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アスキーエキスパート第15回

「ビジネスは、その先に」

「ドライバー奪い合い」に見るライドシェア・ビジネスの他産業への広がり

2016年10月06日 09時00分更新

文● 坪井聡一郎/アスキーエキスパート

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国内の”知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。ニコンの坪井聡一郎氏による技術とイノベーションについてのコラムをお届けします。

 シェアリングエコノミーの台頭が著しい。米ウーバー・テクノロジーズ(以下Uber)やAirbnbなど何らかの実物資産を他者に貸し出すビジネスが今後大きく市場を伸ばすとみられている。シェアリングはじわりじわりと我々の生活の中に入り込みつつある。こうした企業の成長性や企業価値に注目が集まっているが、今回アスキーエキスパートでの連載「ビジネスは、その先に」では、ライドシェアへのドライバーのかかわり方の動向から、他の産業への広がりや新たなビジネスの派生について考察する。

ドライバーが多くいるほど価値が高まるビジネスモデル

 ご存知の方も多いと思うが、ライドシェアとはスマートフォンのアプリを使って行う配車システムが主流である。個人がドライバーとしてUberやLyftのようなプラットフォーマ―に登録し、その個人が所有する自動車を使ってタクシーのように人を運搬する。

 Uberのビジネスモデルの強みと弱みについては、スコット D. アンソニーによる経営学的分析と考察が示されている。ここで述べられているように、多くの契約者(=ドライバー)がいればいるほど価値の高まるビジネスモデルである。アプリで呼び出してもなかなか迎えに来てくれなければ顧客経験価値は低下し、「来ないからサービスを使わない」という負の循環に入ってしまう。故に多くのドライバーを抱えていればいるほど強いサービスになる。

パロアルトで体験したUberの不可解な現象

 Uberの魅力の一つは価格である。搭乗人数に応じた自動車の大きさを選択できるほか、より低価格で利用するため相乗りの選択ができ、うまく活用すれば一般のタクシーより驚くほど廉価にすることができる。ただ運賃は道路の混雑状況や需給バランスなどが影響する。そうした場合は料金が割高になる「×1.5」のような割増率がアプリでは表示される。そのため朝夕の需要が多くて渋滞する時間帯は避け、なるべく空いている時間帯に利用するのがコツでもある。

 しかし昨秋と今春シリコンバレーに訪問した際、ちょっと不思議な現象に直面した。アプリからドライバーを呼び出し、「15分程度で到着」との表示が出たので路上で待っていた。だがしばらくして、到着予定の表示が消え、依頼がキャンセルされてしまった。「変だな」と思いつつ「アプリの動作不良かなにかだろう」と考え、次の配車を再び依頼した。画面には多くの自動車が近辺にあることを確認していた。しかし次の自動車もしばらくすると画面から消え、またしても依頼がキャンセルされたのである。キャンセル後の画面を見ても多くの車が余っている状況で、自動車の数が不足しているならまだしも繰り返されるこの現象を理解することができなかった。

 Uberの場合、到着の5分前なら呼び出し側が無料でキャンセルができる仕組みになっている。しかしこの時のように、ドライバー側のキャンセルを知らず、大いに面食らった。後日この話を米国在住の友人にしたところ、みんな異口同音に「最近よくそういうことがある」と言う。そして、あるきっかけで原因の一つが見えてきた。

同じドライバーが登録していたUberとLyft

 ここ数年米国内でライドシェア事業を拡大しているのがLyft(リフト)である。2012年に創業し、全米200以上の都市でサービスを展開している。既存のタクシーとは異なりUberもLyftも運転手を抱えていない。そのため運転手を抱え込むのが事業の成功要因であるのだが、登録者側であるドライバーの中には、両社に登録を行っている者がいる。そして、より条件の良い客の方を運ぶことが半ば常態化していたのである。

 つまり私が体験したことの次第はこういうことだ。Uberのアプリで呼んだドライバーが迎えに来る途中で、おそらくLyftの配車リクエストが入った。その際に、私のリクエストをキャンセルしLyftで呼ばれた方へ向かったようなのだ。

 実際、その後にUberで無事に手配ができ乗車したのだが、道路も渋滞をしている状況でないにも関わらず、ほとんどの料金が「×1.2」や「×1.5」となっていた。渋滞ではないにもかかわらず割増がかかる状況は、配車可能な車の数が少ないということになる。アプリ上で一見たくさんの車があるように見えたが、そのうちの一部は同じ車がLyftのアプリにも表示されていたという訳である。

 また、後日シカゴに出張しUberに乗車した際、運転中にドライバーがダッシュボードのスマートフォンを触り始めた。何があったのか聞いてみると「Lyftで配車リクエストがあったが、いま空港へあなたを送っている最中だから応じなかった」と話してくれた。私が「UberもLyftも両方登録してるんですか?」と聞くと、「もちろん。みんなやってるよ。Lyftの方が、割が良いから、Lyftだけで仕事ができるといいけど、Uberアプリの方が多くの人が使ってるからね」という返答が。シリコンバレーと同じく、両社に登録するドライバーがシカゴでも広がっていたのである。

ドライバーがUberとLyftへ支払う手数料

 ここで両社がドライバーヘ支払う手数料について、見ていきたい。手数料については両社とも度々変更しており、少し古いもののForbesの記事(「ブラック化」する米ウーバー社の労働環境 2015年5月28日付)から引用したい。まずUberについては、次のようなプラットフォーム側への手数料体系をとるという。

 サンフランシスコでの新たな取り組みとして一部のドライバーに課す手数料を過去最高の30%にまで引き上げる一方、新人ドライバーの給料を引き下げる動きを進めているという。
 UberX(ドライバー自身の車を使った配車サービス)に登録する新人ドライバーの場合、乗客を1週間に20人乗せるようになるまでは30%の手数料を課し、その翌週も20人を乗せれば25%の手数料、それ以降は20%の手数料に固定される。 (中略)以前は1週間に数時間しか働かないドライバーも20%の手数料で乗務していたが、今後はその料率に引き下げることは不可能だ。

 一方のLyftの料金体系は、

 リフトの場合は「週に50時間以上勤務したら手数料ゼロ」、「30~50時間の勤務であれば10%の手数料」という料率体系だ。

 となっているほか、フルタイムとパートタイムに差をつけ、フルタイムのドライバーには手数料を払い戻しているという。要は、Uber側はドライバーに対して厳しい条件を提示し、Lyftはドライバーに良い条件を提示しているという状況である。

 実はUberが導入した段階式料金体系はLyftのものを部分的にならったものである。Uberにとっては収益性向上のため手数料を上げたいという動機があり、従前の20%の手数料を改め、サービス提供の習熟に応じた方式へと変更させたのだ。

 しかしUberにとってのメリットは、ドライバーにとってのデメリットにもなる。

 これにより最も痛手を被るのはパートタイムの新人ドライバーだろう。フルタイムのドライバーたちも、最初の30~40人の乗客をとる間の条件はこれまでより悪化する。

 実際、筆者がシカゴで利用したUberのドライバーは、定職を持っているが休暇で家族のいるシカゴに一時的に(二週間ほど)戻っているという状況であった。戻っている期間中の余暇時間を「小遣い稼ぎ」に当てていた。そうした背景を知ると、指摘の通り新人ドライバーとしてはLyftの魅力が勝ってしまうのも仕方がない。

ドライバーと利用者の行動が収益に与える影響

 ドライバーがますます稼ぎやすいプラットフォーマ―へ流れていく状況が続くと、あるサービスでは需要に対して供給不足が生じる。結果として道路が空いている時間帯であっても、ユーザーが利用する価格が上昇してしまう。元々UberやLyftは時間帯や道路の混雑状況などで値段が変わるが、これに加えてドライバー選考が価格上昇要因に加わることになる。

 選ばれなかったプラットフォーマ―はなかなか配車されないうえに価格も高くなり、魅力に乏しくなるのも当然である。実際Uberのアプリ利用者の10%は、Uberアプリダウンロード後4か月のうちにLyftのアプリをダウンロードしているということから分かるように、2つのサービスは併用されている。配車サービスの特性というべきなのか、知名度はあってもブランドロイヤリティまでは形成できず、顧客の囲い込みは難しい状況と言えよう。

 企業側は供給拡大に向けどのようなアクションを取っているのか。Lyftは今年1月にGMとの提携を発表している。「自動運転車を生産するため」という部分が注目されたが、一方でLyftに自社の保有する自動車を提供するとも伝えられている。免許はあるが自動車を所有していない人がライドシェアサービスを可能にする施策である。しかしFordやトヨタと提携するUberも同じアクションを模倣することは十分に考えられる。より多くのドライバーを集めようとも、ドライバーが条件の良いプラットフォーマ―を選択していくことになるだろう。

 またサービス面においても、LyftはLyft LINEという「同じ方向に向かう人の相乗りサービス」を提供し、UberもUber POOLという同様のサービスを開始した。いずれも時間に余裕があるような場合なら既存サービスより安く利用できるものである。「相乗りサービス」も新たなユーザー獲得もある一方で従来Uber Xを利用していた人たちの使い分けを促し、収益を下げることになるとも考えられる。

 今年4月にボストンでサービスが開始したurbanhail(アーバンハイル)は、UberやLyftなどの配車サービスの料金をリアルタイムに比較してくれるアプリだ。サービスの質にそれほど差をつけられない現状では、「より安く、より利便性の高い」方へユーザーが流れることは至極当然である。しかし企業にとってみればこうした流れが続くようになれば確実に収益性低下へと繋がっていく。

 Uberはユニコーン企業としてのみならず、IT活用の世界的成功事例として取り上げられることも多い。つい技術やビジネスモデルに注目しがちであるが、彼らは「ドライバーという人間」を介在したビジネスを行っているのである。「より多く稼ぎたい」という人間の欲求を満たすように彼らは行動する。そして、エンドユーザーたる乗客もより安く利用したいと考える。ライドシェア・ビジネスでは多くの人の感情が積み重なって、収益を圧迫する内的な力が働いている。ドライバーの待遇面でUberへの評判が低いことは、コストを下げる活動を取ることで収益性を確保しようとしているように感じられる。また反対に評判の高いLyftがこの夏事業売却へと動いたと話題になったが、Uberに比べて米国内にとどまっている小さい商圏のうえでの待遇を良くしたことで、収益性を圧迫したのではないかと筆者は推察している。

ドライバー争奪戦が産業を超えて静かに広がっている

 パロアルトで知人とランチをした際、さらに競争が激しくなっていることを教えてもらった。日本でも先日Uber Eatsサービスが開始されるとニュースになったが、これと同様のフード・デリバリー・サービスについてである。

 カリフォルニア州ではさまざまな宅配サービスが生まれており、その一つがランチタイムの混雑を避け、オフィスまでデリバリーしてもらう「ランチ・デリバリー・サービス」である。店側としては混雑による機会損失を食い止められるのでやりたくても、それを行う人を雇うことは大変難しい。特にカリフォルニア州は(アルバイトであっても)人件費が高いうえ、保証なども必要になる場合もあり人を雇うことには大きな抵抗がある。そこでデリバリーにライドシェアを利用しているという。アプリを通じてランチのオーダーを受け、出来上がりの時間に店舗までドライバーが受け取りに来て、そのままお客のもとへ運ぶ。人を雇わずに済むうえ、駐車場も不要というメリットもある。

 ランチの時間帯は長く見ても概ね11:00~14:00の間である。客の中には食事に限られた時間しか取れない人もおり、時間には正確に届けなければならない。そうした事情からこの時間帯に限ってUberやLyftよりも高い手数料を支払って、ドライバーを集めているということであった。朝夕に比べライドシェアの利用が比較的下がるこの時間帯であり、高い手数料の魅力もあって少しずつ数が増えていっているという。ドライバーにとっては人を運ぶかランチを運ぶかの差があるだけで、自分の車を使って何かを届けることには変わりがない。

 特定の時間帯にサービスを完了させなければならないような制約がある事業、たとえば(欧米では法規制があり難しいが)子供、あるいは高齢者の病院への送迎などでは、多少コストが高くなってもドライバーを集める必要が出てくる。ドライバーにしてみれば選択肢が増え、選好的行動が可能な環境がより広がることとなる。

 このように、あらゆるものが宅配されようとする将来において最大の問題はドライバー不足である。輸送・物流業界は変革の過渡期にあるといってよく、構造としてのヒントがここにある。ライドシェアというインフラでは(法的な整備は必要と思われるが)座席には人が座り、トランクには荷物を入れ、輸送と物流をかけた車も行き交うことも可能だ。新たな事業者の出現が競争領域を次のステージへと引き上げる。未来の一つはありとあらゆるものを柔軟に運ぶ輸送と物流のイノベーションであろう。

 かつて企業で人手が足りないために人材派遣業がビジネスを大きくした。慢性的な人材不足の医療や介護では、看護師や介護士を専門に派遣する人材派遣会社もある。今後はドライバーを専門に派遣するようなビジネスが伸長することも考えられるだろう。

 Lyftは2021年には自社サービスで過半数が自動運転になるとの予想を示した。今後は実現へのロードマップを示す企業が徐々に出てくるであろう。それまでは人を介在させるビジネス開発を行い、完全自動運転の未来へどのようにバトンを引きつなぐのか。その過程で開発されるサービスに注目していきたい。

アスキーエキスパート筆者紹介─坪井聡一郎(つぼいそういちろう)

著者近影 坪井聡一郎

一橋大学大学院商学研究科修了。2004年株式会社ニコン入社。ブランディング、コミュニケーション、消費者調査、デジタルカメラのプロダクト・マネジャー等を歴任。2012年より新事業開発本部。2014年、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構より「センシングによる農作物高付加価値化」の研究委託を受け、コンソーシアムの代表研究員を務めた。経産省主催の「始動Next Innovator2015」のシリコンバレー派遣メンバーであり、最終報告会の発表者5名にも選抜された。

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