充実してきた単品ヘッドフォンアンプの実力を探る
本格派USB DACのバランス駆動で、音の世界に浸る (6/7)
2014年12月29日 09時00分更新
HD800とはさすがの相性の良さ、ハイエンドの手応えを感じる
ゼンハイザー「HDVD800」
最後はゼンハイザーの「HDVD800」(実売22万6000円前後)。ヘッドフォンメーカーとして日本でも高い人気を誇る同社が満を持して発売したヘッドフォンアンプだ。設計の段階で、「HD800」「HD700」「HD650」をリファレンスとしている。
ゼンハイザーのヘッドフォンとのマッチングをしっかりとっており、汎用のヘッドフォンアンプというよりも、ゼンハイザーのモデル(特にHD800などの高級機)専用という色合いも強いモデルだ。
DACチップなどの情報は公開されていないが、バーブラウン製とのこと。ヘッドフォンアンプ部はバランス回路設計となっている。また、アナログ入力時は入力ゲインを調節できるようになっており、出力の小さな携帯プレーヤーから、ラインレベル出力のオーディオプレーヤーまで幅広く接続できるようになっている。
ちょっと物足りないと感じるのは、USB DAC部分のスペックで、リニアPCM192kHz/24bitは実用上は十分だが、DSD音源には非対応というところ。
サイズは最も小さい。横幅は217mmと大幅に小さいわけではないが、高さが55mmとかなり薄いのでコンパクトな印象が強い。ノートパソコンなどと一緒に机の上に並べるというようなレイアウトでも十分に使えるサイズ感だ。
ゼンハイザー「HDVD800」の主なスペック | |
---|---|
対応デジタル信号 | リニアPCM192kHz/24bit |
デジタル入力 | USB、光、同軸、AES/EBU(バランスドデジタル) |
アナログ入力 | バランス、アンバランス |
アナログ出力 | バランス、アンバランス |
ヘッドフォン出力 | バランス×2、アンバランス×1 |
サイズ/質量 | W217×H55×D324mm/2.25kg |
ヘッドフォンHD800の魅力を素直に引き出す
個人的にも気になるモデルだけに、さっそく音を聴いてみよう。まずはアンバランス接続だが、一言で言うと実に自然な再現。弦の音色が美しく、繊細。それでいて華奢な再現にならずしっかりとした音の厚みもある。このバランスの良さはゼンハイザーならではのものだ。
ボーカルを聴いても、声はしっとりとなめらかで、息継ぎの気配や吐息のニュアンスなどゾクっとするほど色っぽい。微妙に付加されたエコー感も丁寧に再現されるし、中央のボーカルと左右のバックバンドとの距離感やステージの広がりも写実的だ。
書いていて、ヘッドフォンのHD800のインプレッションをしているような気になるほど、HD800の良さがそのまま質的に向上したような印象だ。そのため、ニュートラルなバランスではあるが、音の感触の柔らかさのせいもあって、ややスピード感が遅くなるようなゆったりとした鳴り方になる点まで、HD800の印象そのまま。
これがバランス駆動になると、印象が大きく変わる。まずDレンジ感がかなり広くなり、特に大音量で力強く出る音の勢いがよくなる。S/N感も向上し、ステージの広がりはさらに一回り大きくなる。女性ボーカルの声はなめらかな感触はそのままだが、溌剌とした表情になる。エコー感や空間に広がり響きはさらに出てくるのに、歌声は実体感を持って前に出てくる。これがHD800の本来の実力を引き出した音か! 今まで感じていた、ゆったりとしたスピード感の遅さなどまったく感じない。それでいて柔らかな感触や美しい音色はそのまま。
「これはスピーカーいらないなぁ・・・」と、思わず口から出てしまったのが偽らざる本音。広く深い音場感と、緻密な音の配置、そして個々の音には実体感があり、それらがあいまって濃密な音楽を伝えてくる。スピーカーでの再生でこのレベルの音を出すのに果たしてどれだけの時間とコストが必要になるか。それを考えると、総額で40万円を超えるHD800とHDVD800が安いとさえ感じる。
残念だったのは、スピーカーでの再生。HD800との完璧なマリアージュにノックアウトされた後で聴いたのも失敗だったが、音の柔らかい感触や自然で美しい音色といった良さはあるものの、音の力強さや力感が物足りない。ステージ感も十分に広いのだが、前述した通り、OPPOのHA-1には及ばない。本機はあくまでも最高のヘッドフォンアンプとして使うのが正解だろう。
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