充実してきた単品ヘッドフォンアンプの実力を探る
本格派USB DACのバランス駆動で、音の世界に浸る (5/7)
2014年12月29日 09時00分更新
多彩に音質をチューニングできる高機能、パイオニア「U-05」
2番手はパイオニアの「U-05」(実売8万6500円前後)。DACチップはESS Technologyの「ES9016」を各チャンネル独立の2個使用で搭載する。
SABRE32 Ultra DACはAVアンプなどにも使われる8chのDAC。これを8chパラレルで駆動させている。低ノイズ化に大きな効果がある贅沢な使い方だ。ちなみにパイオニアではここ最近のAVアンプなどでESS社のDACチップを使用することが多いが、ここでのDACの使いこなしのノウハウがU-05にも活かされているようだ。
アナログ回路は左右独立に加えて完全左右対称設計のフルバランス回路を採用。バランス駆動は通常はチャンネル当たり1個のアンプで増幅する信号を、さらに左または右の+とーでアンプを独立させ、合計4つのアンプで増幅させるもの。プラスとマイナスの信号が完全に一致するためバランス動作と呼ばれるわけだ。
こういった入念な作り込みに加え、U-05には音質を調整するためのさまざまな機能が盛り込まれている。まずは、3つのモードが選べるデジタルフィルター。これはデジタル信号の応答特性を改善するもので、96kHzならば48kHzでそれ以上の高域をカットするフィルターだが、その遮断特性を変えることで音質にも変化がある。これを選べるようにしたものだ。
続いては、ちょっと面白い「ロックレンジアジャスト」機能。
これは入力されたデジタル信号を受け取る精度を調整するもの。例えば96kHzの信号のやり取りをする場合、送り手側の機器が常に1/96000秒の等間隔で正確に信号を送ってくるとは限らない。そこで受け手側の機器は、多少間隔の誤差(ジッター)が出ても96kHzの信号と認識できるよう遊びを持たせている。この遊びがロックレンジだ。
ロックレンジの精度を上げれば、信号のゆらぎを抑えることができ、高音質化が期待できるが、送られてくる信号のゆらぎが大きいと、音が途切れてしまう。実際に試してみたが、レンジ幅を狭めていくと、音が途切れたりノイズが出てしるようになる。
「オーディオスケーラー」は、いわゆるアップサンプリング+ビット拡張機能。あらゆる音源を32bit化し、最大で384kHzまでアップサンプリングする。HighとLowの2ポジションがある。96kHz音源の例だと、Lowならば192kHz、Highでは384kHzとなる。
最後がボリュームの「FINE ADUST」。これは音質というより音量調整で、メインボリュームによる調整に加えて、より微細な音量の調整ができるというもの。デジタルでの音量調整は0.5dBステップなどで、かつてのアナログボリュームのような連続的な音量調整ができないため、こうした機能を盛り込んだのだろう。
このように、いじれる部分が実に多い。音質的チューニングの意味でも興味深いが、音質に関わるパラメーターをあれこれといじるのはなかなか楽しい。なお、こうした調整は前面の操作でも行えるが、リモコンでより手軽に行うことも可能だ。
パイオニア U-05の主なスペック | |
---|---|
対応デジタル信号 | リニアPCM384kHz/32bit、DSD2.8MHzと5.6MHz |
デジタル入力 | USB、光×2、同軸×2、AES/EBU(バランスドデジタル) |
アナログ入力 | バランス、アンバランス |
アナログ出力 | バランス、アンバランス |
ヘッドフォン出力 | バランス×2、アンバランス×1 |
サイズ/質量 | W296×H101×D271mm/6.3kg |
力強く透明感があるサウンド、高音もきれいに伸びる
肝心の音質は、骨太で男性的な力強さに満ちた音だ。低音の厚みも充実感がある再現。ボーカル曲を聴くと、女性の声も強弱のニュアンスがしっかりと出る。男性的な力強いサウンドといっても、女性の透明感のある高音域の伸びなどはきれいに出る。声の張りや強く出した音の勢いなどがしっかり出る音だ。
これがバランス駆動(こちらもゼンハイザーのバランスケーブルと互換性あり)になると、力強さというか音の勢いがさらに増す。クラシックでは、低音弦の鳴りや、大太鼓の打音などで空気が震えるような感じまで出てくる。なかなかに凄みのある音で、聴き応えは十分。大編成のオーケストラや、ビートの効いたロックなどパワフルな音で聴きたい人にはぴったりの音だ。
スピーカーでも、こうした力強さ、ダイナミックさは同様。個々の音がクリアーでしかも音像が厚く存在感があるにも関わらず、ヘッドフォンではやや後退した感じだったホールの響きや空間感のような微小な再現までしっかりと出る。音場の広がりや空間が展開し、そこにひとつひとつの音がぐっと前に出てくるイメージだ。これは、プリアンプ的な使い方という点ではもっとも魅力的なものと感じた。
最後は、各種の音質調整を試してみた。デジタルフィルターは、「シャープ」(急峻な遮断特性)、「スロウ」(ゆっくりとした遮断特性)、パイオニア独自の「ショート」があるが、「シャープ」が一番音の立ち方が強く、骨太な感じになる。「スロウ」は逆になめらかになる。なかなか魅力的なのが「ショート」で、音のりんかくはなめらかなのだが音そのものは前に出てくる感じで存在感が濃厚。個人的には「ショート」が好ましかった。
オーディオスケーラーは、オフ(オリジナルのサンプリング周波数のまま)、Low、Highの順で音が滑らかになる傾向。音色の変化というよりも感触が柔らかくなるように感じる。ロックレンジアジャストは、音飛びが発生する手前当たりまでレンジ幅を狭くしてみると、やや微妙だが、音のキレがよくなり、S/N感も向上する感じはある。
さらにそれぞれを組み合わせていくと、けっこうな組み合わせになる。ガラリと音が変わるようなものではないが、聞き比べをしているだけでもなかなか楽しい。曲や気分に合わせてちょっとチューニングを変えるなど、ただ音楽を聴くだけでなくいろいろと遊びたいと思う人にはおすすめしたいモデルだ。
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