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シンプルな構造のエンジン1つで飛ぶ液体ロケット

 ここで高校物理のおさらいだが、ロケットが飛ぶ原理は、モノを投げるときと同じく作用と反作用の法則から成り立っている。地面に向かってどんどん燃料を噴出させ(投げて)、反作用で飛んで行くという非常にシンプルな原理だ。これを実現する中核機能となるのがロケットエンジンで、ISTでは燃料として液体燃料を使っている。

 「ロケットの種類には、燃料に何を使うかで分けられる。まず固体燃料ロケット(以下、固体ロケット)は、火薬のようなものを燃焼する簡単にいえばロケット花火のイメージ。次にISTで採用している液体燃料ロケット(同、液体ロケット)、そして最近では固体燃料と液体燃料のハイブリッドロケットがある。JAXAでは固体と液体の2種類があり、さらに液体の中でも燃料の種類がいくつかあり、ISTではエタノールと液体酸素を使っている」

 エタノールはアルコールの1種だが、このタイプには世界でも初期のロケットとして『V2ロケット』が有名だ。ドイツが第二次世界大戦中に軍事用に開発した世界初の実用化された液体燃料ロケットで、ISTのロケットと燃料の面では同様。日本にある液体ロケットは液体水素と液体酸素を燃料として使っているのが主流で、エタノールのような炭化水素系のエンジン研究者はいるが、メインエンジンとしては国内では実用化していないという。

 だが、世界初の実用化ロケットでも使われている通り、便利で使い勝手がよいとトータルでのメリットがあるとISTでは判断。性能的にも、実用化したときのコスト面でも効率がいいエタノールと液体酸素のロケットを作ることになった。

 「性能面の話をすると、燃費に相当する数字として『比推力』というのがあるが、比推力だけを見ると液体水素と液体酸素の組合せが一番。スペースシャトルやH-IIAロケットでも使われているが、進行方向に推し進める『推力』が出ないため、それを補うようにどちらにも固体ロケットの『ブースター』が脇に付いている」

画像提供:IST

 エタノールやケロシンのような炭化水素系燃料の場合、比推力は低くても推力が出るためブースターは必要なく、1つのエンジンだけで済む。ISTのロケットも脇のブースターが不要だ。米国の小型ロケット分野の先駆者にもなっているテスラのイーロン・マスクが手掛けているスペースXも、燃料がケロシンのため脇にブースターが付いていない。エンジンがシンプルな場合、開発スケジュールを短くする面でもメリットがあるという。

 ロケットの打ち上げシーンといえば、盛大に白煙が舞うイメージがあるが、あれは固体ロケットだけのものらしい。H-IIAロケットも初めは固体ロケットが使われるため白煙が舞うが、固体燃料が終わって液体燃料になると白煙がなくなる。「ISTのロケットは液体ロケット1つなので最初から白煙が舞わない。見栄えでいえば良くないが、仕方ない」と稲川氏は笑みを見せる。

 将来的な有人ロケットの開発を考えると、ほぼ液体ロケットがベストに近いという。固体燃料は燃え尽きるまで途中でエンジンを止めることが難しいが、液体ロケットならば途中で推進剤を止めれば消すことができる。人を乗せることを考えると、安全性の面でも液体ロケットに軍配があがる。

 ISTでは、扱いやすさ、性能、コストに加えて、将来的な応用面でも液体ロケットを選んでいる。

ロケットのイノベーションの余地とは

 では、実際にエタノールと液体酸素をどのように燃やすのだろうか。

 「やっていることは意外と単純。まずは液体の燃料を燃えやすくするために霧状に吹き出して、火を付けて、燃やす。自動車のエンジンのように複雑な機構はないが、液体燃料を霧状に吹き出すシャワーヘッドの部分を『インジェクタ』と呼び、ここが一番大事な部分でたくさんのノウハウが詰まっている。このインジェクタの設計で燃料をきれいに燃焼させるものができさえすれば、あとは非常にシンプルな構造」(稲川氏)

 ロケットエンジンの燃焼実験では炎の温度は3000℃という超高温になるという。この熱にさらされると金属でもすぐに溶けてしまうため、断熱材や気化熱で冷やす役割の『アブレータ』が必要で、ここにもノウハウがある。

 「実用化している他の液体ロケットでは、燃料を送り込む機構にターボポンプという回転部品を使って送り込んでいるが、ISTはターボポンプを使わないのが特徴。その代わり、ヘリウムガスを使って燃料を押し込んでいる。複雑な回転部品がなく、構造がシンプルなため低コストとなる」

画像提供:IST

 液体ロケットは一般に複雑でコストがかかると言われるが、ISTの場合はシンプルな構成にとどめ、一部の外注以外はほぼ自社製のため製造コストも抑えられている。燃料代でもエタノールは灯油と同等とのことだ。

 「固体ロケットの燃料は、火薬の範ちゅうのため日本では火薬取締法という法律の問題で、ものすごく管理費もかかり、製造コストも高く、値段の下がる余地があまりない」と稲川氏は説明する。

 燃費に相当する比推力では、現在のISTのロケットエンジンでは「理論上の最高比推力の9割以上」が出ているが、「なつのロケット団」で作り始めた10年前は5割そこそこのものだった。稲川氏はシャワーヘッドの部分にノウハウがあると言ったが、その設計の開発に時間を割いてきたという。

画像提供:IST

 比推力の数字を上げるためには実験を積み重ねるほかなく、そのサイクルを速めるため工場と実験場を近くに置き、エンジンの燃焼実験を行ったらすぐにデータをフィードバックして解析し、新しい設計でエンジンを作り直して、また燃焼実験を何度も行い、着実にノウハウを貯めてきた。

 「実際、ロケットエンジン自体はアポロ計画のときに理論的な性能の上限の98%程度まで達していて、イノベーションの余地はそこまでない。1970年代には完璧なものができ上がって、最先端のロケット開発でも99%に達して、残り1%をどう改良しようかという世界」

小型ロケット登場の背景は「半導体の進化」

 そんな中で、いま超小型ロケットが作れるのは「半導体の進化のおかげ」(稲川氏)だという。

 「ロケットを制御する電子機器であるアビオニクス(=Aviation(航空の)+Electronics)もISTは自社製。チップにさまざまな回路を付けて設計しているが、コストメリットを第1に開発しているため値段は安く、重量も数kgとコンパクトに仕上がっている」(稲川氏)

 2001年に打ち上げられたH-IIAロケットのアビオニクスは、当時開発したときのままで、約200kg以上あるという。ロケットにおいてアビオニクスは絶対に必要だが、200kgとなると、とてもISTのような小型ロケットは成立しなかった。半導体の進化によって小さくなり、余剰分に荷物を載せられる設計になっている。

 「ISTも含めて世界で何社も小型ロケットで事業展開が動いているが、半導体の進化がなければ世の中には大型のロケットしかありえなかった」(稲川氏)

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