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アスキーエキスパート第33回

「ICO」の正体 その2

ICOの枠組みの中で考える必要がないものとは

2017年09月28日 09時00分更新

文● 増島雅和/アスキーエキスパート

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国内の”知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。数多くの事業提携M&Aと資金調達を手がける森・濱田松本法律事務所の増島雅和氏によるICO(Initial Coin Offering)が持つイノベーションの可能性についてお届けします。

 日本では今年の8月から急な盛り上がりを見せているICOについて、まずはこれを正しく定義する必要があるとして、ICOとは「デジタルトークンをリワードとして提供することで仮想通貨を調達する購入型クラウドファンディング」であるとご説明しました。そのうえで、前回は正しいICOではないもの(ニセICO)について以下の2つを指摘しました。

●資金調達目的がないものはICOではない
●法定通貨を調達するものはICOではない

 この2つは、有用なICOを通じて社会にプラスの影響を与えていくために不可欠な制度的基盤として押さえられるべきものであります。

 今回は、ほかの法制度のもとですでにカバーされており、ICOと呼ぶことでかえって概念を混同させるために、ICOの枠組みの中で考える必要がないものについてご説明します。

利益分配されるものはICOではない

 まず、プロジェクトから生まれる収益を分配されるという性質のトークンを販売するものはICOではありません。より正確にいうと、現在の世界の趨勢では、こうしたものをICOの名のもとに行なうことに対しては、各国から厳しい評価がなされており、日本においても、これらをICOのなかに含めて議論することは避けるべきである、ということであります。

 収益の分配が行なわれるものとして想定されるもののなかには、大きく、1.拠出元本と利息が戻ってくるタイプのものと、2.収益が出た場合にこれを分配していくタイプのものとが考えられます。1.は貸付型クラウドファンディングに相当し、2.は投資型クラウドファンディングに相当するものということになります。

 これまでご説明してきたとおり、法定通貨を調達するものはICOの対象から外すべきですので、1.も2.も、金銭ではなく仮想通貨を調達する点が、これまでのクラウドファンディングと違う点であるということになります。

 また、調達する資金が法定通貨か仮想通貨かということとは別の話として、ここで分配される収益についても、法定通貨によるものである類型と、仮想通貨によるものであるという類型が論理的には考えられます。分配される収益が法定通貨建てのものについては、話がより複雑になるので、ここでは議論しませんが、結論としては現行法の規制下にあるものとして取り扱われるべきということになります。

 いろいろと話がややこしくなってきました。

 要は、「仮想通貨を拠出してくれたら、何らかの収益を渡しますよ」というもののなかには、1.「元利金を返済します」というものと、2.「利益が出た場合にその一部をシェアします」というものがあって、それぞれについて、「金銭で支払います」というものと「仮想通貨で支払います」というものがあるということです。そのうち、「金銭で支払います」というものについては、基本的には既存の金融取引と同じですので、ICOという議論をする必要はなく、「仮想通貨で支払います」というものについてどう考えますか、というのがここでの論点ということであります。

 それぞれについて、日本と現行法制度上の整理と、世界の趨勢についてご説明しましょう。

仮想通貨を調達する貸付型クラウドファンディングタイプのトークンセールス

 これは、仮想通貨建てで拠出元本と一定の利息の返還を約束したトークンを一般に販売し、その対価として仮想通貨を調達するタイプのものです。

 これは日本の現行法制のもとでは、1.そのようなトークンは社債その他の有価証券に当たり資金調達側について金商法の規制を受けるか、2.仮想通貨を拠出する側(トークンを購入する側)について貸金業法の規制を受けるか、ということが問題となります。

 この点、現在の支配的な日本法の解釈のもとでは、まず1.について、「仮想通貨による元利金の返還を約束したものは社債やそのほかの有価証券には該当しないため、形式的には金商法の規制は課されないということになるものの、単に仮想通貨建てであるということだけでそのほかの利益状況が法定通貨建てのものと同様である場合には、そのようなものについて金商法の適用がないものとして規制を無視することは金商法の潜脱に当たり許されない」ということになると思われます。

 同様に、2.についても、仮想通貨を貸し付けることは貸金業法に該当しないため、このようなトークンを購入する人たちは貸金業法の登録は不要、というのが現在の日本法の解釈の基本的な立場ということになります。他方において、金銭が必要な人に金銭を貸し付けた場合には貸金業法が適用されることになっているなかで、この規制をかいくぐるために仮想通貨建てで貸し付ければ何も規制が課されないというのはおかしなことであります。したがって、このような規制逃れのようなものは貸金業法の潜脱にあたり許されないものと考えるべきでしょう。

仮想通貨を調達する投資型クラウドファンディングタイプのトークンセールス

 これは、収益が上がった場合に仮想通貨によってこれを分配することを約束したトークンを一般に販売し、その対価として仮想通貨を調達するタイプのものです。

 これは日本の現行法制のもとでは、そのようなトークンは集団的投資スキームに該当し、資金調達側について金商法の規制を受けるか、ということが問題となります。

 この点も法律上はさまざまな神経質な議論があるのですが、結論としては、「仮想通貨による拠出を受けるものは、金商法上は形式的には集団的投資スキームには該当しないものの、そのほかの利益状況が法定通貨建てのものと同じである場合には、そのようなものについて金商法の適用がないものとして規制を無視することは金商法の潜脱に当たり許されない」ということになります。

世界の趨勢

 米国SECは2017年7月25日、The DAOにおける持分の販売は有価証券の募集に該当するものとして、登録を行なうことなくこれを米国居住者に販売することは1933年証券法に違反するとともに、資格を取得することなくその持分を交換する業務に従事することは1934年証券取引所法に違反することを公表しました。

 これに続く形で、シンガポールMASは2017年8月1日、発行者の資産・財産に対する所有権やエクイティー上の利益を表章するデジタルトークンの販売は、Securities and Futures Act(SFA)における株式の募集または集団的投資スキームの持分の募集に該当するものとしてSFAの規制のもとに置かれることを明言しました。さらにシンガポールMASは、負債としての性質を持つトークンがdebentureとしてSFAの規制のもとに置かれることについても述べています。同様のリリースは、2017年9月5日付で香港SFCにおいても発出されています。

 このように世界の趨勢では、法定通貨と仮想通貨を区別することなく、証券法制上の有価証券に該当する性質を持つものは、それぞれの証券法制によって規制されるということが明らかになってきています。

 ICOというのはインターネット上で行なうクラウドファンディングですので、その本来の性質としてグローバルなものです。金商法の適用について、仮想通貨と法定通貨を分けて整理しようとする現行日本法の建付けのもとで、法解釈論的に日本法の厳密な解釈を行なうこと自体を否定するものではありませんし、日本国内に限定された案件について、そのような議論をしなければならない場面もあるのは事実ですが、ことICOというグローバルな現象との関係では、こうしたマイクロな議論を展開しても詮無いものがあります。

 したがって、ICOの文脈においては、日本法に関する細かい議論にかかわらず、「利益分配されるものはICOではない」と整理しておくことが適切であると考えます。

トークン発行者が義務を負うものはICOではない

 最後に、発行されたトークンを提示することで、トークン発行者やその事業パートナーが、保有者に対して商品やサービスを提供することを義務付けられている場合、そのようなトークンは前払式支払手段に該当する可能性があります。

 購入型クラウドファンディングを行なうときに注意しなければならないこととして、提供するリワードが将来における一定の約束の形をとっているものについて、これが前払式支払手段に該当しないようにしなければならない、というものがあります。通常の購入型クラウドファンディングの場合には、支援してくれた特定の人に対する商品やサービスの予約販売に過ぎず、引換券の形式をとっているものであっても、それは単なる証拠証券として、前払式支払手段に該当しないという結論になるのが一般的です。

 これに対して、トークンはブロックチェーン上で発行され、譲渡を容易に行なうことができる性質を持っています。その結果、ICOのリワードを通常のクラウドファンディングのように設定してしまうと、支援者に対する予約販売というよりは、トークン保有者に対するリワード提供というかたちになってしまい、前払式支払手段の法制に入り込んでしまいます。

 トークンが前払式支払手段に該当する場合、それが発行者に対してしか使用することができないものである場合には、自家型前払式支払手段として、毎年3月末と9月末の時点で未使用残高が1000万円を超えている場合には、所管財務局に届出を行なうことが求められるとともに、未使用残高の50%を供託することが義務付けられます。資金調達を目的としたトークンの販売について、その50%を供託しなければならないというのでは、その目的をはたすことが難しいと思われます。

 トークンが、発行者ではない者(加盟店)に対して利用することができる場合には、第三者型前払式支払手段に該当するものとして、事前に所管財務局に登録を行なわなければ発行することができません。

 トークンの種類として、何かに使用することができるものをusage tokenなどと呼んでいますが、usage tokenとして設計する場合には、前払式支払手段に該当しないように設計することが大切です。

アスキーエキスパート筆者紹介─増島雅和(ますじままさかず)

著者近影 増島雅和

森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士。
シリコンバレーの法律事務所勤務を経て、金融庁監督局で金融行政に携わる傍らで日米合弁シンクタンクの研究員として日本の産業競争力向上に関する政策提言などを行う。現在は金融機関のM&Aアドバイスを主として手がける傍ら、スタートアップの事業成長支援、金融機関を含む大企業のオープン・イノベーション支援に携わる。
日本最大のFinTechインキュベーションオフィスFINOLABの運営パートナーFINOVATORS代表、日本クラウドファンディング協会理事等を務める。

※この記事はStartup Innovatorsにて9月19日に掲載された記事を編集したものです。

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