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“データドリブン”化する医療業界、HealthTechと日本の課題は

スタートアップと産学官が登壇、2030年のHealthTechを考えた「Japan Innovation Day 2019」レポート

連載
JAPAN INNOVATION DAY 2019

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超高齢化の進む“課題先進国”日本だからこそ優位に立てる医療ビジネスを考える

 超高齢化社会が到来し、医療費増大などの社会課題を抱える“課題先進国”となった日本の行政にとっても、国内におけるHealthTechの育成や浸透、バイオベンチャー支援などの取り組みが重要なものになっている。

 

 2015年に発足した日本医療研究開発機構(AMED、エイメド)は、経済産業省、文部科学省、厚生労働省の3省が“縦割り行政”で個別に実施してきた医療分野の研究開発を一元管理することで、研究予算配分の効率化や成果の向上を図る組織だ。

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED、エイメド)戦略推進部 難病研究課/臨床研究・治験基盤事業部 臨床研究課の安水大介氏。心臓血管外科医としてのキャリアも持つ

 AMEDの安水大介氏は、超高齢化社会という課題先進国であることは“メリット”に転換させ得る可能性があることなどを説明する。

 「たとえば認知症、アルツハイマー病に対しての新しい治療法のフィジビリティスタディ(実現可能性検証)を実施し、日本で成功すれば、将来的には国際展開していけるはずだ」(安水氏)

 またAMEDは、国際的なゲノム医療の取り組みである「Global Alliance for Genomics & Health(GA4GH)」にも参画している。

 このアライアンスでは、ゲノム医療の実現のために、ゲノムデータや臨床データを安全に共有することや倫理等の諸問題についてデータフォーマットの標準化や各種ルール作り等について協議されている。

 「GA4GHで特徴的な点は、いわゆる“GAFA”と呼ばれるような(テクノロジー系)企業も参画していること。データストレージや(ビッグデータ)解析に強みを持つ、こうした会社も含めて国際的なフレームワークのあり方等が議論されている」(安水氏)

「Global Alliance for Genomics & Health(GA4GH)」の概要。クラウドサービス事業者であるAWSやGoogleなども名を連ねる

 新たな研究手法として、前述のPrecision Medicineやオミックスデータ同様に、ゲノム情報から医療情報、環境データ、ライフスタイルのデータなどを取り込み、「全体」をビッグデータ解析することで、病気の予防や最適な医療の実現を目指すような方法論も紹介された。

再生医療で“心不全パンデミック”を防ぐ、低コスト化を図り国際競争に打ち勝つ

 最後にメトセラの野上健一氏が、HealthTechスタートアップの立場から、バイオベンチャーをめぐる状況や日本市場における課題などを語った。

メトセラ 代表取締役Co-Founder&Co-CEOの野上健一氏。メガバンクや投資銀行など金融業界、外資系オンラインEC企業を経て、現職で事業化の責任者を務める

 2016年創業のメトセラは、心不全患者の治療に使える心筋細胞の再生医療に取り組むバイオベンチャーだ。野上氏は、メトセラのビジネスは社会的要請に応えるものであり「成功させないといけないと思っている」と語る。社会全体の高齢化に伴って心不全患者数も増え、医療費が爆発的に増大する「心不全パンデミック」が予測されているからだ。

 「たとえば米国では現在およそ600万人の心不全患者がいるが、それが2030年には800万人超まで増えると予測されている。それに伴って現在すでに3兆円かかっている医療費は7兆円超になる。より効率的な治療法を研究していかないと、大変なことになる」

心不全患者数と医療費が増大することで「心不全パンデミック」が予測されている

 そこでメトセラでは、線維芽細胞を用いて心筋細胞の再生を助ける「VCF」という細胞医薬品を研究開発している。すでにラットを使った試験では心不全に対する高い治療効果を確認しており、現在は臨床応用に向けた取り組みを進めている。

 心不全治療の分野にはすでに世界各国のバイオベンチャーが参入し、熾烈な競争を繰り広げているという。その中で勝ち残る戦略として、野上氏は「治療コストの低廉化」を挙げた。米国のデータでは、患者1人あたりの生涯医療費(投与される医薬品のコスト)として1000万円ほどかかっているが、メトセラではVCFによる治療でそのコストと同等、あるいは低減させることを達成していきたいと目標を語る。

野上氏は、メトセラではでは「シンプルな培養工程」を実現することで低コスト化を図るアプローチをとっていると説明した

 バイオベンチャーをめぐる日本国内の投資環境について、野上氏は、シード期はサポートが手厚く「ものすごく恵まれている」と感じる反面、会社設立後の「行く先が限られている」点、「その後をどう調達するのか、どうサバイブしていくか」が難しいと課題を指摘した。日本のファンドは比較的幅広い領域を投資対象としたものが多いが、米国では「がんだけ」「心臓疾患だけ」といった専門的なファンドもあるという。

 筑波大学の小栁氏は、米国ではそうした専門的知見に基づく評価もベンチャーキャピタルの役割であり、それが前述した多額のシリーズA調達額にもつながっていることを指摘。日本国内でもそうした環境を作っていきたいと語った。

* * *

 セッション最後に設けられた質疑応答の時間では、会場から「米国などと比較して、日本のバイオベンチャーは“出口(イグジット段階)”で苦労しているイメージがある」という意見が出された。

 楠氏はこれに同意し、同領域では日本国内に「引き取り手」となる企業がなかなかいないこと、また米国など海外でのIPOを目指す場合でも、初期の投資額が少ないために必要となるデータが揃えられないことなどの課題を指摘。「そのあたりをもう少しシステムとして改善していかなければならない」と述べた。

 また安水氏は、医療/ヘルスケア分野では「国ごとにルールが異なる」ことが難しさの一因であると語った。ただし、現在は医薬品医療機器総合機構(PMDA)という組織があり、そこであらかじめ相談することによって医薬品や医療機器の申請で必要となる検査を明確にすることができ「しなくていい検査を省ける」といったメリットもあると説明。「これからは企業と行政のさらなる対話、連携が重要」だと述べた。

 最後に各登壇者から、医療/ヘルスケア領域は「成長産業」であることは間違いなく、官民の連携、さらには異業種の民間企業どうしの連携なども強化しながら、次世代医療を発展させていきたいとの抱負が語られた。

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