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STARTUP×知財戦略 第41回

「スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE in 京都」レポート

時期、スピード感、ライセンス交渉 大学発ベンチャーの知財戦略

2020年02月06日 09時00分更新

文● BookLOUD 根本 編集●ASCII STARTUP 撮影●高橋智

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VCに聞く!「大学発ベンチャーが知財でやるべきこと」

 第2部では、ライフサイエンス・ヘルスケア領域における20年以上の研究開発・投資経験を持つ京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当部長 上野博之氏、大阪大学発の研究成果を活用したディープテックスタートアップを対象にシードラウンド投資を行なっている大阪大学ベンチャーキャピタル 投資部 シニアキャピタリスト 魚谷晃氏、京都大学の研究開発の知財化やそのマネジメントを手がける株式会社TLO京都 取締役 京大事業部門 事業部門長 古橋寛史氏、iPS細胞に関わる特許を出願し、それに基づく大学発ベンチャーの創出に向けた活動をしている京都大学 大学院医学研究科 呼吸器疾患創薬講座 山本佑樹氏に特許庁の進士氏を加えた5氏によるパネルディスカッション「VCに聞く!大学発ベンチャーが知財でやるべきこと」が行なわれた。

(左から)京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当部長 上野博之氏、大阪大学ベンチャーキャピタル 投資部 シニアキャピタリスト 魚谷晃氏、株式会社TLO京都 取締役 京大事業部門 事業部門長 古橋寛史氏、京都大学 大学院医学研究科 呼吸器疾患創薬講座 山本佑樹氏

 パネルディスカッションに先立ち、まず進士氏からグローバルと日本との間にある大学のシーズの実用化に関するスキームの違いが紹介された。グローバルでは大学で生まれたシーズはまずベンチャーに移転され、そこで育てた後で大企業へというスタイルが一般的である。これに対して日本ではまず大学側がどこの大企業に持っていけば買ってくれるかを考えてしまう。もっと大学がベンチャーを活用するようになれば、日本の大学の技術の実用化ももっと活発になるのではないかと進士氏は提言した。

グローバルと日本の大学発技術の実用化スタイルの違い(上野氏作成)

 大学発シーズの扱い方に関する課題意識の提示に続いて、各トピックについてパネラーからの意見を聞いた。まず大学VCやTLOがどのような意識で大学や大学発ベンチャーと仕事をしているのか、その立ち位置について聞いてみた。

進士:大学VCは大学側に立つのか? ベンチャー側に立つのか?

上野氏(以下、敬称略):基本的には中立的に利害関係をうまく調整することが必要。先生方や大学がベンチャーと直接やり取りすると難しいところが生じることがあるので、お互いの目線がどこにあるかをうまく調整することが大事。大学とベンチャーだけでなく、大企業や投資家含めると利害関係が複雑になる。そのなかで利害関係を調整することは、当社が果たすべき役割の1つと思っている。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当部長 上野博之氏

魚谷氏(以下、敬称略):大前提として、大学もベンチャーもハッピーになることを目指している。そのうえで、私はベンチャーの味方になっていることが多い。知財に関しては大学側とベンチャー側との間に知識・経験・情報等の非対称性があるので、両者でフェアな交渉をできるようにするためである。

進士氏:TLO vs ベンチャーという対立構図になっており、(TLOはベンチャーに対して)かなり高いハードルを設けているという話もきく。古橋さんはどういった姿勢でベンチャーとのライセンス交渉をしているか。

古橋氏(以下、敬称略):大学も大事だが、ベンチャーも我々のクライアント。最終的にベンチャーの仕事を成功させることが我々の仕事。だからかなり中立的な立場をとっている。大学とベンチャーの間に入って折り合いをつける、そのあと事業化に向けた支援をする、そういう組織。

進士:後から考えて、あのライセンス料率でよかったのか、もっと頑張るべきだったか、といったような声を聞く。これからベンチャーを作る人などもいると思うが、どういうようなことを目安に交渉すればいいのか。あるいは厳しい条件を突き付けられたベンチャーに対してどういうアドバイスをしているか。

上野:特に創薬のところだと、どこのステージで導入するかによって料率はかわる。そのあとどこのステージでイグジットするかでも変わってくる。

魚谷:事業分野、事業ステージ、ビジネスモデルなどがライセンス費用に大きな影響を与える。ベンチャー側として、不利な条件にならないようにするためには、相場観や経験のあるVC、弁理士等の専門家に相談しながら進めるのが良い。ライセンス費用に関して、先に申し上げた観点等からデータベース化したようなものがあれば便利なのですが。

進士:大学側としては、特許取得にかかった実費くらいは回収させてほしいという考えもあると思うが、たとえば外国出願まで含めて実費すべてというのはベンチャーには苦しい。そういうときにどういうアドバイスをするか。

古橋:100万円、200万円でもスタートアップには大金ですから、すべて前払いというのはないのが一般的。そこで大学の立場でどう回収していくかと考えると、マイルストーンを置いて、ある一定のステージに到達したら、そこで一部を返してもらう、さらに進んだらさらに返してもらうといったマイルストーン方式で回収するか、売上が立ったところでロイヤリティーという形で回収する。(事前予想より)もっと儲かったら、むしろ料率は下げてあげるケースもある。

進士:大学もさまざまだが、料率の支払い方はあとで変更交渉可能なのか。

魚谷:古橋さんがおっしゃられている通り、ライセンス費用(アップフロント)の全額前払いはあまり聞かず、マイルストーンごとに段階的に支払っていくスキームが多いのではないか。特にキャッシュに乏しい創業初期の支払いは少な目にして、成功したときにプロフィットをシェアするという考え方が理想。仮に、ベンチャーが成功する前に大学側への支払い負担が大きくなると、大学発ベンチャーは育たないと考えている。

進士:ベンチャーはいつつぶれるかわからないから、ライセンス料を取れるときに取っておかないと、と言う大学もあると聞いている。関西の大学では大学発ベンチャーが増えているというが、交渉すれば大学側も耳を傾けてくれる環境にあるのか。

上野:日本でテックトランスファーは危機的な状況にあると考えている。グローバルスタンダードとして、大学のシーズがベンチャーで育成されて、それから大企業に移るというスタイルがあるが、多くの日本の大学のテックトランスファーに聞くと、(パワーポイント画面の)下側のスタイルになっている。一方、大企業の多くはグローバルスタンダード型に向かっている。大学も未成熟な技術をベンチャーで育てるというスタイルが将来の収益の柱になると思う。短期的な回収を目指して進むのではなくて、中長期的な目線でベンチャーと一緒にモノを作っていくというスタイルが日本に定着してほしい。

進士:山本さん、ライセンス料率はこういう考え方でいけばいいんじゃないか、支払い方もいろいろあるよという話があったが、もう少し聞いておきたいことや、ほかに聞きたいことはあるか。

山本氏(以下、敬称略):ライセンス交渉についていうと、会社を作って立ち上げてからやり始めるというより、大学の中にいる状況からすでに交渉を始めている。そうすると大学のなかにいながら大学から知財を受けて起業して、とどっちつかずの立場になる。どうやって誰に相談すればいいのか。私もベンチャーを作る立場なので、ある程度ベンチャーに有利な立場でライセンスを受けたいし、一方で発明者でもあるし難しい立ち位置にいる。どういう枠組みでライセンス交渉などをやればいいのか。

京都大学 大学院医学研究科 呼吸器疾患創薬講座 山本佑樹氏

上野:ひとつは民間のVCとかに向かう前の段階、プレシード・シードの期間に交渉するというのがありかなと。長いものだと1年半とか交渉したこともある。その間にフェアバリューを定めればよい。

魚谷:知識や経験のある専門家に頼るしかないと思う。京都大学の方はiCAPさんが近くにいるからラッキー。一方、身近に相談できるVCや知財交渉に精通している弁理士がない場合は大変困ることになる。

進士:ベンチャーの立ち上げ支援をやっている方に聞くと、大学発ベンチャーにとって大学との知財交渉はその後の事業の成長にも響いてくるので、後で困ることがないよう、プロを頼って必要なお金を使いなさい、という意見もある。

上野:大学だけじゃなくて、いろんなところでこういうベンチャーへのライセンスをどうするかというノウハウ自体が日本に少ない。

進士:今だんだんベンチャーフレンドリーになってきている気がする。昔厳しい条件を付けられてしまったベンチャーがもう一度大学と交渉し直して、料率を下げてもらったという事例も何件か聞いている。そういった変更はどのTLOや大学でも受け入れてもらえるものなのか。

古橋:そのときのステージや資金調達の状況に応じて変更契約に応じていくのが大事だと思う。ベンチャーも始めた時に想像していなかった状況になったりするので、状況が変わったということを我々がしっかり把握した上で大学に伝えて、変更しないとどうにもならないから一緒に考えましょうと大学に伝えなくてはならない。

魚谷:大学側には状況に応じて柔軟に考えてもらえるとありがたい。特に創業初期のベンチャーにとってはビジネスモデルやエコノミクス(売上、原価等)が固まっていないことも多く、そのような状況の中で決まったライセンス費用が有無を言わさず適用されてしまうと、ベンチャーにとっては非常に辛いことになってしまいかねない。

進士:最初の製品に占める大学の特許の価値の割合は、最初は高いかもしれないが、ベンチャーが研究開発を進め自身の知財を構築していくと、その後の製品に占める大学特許の価値の割合は当然下がってくる。そういう考え方で行くと、当然ライセンス料率の減少も合理的ではないか、ということで受け入れているとある大学関係者に言われた。

進士:最近ライセンス契約でストックオプションを活用するという話をよく聞く。何が良いのか、注意すべき点はないか教えてほしい。

上野:私は使ったことがない。注意点としては税務リスクが将来的に発生するかもしれない。今後は議論しなくてはならない。

魚谷:最大の利点はキャッシュアウトが抑えられること。注意点としては、ストックオプションの価値がわかりにくい点。たとえば、もともとアップフロント500万円だったものをストックオプション支払いにするときに何株発行するのか等を誰がどう設計するか。

古橋:たとえばIPOしたときにはどのくらいのバリューがついて、我々がどのくらいのストックを持つことになれば、どのくらいのお金をキャッシュでもらうことができるのだろう、といった話になると思う。

山本:ちゃんとVCなどが入っていて資本政策をちゃんとやるところはやりやすいと思う。そうではなくて会社を立ち上げたけどライセンスなどは自前でやるとするとバリュエーションはわからないし、ストックオプションをどう計算するのかとか、500万に相当するストックオプションを持っていかれると大変なことになるぞとか(が心配)。

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