存在していないと思うんです。都市ごとの課題があり、その都市ごとに、別のデータとの出会いがある。市民からでも民間企業でもいいのですが、レスポンスの中で優先順位、得意分野ができていけば、その土地の特性になると思います。

齋藤:いわゆる「スマートシティ」は、どこかにパッケージ化された商品がある、と思っている人が多いです。海外にはそういうものもあるし、そういう売り込み方もされていますが、日本の場合、地域によって特性が違いすぎてまとまったパッケージは作れないのではないか、と思います。

 こういう試みは、継続していかない手はありません。3D都市モデルのデータを、「すべての人が使える」ものにするフックになってほしいと期待しています。

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