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海外展開に向けたスタートアップと知財戦略

スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE in 大阪レポート

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スタートアップと海外展開 ~知財、契約で気をつけるべきこと~

 第2部は、CPJAPAN綜合特許事務所 弁理士 井関 勝守氏、IP Bridge イノベーション事業部担当ディレクター 金野 諭氏、Abies Ventures ベンチャーパートナー 長野 草太氏、株式会社I&C 代表取締役社長 佐田 幸夫氏の4氏に特許庁の菊地氏を加えたメンバーで、「スタートアップと海外展開 ~知財、契約で気をつけるべきこと~」と題したパネルディスカッションが行われた。以下、各氏の発言からスタートアップが海外展開を志したときに特に留意すべき点を取り上げる。

菊地氏(以下、敬称略):海外展開にあたって、知財に関してどのように向き合っているのかを聞きたい。また海外の展示会で気を付けなくてはいけないことがあれば教えて欲しい。

佐田氏(以下、敬称略):当社に知財の専任担当者はおらず、開発担当者が知財を見ている。発明協会の支援制度を利用して、海外展開にあたって必要なことをリストアップしたり、定期的にブレーンストーミングをさせてもらっている。

 中国の展示会に出展すると、1年後くらいには完ぺきなコピー商品が出回るし、商品カタログさえもロゴを除けばそっくりそのままのものが出てくる。家具とかインテリアはコピーされやすい。知財として守りにくいので、構造・設計と意匠を組み合わせて保護できるようにしている。

井関氏(以下、敬称略):知財専門家は、いかにスタートアップとの信頼関係を築いていくかが大事。そのために、そのスタートアップがどういう技術・知財を持っているのか、それをどのようにビジネスに生かしていこうとしているのか、そういった話をなるべく多く何度も聞くようにしている。そうしてそのスタートアップがすごいと思えば支援したくなるし、逆にスタートアップの側からも一緒にやってみようかと思ってもらえる。

長野氏(以下、敬称略):国内スタートアップは、まず日本で足場固めをしてから海外へ、という手順を踏むことが多かった。しかし技術研究系の事業には国境がないという特徴があり、そのため学会や技術を見ているVCからはスタートアップがどんな動きをしているかすぐにわかってしまう。例えば米国では訴訟件数の4割が売上10億円未満の企業となっている。つまり足場固めをしているうちに訴状が送られてこないとも限らない。

 海外では性善説は全く通用しない。自社でブレークスルーが生まれない場合、知財を使って戦略的に他社の足止めをするということもある。きちんと準備をしておく必要がある。

金野氏(以下、敬称略):海外だと特許出願から承認までに1か国あたり100万円程度かかる。そこでお勧めなのがPCT(Patent Cooperation Treaty:特許協力条約)出願。PCT出願をするとサーチレポートが返ってくるから、自社の技術に近いものにどのようなものがあるかがわかる。また、PCT出願をすると30か月以内にどこの国に出願するかを決めなくてはならない。事業展開に向けた締め切りが決まるとモチベーションアップにもなるので、うまく活用して欲しい。

 菊地:海外企業と契約を結ぶ際には特に気をつけないといけないと個人的には思っている。海外企業との契約、特に共同研究契約で注意すべきことや、もし失敗事例があれば教えて欲しい。

佐田:以前、営業支援をしてもらっている会社に海外代理店契約の契約書を安く作ってもらおうとした。しかし知財の専門家ではなかったため、中国の企業側がかなり有利になっていた。後で専門家に入ってもらって修正した。

 交渉の際も、日本ではお互いに歩み寄って着地点を探すが、海外では強気でどんどん言われてしまい、不利な契約になってしまうことがある。また、製造委託でも日本では協力会社の権利に関してあまり厳しいことは言わないが、中国では1次の協力会社が誠実であっても、その先の2次、3次の協力会社がどうであるかはわからない。情報遺漏などをどう抑制していくかが重要な課題である。

 井関:海外の展示会では、中国や東南アジアの企業とその場で商談になることがある。しかし展示会の現場に来ている社員には、突然そこまでの話になる気持ちの準備もなければ、ビジネス上の準備もない。そして後手後手に回って話が立ち消えになってしまったりする。

 逆に海外のベンチャーが日本に入ってくる場合でも、日本の大企業は話を詰めるのに時間がかかりすぎると言われた。スタートアップなら承認ルートは短いと思うが、交渉担当者もしくはそのすぐ上の人で結論を出せるようにするなどの準備が必要。

 権利の帰属や実施期間、権利の対象などで、譲れないところが出てくるかもしれないが、そこにこだわりすぎると時間がかかりすぎ、話自体がなくなってしまうこともある。契約はビジネスをうまくやるためのものだから、権利の帰属自体にこだわりすぎず、実を取るというスタンスも大事ではないかと思う。

金野:共通の目標を持ち、対等なパートナーとしてその目的を一緒に達成するという約束が共同開発契約である。大手からスタートアップへの受託開発契約になってはいけない。大手との交渉のためにベンチャーが持っていなくてはならないのが知財。費用が限られている場合は、PCTサーチレポートを使って知財の帰属のクリアランスを確保し、対等な関係で勝負する意識を持つべきと思う。

長野:Agree to disagreeという言葉がある。見解の相違を認めようというような意味だが、議論がまとまらなかったときにはそれを書面に残した上で先に進めるしかない。権利の確保とビジネスのスピード感のバランスが大事。そのためにも実例を踏まえたアドバイスができる専門家を身近に置いておくことが重要である。事業者の側も様々なシナリオを考えて能動的に契約書をチェックできるようになっておかなくてはならない。

 また、大手から共同研究を持ちかけられると、スタートアップとしてはすぐ応じてしまいそうになるが、そうなった場合、それと競合するような企業からのビジネスチャンスをふいにしてしまう可能性もあることに留意しなくてはならない。そういった点も踏まえて、専門家からビジネス戦略や資金調達についてアドバイスを受けるべきだろう。

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