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アスキーエキスパート第36回

「ICO」の正体 その4

ICOは「投資」ではない

2017年11月02日 09時00分更新

文● 増島雅和/アスキーエキスパート

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国内の”知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。数多くの事業提携M&Aと資金調達を手がける森・濱田松本法律事務所の増島雅和氏によるICO(Initial Coin Offering)が持つイノベーションの可能性についてお届けします。

前回までのおさらい
 第1回から第3回までで、「ICOとはなにか」ということをご説明してきました。【「その1 仮想通貨で資金調達、ICO(トークンセールス)とは何か」「その2 ICOの枠組みの中で考える必要がないものとは」「その3 仮想通貨と金融規制をめぐるICOの世界的な実務」】

 ICO(Initial Coin Offering)という用語がバズワードのように用いられる結果、金融のプリンシプルに違反するような概念や、すでに既存の法令がカバーしている取引がICOの名のもとにゴッチャになって語られてしまい、現在、新たに可能性の追求が模索されている「正しいICO」が見えなくなってしまうばかりか、誤ったICO(エセICO)によって本来の「正しいICO」までが潰されてしまいかねない、という問題意識によるものです。

 今回からは、ICO(トークンセールス)の真の姿と、これが日本の産業戦略にどのように関連しうるのかということをご説明したいと思います。

トークンによる資金調達の真実

 第1回で、「ICOというのはそもそも資金調達目的が必要だ」ということを指摘しました。ではここで行なわれる資金調達というのは、果たしてどのような資金需要によるものなのでしょうか。

 ファンド持分や負債性証券などの有価証券であれば、プロジェクトから上がる収益が分配されますので、その収益の分け前にあずかることを期して、有価証券に投資するという非常に簡単な話になります。

 しかし、これまでご説明したとおり、ICOで販売されるトークンは、収益の分配が許されません。

 また、トークンと引き換えに何かをもらえたり、便益を受けたりすることが約束されているのであれば、その見返りを受けたい人がトークンを買ってくれるかもしれません。

 しかし、これまでご説明したとおり、ICOで販売されるトークンは前払式支払手段に該当してしまうと資金調達目的を十分に果たすことができませんので、このようなトークンと引き換えになにかの便益を受けられるという性質をもたせることができません。

 では、果たしてそのようなトークンを人々が購入してくれるのでしょうか。逆に言えば、このような制約のもとで、ICOのトークンはどんな設計をすればよいのでしょうか。

ICOにおいてもっとも重要なトークンの設計

 トークンの設計は、ICOにおいてもっとも重要なパートであり、現在多くのICOプロジェクトは、このトークンの機能性(functionality)を巡ってさまざまな試行錯誤を行なっています。

 この記事はトークンの設計のコツを皆さんにお教えする記事ではありませんので、この点については深入りしません。トークンの機能性としては、「usage token」と呼ばれるものと「work token」と呼ばれるものとがあり、これらを組み合わせることでこれまでさまざまなトークンが設計されているということのみをお知らせします。トークンの設計が気になる皆さんは、ぜひいろいろなICO案件のホワイトペーパーを読んでみてください。

 申し上げたいのは、トークンは多くの場合、発行者が現在創ろうとしているインターネット上のプロダクトやネットワークにアクセスするための通貨となることを期して設計されているということです。

 トークンは将来そのように消費され、したがってプロダクトやネットワークにアクセスすることを希望する人は、どこからかトークンを調達してこなければいけません。ここにトークンの需要が生まれ、購入したい人に対してトークンを持っている人がこれを売却するという活動が生まれます。

 このような活動を最も効率的に行なう方法は、トークンの売買需要に関する情報を1ヵ所に集めて、取引をしやすくする取引所です。そこで初めて、取引所において取扱う必要が認められ、取扱いが開始されることによって不特定の者との間での交換が実現し、トークンが仮想通貨になるというのが想定されたモデルです。ほかの性質を持つことも考えられますが、いずれにしてもトークンそのものが何らかの実需を持つように作られているというのがポイントです。

 なお、このプロダクトやネットワークに利用することができるという性質をトークンに付与するとしても、これが前払式支払手段に該当してしまってはいけないことにご留意ください。発行者自身や発行者と契約を締結する加盟店でしか用いることができないというものは前払式支払手段であって仮想通貨ではありません。

 このことは何を意味しているのかというと、ICOによる資金調達を行なう際には、そのプロジェクトにつき何らかの意味で非中央集権的なモデルを内部に組み込まなければならないということです。プロダクトやネットワークから生まれるすべての価値を囲い込もうという発想を持った事業者の資金調達にはICOを用いることができないということです。

 その意味で、ICOというのは、有価証券による資金調達とは大きく異なり、非中央集権的なビジネスモデルを内部に持つことを決めた事業者にしか行なうことはできません。逆に言えば、そうした要素を欠くICOプロジェクトは、どこか不適切な要素がある可能性が高いということです。

 もちろん、ICOが今後どのように発展するのか誰にも分かりませんが、有価証券に該当してはならず、前払式支払手段にも該当してはならないトークンに、一定の価値を乗せるということは、そのようなことであるというのが現在のところ判明している知見です。

※このようなアクセス性による機能というのは、そのトークンを取り巻くネットワークが拡大するに連れて薄れていく可能性があります。たとえばビットコインはビットコインブロックチェーンを利用する(たとえば送金する)ための手数料の支払いに必要ですが、この点をあまり意識することなく需要が生まれるほどにネットワークが拡大した例といえるでしょう。ちなみに、アクセス性による機能という性質は、仮想通貨に限らず法定通貨にも見られる性質です。たとえばもともと法定通貨は、その発行体である政府に対して税金を納めるためにはその通貨でなければならないと定めることによって、国民のほかその国家に何らかアクセスすることを希望する人に対して、その法定通貨に対する需要を生むことで、価値をもたせるという構造を持っています。

トークンに対する「投資」の真実

 上記で指摘したとおり、トークンはプロジェクトやネットワークへのアクセスのための通貨として機能するように設計されることになる、というのが基本的なトークンの設計パターンです。すなわち、トークンは、特にその初期段階では、それ自体の機能性(functionality)によって価値を持ち、これによって人々の間に需要が生まれ、これがトークンの交換動機となるという仕組みです。

 この需要がどのように高まっていくかというと、それはこのトークンを取り巻くネットワークが人々の間でどれだけの価値が認められるかということによって決まります。ネットワークというのは外部性を持ち、この外部性によって初めて大きな価値を生みます。

 最も単純な例として、電話のネットワークは電話の持ち主が1人であるときには、その1人にアクセスをしたいという人に対してしか価値がありませんが、1億人がこのネットワークにアクセスできる状態になっていると、その1億人のうちの誰かにアクセスしたい人にとって価値が認められます。同じ物理的な電話網であっても、後者のほうがその価値が高いことは明らかでしょう。近時は、このネットワークを複数のクラスタにとって意味のあるように設計していくマルチサイドなネットワーク効果を狙ってサービスを設計するようになっていることをご存じの方もいらっしゃるでしょう。

 ここで指摘してきたいのは、単にトークンが人々の間で交換可能な状態になった(流動性が確保された)ということのみでトークンに価値など乗りはしないということです。ビットコインですら、取引所で取引されるようになってから現在のような価格になるまで何年もの時間がかかりました。ビットコインブロックチェーンの機能性が人々に認められ、ビットコインを受容する人々のネットワークに価値があると人々が認めたことによって、ビットコインは現在のような地位を獲得しました。

 ICOという、IPOをもじったような名称をトークンセールスに与えたことが、仮想通貨に対するリテラシーを欠く多くの人の誤解を誘発していることは間違いないでしょう。トークンは、取引所で取り扱われることのみによって価格が上昇したりなどしませんし、そのようなものは何の実態もないバブルであると言われても仕方がありません。

 まずはプロダクトが存在し、そのプロダクトのまわりにネットワークが構築され拡張し、そのネットワークへのアクセスのために必要なトークンに人々の間で価値が認められることで初めて、トークンが交換可能な状態に意味がでてくるということです。トークンを取り巻くネットワークの成長は、インターネットという巨大なネットワークの中で、徐々に、静かに行なわれる非中央集権的な過程であって、そこにはIPOのようなお祭り騒ぎはありません。

 ICOというのは、あくまで購入型のクラウドファンディングであり、トークンの購入は、あくまで、プロジェクトの将来性に対する評価や、これに対する支援・支持を動機として行なわれるべきものです。まともなICOは、トークンを投資であるとは一言も言ってはいけないことになっており、また将来トークンの値段が上がるなどということも一言も言っていません。むしろ、これまで見てきたとおり、トークンが取引所で交換できるようになるなどということも断言してはならないというのが、トークンセールスを適法に成り立たせるための要件であります。

 購入型クラウドファンディングで、プロジェクト実行者に対して資金を拠出することを「投資」と言わないように、ICOにおいてトークンを購入することを「投資」と表現することは、言葉の用い方として不適切です。言葉の用い方は、それ自身によって物事の本質を人々に誤解させます。アイディアを拡散することを仕事とするメディアに携わる皆さんは、自分が誤った考えを人々に伝え、無意味かつ有害なバブルを創り出す元凶になりうるということをよく心得ていただきたいと思います。

アスキーエキスパート筆者紹介─増島雅和(ますじままさかず)

著者近影 増島雅和

森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士。
シリコンバレーの法律事務所勤務を経て、金融庁監督局で金融行政に携わる傍らで日米合弁シンクタンクの研究員として日本の産業競争力向上に関する政策提言などを行う。現在は金融機関のM&Aアドバイスを主として手がける傍ら、スタートアップの事業成長支援、金融機関を含む大企業のオープン・イノベーション支援に携わる。
日本最大のFinTechインキュベーションオフィスFINOLABの運営パートナーFINOVATORS代表、日本クラウドファンディング協会理事等を務める。

※この記事はStartup Innovatorsにて9月21日に掲載された記事を編集したものです。

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