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Project PLATEAU by MLIT 第3回

内山裕弥(国土交通省)×杉本直也(静岡県)

国と地方、双方で作る「デジタルツイン」 ニューノーマルの時代にデータが本当の意味でオープンになった

2021年01月29日 14時00分更新

文● 西田宗千佳 ●撮影 森ひろみ ●編集 北島幹雄/ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

 現在、世界や日本のさまざまな地域で「地域の3Dデータ化」が進められている。その一つが国土交通省によるProject “PLATEAU”(プラトー)だ。だがそれ以外にも、民間や地方自治体の手によって、独自の3Dデータ構築が進行中である。

 同じ「3D化」ではあるが、それぞれの狙いがあり、その目的や方向性は少しずつ違う。では、彼らはどのような目線での3D化を進めているのだろうか。特に地方自治体における価値とはなんなのだろうか。

 今回は、そんな自治体の中でも特に先進的な取り組みで注目を集める「静岡県」にフォーカスを当てる。静岡県 交通基盤部 建設支援局 建設技術企画課 建設イノベーション推進班 杉本直也氏と、Project “PLATEAU”推進側である、国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐 内山裕弥氏に、それぞれの立場から「行政による国土の3D化」について語り合ってもらった。

国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐
内山裕弥(YUYA UCHIYAMA)

1989年東京都生まれ。東京都立大学、東京大学公共政策大学院で法哲学を学び、2013年に国土交通省へ入省。水管理・国土保全局、航空局、大臣秘書官補等を経て現職。

静岡県交通基盤部 建設支援局 建設技術企画課 建設イノベーション推進班
杉本直也(NAOYA SUGIMOTO)

1971年静岡県生まれ(実家は建設業)。1994年に土木技師として静岡県入庁。「静岡県GIS」や「ふじのくにオープンデータカタログ」、「Shizuoka Point Cloud DB」の構築を担当。現在はi-Construction、自動運転、スマートシティ関連業務を担当。Code for Kakegawa所属、静岡大学情報学部(土木情報学研究所)客員教授。

データで進める「まちづくりのDX」

内山氏(以下敬称略):Project “PLATEAU”(プラトー)は、まちづくりのデジタルトランスフォーメーション、いわゆるUDX(Urban Digital Ttransformation)を推進するための政策と位置付けています。

 行なうことは3つ。1つは「3D都市モデルの整備」。今回のプロジェクトは国の直轄事業なので、全国の自治体に声をかけ、意欲があって手を挙げてきた56都市(2020年12月取材時点)で、累計約1万平方キロメートル以上がデータ化されます。2つ目が「ユースケースの開発」。そして3つ目が「整備・活用の機運・ムーブメントの醸成」です。

 「PLATEAU」というプロジェクトのネーミング自体が世間一般に訴求することを目的としたもので、ウェブサイトも構築しており、“PLATEAU VIEW”で実際に、誰でもデータを見られます。といっても、ビューワ自体をプラットフォームにするのが目的ではなく、実証環境という言い方が正しいでしょう。こうしたデータを「オープンデータ」の形で公開していくことで、行政だけでなく民間も同じデータを自由に活用できる形にしていきます。「活用方法は自由なのでみんなで考えていこう」、そういう性質のプロジェクトです。

 重要なのは、今回構築する3D都市モデルが「セマンティック」であるということ。我々の3D都市モデルは、単なる三次元的なモデルデータではなく、空間的な意味を持ったデータです。データ上で都市空間や都市活動を再現し、都市の意味そのものがマシンリーダブルとなるデータの整備を目指しています。「CityGML2.0」という国際的に標準化されている規格を用いて、サイバー上で機械が判読するとフィジカルな都市と同じ意味情報を読み取ることができるデータになります。

 こういったデータ整備・公開を通して、さらに3つのことを目指します。

 1つ目は「全体最適化・持続可能なまちづくり」です。まちづくりを経験則に頼って行うのではなく、シミュレーションやインタラクティビティーを活用し、科学的・長期的な視点でまちづくりを継続していこう、ということです。

 2つ目は「人間中心・市民参加型のまちづくり」。3D都市モデルの持つビジュアライゼーションの機能を使うことで、まちづくり計画を可視化し、住民理解を進めやすくなります。また、複雑で難しかったまちづくりの計画や都市の課題をわかりやすくビジュアル化することで、住民側から課題解決のアイディアや提案を募り、まちづくりに多様な主体の知恵・想いを詰め込めれば、という狙いがあります。いわゆる「シビックテック」のためにも活用していただきたい。

 3つ目は「アジャイル(機動的)なまちづくり」。動的な都市活動を再現するリアルタイムデータ等と組み合わせることで、シミュレーションをよりリアルなものに近づけられます。例えば都市計画の場合、20年の計画を5年・10年のスパンで見ていくようにしたくても、簡単には変えられないものと考えられてきました。しかし、コロナ禍の影響もあり、都市に対するニーズや働き方、暮らし方はダイナミックに変化しています。これにまちづくりがキャッチアップするためには、もっと短い間隔で、アジャイルに見直していく必要があるのではないか。

 今回、先行プロジェクトとして56都市のデータを国が作るわけですが、今後は他の自治体も自ら同じようにデータを作り、活用していく必要があります。ある意味、杉本さんが進められている静岡みたいな地域はまだ少数派です。

杉本氏(以下敬称略):ありがとうございます。我々の目指す方向性と同じで安心しました。とても心強いです。

 それに、国交省の方から「シビックテック」の言葉が聞けるとは思いませんでした。自分は個人として、シビックテック団体の「Code for Kakegawa」でも活動しているのですが、なかなかその文脈は理解が進まなくて……。

内山:耳が痛いです(苦笑)。国交省側でも理解を広めている最中ですが。

点群データによる「バーチャル静岡」のポテンシャル

杉本:静岡県のデータ化は「VIRTUAL SHIZUOKA」(バーチャル静岡)と呼んでいます。おわかりのように、これは完全にシンガポールを意識したものです。シンガポールとの違いは、バーチャル静岡は点群データによる3D都市を目指しているところです。

シンガポールは2014年から、「スマートネイション」政策の一環として、シンガポールの全国土を3Dデータ化する「バーチャル・シンガポール」計画が展開されている。国家による都市のデジタルデータ化の先進例として紹介されることが多い。
https://www.nrf.gov.sg/programmes/virtual-singapore

杉本:なぜ静岡県が点群データを取ってオープンデータ化しているのかと言えば、「災害に備えて」という部分が大きいです。

 これまでは災害が起こると、危険をかえりみず現場まで移動して測量していました。ところが、今ならドローン等を使うことで、少ない人数かつ安全にできるのです。建設業の現場も、働き方改革や担い手確保の観点から「あの危険な場所に行って測量を」とは言えなくなってきています。

 災害発生前の地形データを取っておくことで、実際に災害が起きても、安全かつ迅速に対応していけます。

 そのためバーチャル静岡では、スキャンしたデータを点群データとして持っています。

内山:そこがPLATEAUとの違いですね。

バーチャル静岡での点群データは、3Dレーザースキャナーで取得された、三次元座標による「位置情報」と光の反射強度による「色彩情報」を持った点の集まりを取得したもの。精度も高く、より現場そのものの「生データ」に近い。一方PLATEAUで公開されているCityGMLは、点群データを基に形状をモデリングし、属性情報と呼ばれる都市空間情報を付加したもの。

杉本:静岡県としては、ベースとして「点群」のデータがあればいい、と思っています。バーチャル・シンガポールには電線や高圧線の3Dデータはありませんが、バーチャル静岡にはあります。もちろん、すべてのケースで必要なわけではありませんが、オープンデータですので不要な場合はデータを活用する際に消せばいいのです。

 ただしバーチャル静岡の点群は、データ容量がものすごい大きさで、そこに課題があります。「バーチャル静岡のデータを一気に描画できるソフトはほとんどない」という状況です。しかし、そこは「うちのソフトでやるとあっという間に解決できますよ」という企業やエンジニアの出現を期待しているところもあります。

 バーチャル静岡は、そもそも建設・土木の現場に近いところから始まっています。例えば3Dのモデルを綺麗に作っても、それが現地に合わず、結局施工者が作り直すこともあり、3Dモデルが維持管理段階まで使われるケースが少ないという課題があります。

 そのため静岡県の場合、納品時に現場を点群データで納めるという形にしているのです。国土地理院で公開されている5mメッシュのデータでは水平な地面に見えても、現地には細かな凹凸があったりします。

 バーチャル静岡のデータを使えば、20cmメッシュのデータが作成できますので、現場での手戻りが減る可能性があります。

 一方で、(PLATEAUのような)建物のデータを3Dモデル化し、データを軽くして流通させることの価値も大きいと考えています。

 防災訓練や地元説明会で点群データをそのまま見せると、みなさんGoogleマップなどを見慣れているので「点の集まりで見づらい、汚い」と言われてしまうこともあります。そう考えると、PLATEAUのように建物を表示するほうがいいのかな、とも思います。

内山:はい、そこはお互い得意な分野で進めていけばいいと感じます。

デジタルツイン構築に必要な「オープンデータ」化

 PLATEAUとバーチャル静岡、データの形も作り方も違うが、双方認めるように、目指すところは同じ。ネットワーク内にもう一つの国土・地域を「デジタルツイン」という形で作ることだ。それを題材に、効率的なビジネスや新しい産業が生まれていく。

内山:デジタルツインにおいて最も重要なことは、私の理解では、サイバー空間での再現をどのくらい精緻にできるか、という点にあると思っています。

 リアルの空間を構成する要素は「形」だけではありません。人がいて、どんな活動をしているのか、という動的なデータが必要になります。そういう意味では「形状」も重要なのですが、そこに付加される「空間の意味」が一番重要です。我々がCityGMLという、マシンリーダブルなデータを使うのはそのためです。機械から見ればそのデータがまさに「リアルな空間そのもの」になりうるポテンシャルがある、ということになります。

 そこは、都市を再現したい我々と、土木的なソリューションとしてまずやっている静岡県の違いかな、と思います。

 ただ、違いはあっていいと思います。モデリングしたデータだからこそ、騒音などの動的なシミュレーションに使いやすい、という面はあるのですが、一方で「位置精度がもう少しほしい」と言われることもあります。例えば自動運転のようなジャンルではもっと精度が必要、と言われます。2500分の1のスケールでやっている限界ですね……。

杉本:同じ方向に国が向かっていっていただけるのは心強いですし、それをオープンデータとして公開していただけるのはとてもうれしいです。

 これまで、オープンデータ化したといっても「使用範囲に制限がある」「やっぱり使ってはいけない」という「なんちゃってオープンデータ」だった、というケースも数多くありました。シビックテック界隈では、ライセンスが不明なものは、後から何を言われるのか怖くて二次利用できないという意見がありますので、今回のPLATEAUが先行してオープンデータになることは、ものすごいインパクトがあります。

 公開された中に、モデルデータ・属性データもあれば、点群もある、ということで、お互いのベースがあることを説明したうえで、どちらを使いたいかはユーザーに委ねる、そういう形があっていいと思います。

 またシミュレーションの場合、リアルな街のデータまで進んでしまうと「怖すぎる」という声が出てくる問題もありそうですよね。

 例えばこちらは、バーチャル静岡の点群データを変換し、子供たちにも人気の『Minecraft』というゲームの中に静岡を再現したものです。県内のエンジニアの方が作成してくれました。

内山:これは面白いですね。街を破壊する人も出てきそうですけど(笑)。

杉本:ゲームの中ですのでそれでもいいと思うのです(笑)。もちろん、破壊するだけでなく仮想空間の中にバーチャル静岡のデータを使って自ら理想の街を作る、という子供たちが現れたらうれしいですね。

自由な「素材活用」のために認知と協力を拡大

 日本各地で都市の3Dモデル化と、それに伴うデジタルツイン構築が進んでいるという現状を、どれくらいの人が認識しているだろうか。そこには大きな可能性があるが、まだその手前の「認知」で止まっている部分もある。課題はやはり、認知と活用の推進だ。

内山:情報発信は重要です。オープンデータ化やシビックテックといった、イノベーティブな価値について、省内での理解を得ることに腐心しています。「時代はオープン化です」と触れ回っているのですが……。我々、国土交通省は基本的には「モノづくり」の組織ですから、「良いものを作れば発信は後からついてくる」という哲学もあると感じますが、特にデータについては「使ってもらわなければ意味がない」。幅広い層に興味を持ってもらって、触っていただくことが重要です。若手としては情報発信を大切にしていきたいと考えています。

杉本:情報発信の重要性はまったく同感です。2020年度、バーチャル静岡のオープンデータ化の取り組みでグッドデザイン賞をいただきましたが、応募した動機は、日本の測量技術で取得した高精度な点群データの可能性を一般の方に広く知っていただき活用してもらいたかったからです。

 オープンデータはあくまでも素材です。「良い素材」をおいしく調理してくれる料理人がいれば素材も活きてきますので、そこはやはりシビックテックや民間に期待したいです。

 かつて、日本にGoogleの「ストリートビュー」が上陸した時、「気持ち悪い」「プライバシーの侵害だ」とたたかれました。しかし今や、「なぜうちの周りの情報は古いの?」というクレームが逆に出る時代になっています。そのくらい価値は変遷しています。使う側にとって便利であれば、大きく変わってくるのです。

 そういった意味で、今回のPLATEAUにはたいへん期待をしています。都市の3D化技術を海外企業にもっていかれてしまうのは、個人的に良くないと思います。世界中の3D都市モデルは日本の技術が支えていると言われるくらいに普及すればうれしいですね。

 今や、iPhoneの最新機種にLiDARが搭載されて、簡単に空間を3Dスキャンできる時代になったので、これから数年の間で急激に進展すると思います。

内山:あれは今はロケーション情報がセットになっていないようですが、「誰でも3Dスキャンできる」ことは大きいですね。そのデータを全部米国企業に持っていかれる形ではなく、「日本で作って、日本で活用すると、こんな面白いことができる」という目線は重要です。

国土に関するデータ、経済活動に関するデータおよび自然現象に関するデータを検索、表示、ダウンロードできる「国土交通データプラットフォーム」。各種データとAPI連携し、データ連携を順次拡大していく
https://www.mlit-data.jp/platform/

 地理空間情報データを流通させるためのポータルとして、「国土交通データプラットフォーム」というものが実はあります。PLATEAUのCityGMLデータも、静岡県の点群データもそこに入ります。

 PLATEAUのデータは標準仕様であるCityGMLに則っていますので、我々としては2021年度以降、全国の自治体が仕様書を見て、同じようなデータセットで作っていただければと思います。仕様上拡張性は高いですし、粒度が違うデータも同じプラットフォーム上で結合して再現できますから。

杉本:実は静岡県だけでなく、他の自治体でも精細な点群データを取得しているところはあり、兵庫県や北海道、長野県でもオープンデータ化されています。でも、その他多くの自治体が取得している点群データはオープンデータになっていません。一度、みんなが持っているデータを出して集約してみてもいいのでは、と思っているのですが。

内山:データ流通は、自治体にとって難しいところはありますね。データの中身という点でも、例えば都市計画のための調査等で取得されたデータの中にはプライバシーデータになり得るものも含まれており、どこまでオープンにして、何をクローズにすべきか、クレームが入るリスクがあるのに何のためにオープン化するのか、自治体によって判断もまちまちです。

 ただ、オープンデータという思想は、一義的にはイノベーションの創出を目的とするものです。そうすると、役人が考える用途や目的の範疇でオープンの範囲を区切ることは自家撞着といえます。イノベーションの主役である市場や研究機関が自由に使える、という観点が重要です。

 PLATEAUの取り組みは、「ニューノーマルの時代にまちづくりはどう対応していくのか」というところから始まっています。あらゆる意味で、デジタルなソリューションがこれほど強く求められる契機は今までなかった。ある意味でチャンスです。国交省として新しい都市のあり方を世界に提示したいのです。そのためのソリューションを、みなさんで一緒に考えていければ……と思います。

杉本:自治体からすると、国が旗を振るのは大きいです。PLATEAUの取り組みは、ニューノーマル時代に、データが本当の意味でオープンになったということでたいへん画期的だと感じます。

内山:どこまでできるか、自治体の理解は必須です。国・自治体として「一緒にやっていきましょう」という認知を高めていきたいですね。

杉本:少なくとも静岡県は大丈夫です! いっしょにがんばっていきましょう。

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