鳥居一豊の「最新AVプロダクツ一刀両断」 第23回
家庭におけるホームシアター実現の難問をまとめて解決!!
初心者に勧めたい!! ソニーの高級AVアンプ「TA-DA5600ES」
2010年12月15日 12時00分更新
自動音場補正機能では後発のソニー
でも“よくぞここまでやってくれた”
今回取り上げるのは、ソニーのAVアンプ上位モデル「TA-DA5600ES」(実売価格25万円前後)である。初期設定時にマイクを使って自動で音場を調整してくれる“自動音場補正”機能が特徴的であるが、まずは同社のAVアンプにおける自動音場補正機能について振り返ってみたい。
「リビングを映画館にする」というホームタシター機器のキャッチフレーズは、定番すぎて今では逆に使われなくなってしまった感がある。
家庭環境に映画館を造るというのは、手っ取り早く言えば「映画館と同様のマルチスピーカー環境を実現する」ということだが、厳密な意味で言えば、それだけでは十分ではない。防音や遮音、また適切な音響条件を整える、といった室内の整備が必要となるわけで、これがホームシアター作りの楽しくも苦しい部分であり、オーディオに強いこだわりを持たない一般の人からはなかなか理解されにくい部分でもある。
とはいうものの、複数のスピーカーを部屋に置いて、しかもそれらがあたかも一組のステレオスピーカーになるように各種特性を均一に整える、などという至難の業を、最新のAVアンプのほとんどが、誰でも手軽に行なえるようになっている。防音などの対策は絶対的なコストがかかってしまうものの、家の中で映画館同様の再生環境を整えること自体はかなり簡単になった。
それが自動音場補正機能だ。これは、DVD時代以降のAVアンプで急速に搭載され始めたが、実はソニーが自動音場補正機能を備えたのはやや遅かった。これは、当時のデジタルフィルターで構成される、イコライザーによるスピーカーの周波数特性補正の精度が決して十分ではなく、耳の肥えたオーディオマニアから音質的な劣化を指摘されることが少なくなかったことも一因にあると思っている。
2005年当時の最上位モデル「TA-DA9100ES」(生産完了品。当時の定価68万2500円)で搭載されたソニーの自動音場補正が「D.C.A.C.(Digital Cinema Auto Calibration)」。この自動音場補正は、1/3オクターブバンド、32bit精度のグラフィックイコライザーを搭載し、スピーカーの周波数特性を緻密かつ音質劣化の影響なしで補正できる能力を有していた。測定用マイクは、現在でも他社が1ポイントマイクであるが、当初から2ポイントマイクを採用しているなど、優れた実力を備えていた。
その自動音場補正には年々改良が加わり、昨年モデルではスピーカーの位相特性を補正する「A.P.M」が加わった「アドバンストD.C.A.C.」となり、今回取り上げる「TA-DA5600ES」では、(仮想的に)スピーカーの設置位置まで理想的な場所にする「スピーカーリロケーション with A.P.M.」を搭載するに至った。
最初に述べてしまうが、耳の肥えたオーディオマニアにも役立つ高性能な音場補正機能だが、もっとも恩恵を受けるのは、初めてAVアンプを購入するような初心者だ。AVアンプのエントリーモデルは、実売で5万円台の買いやすい価格が一般的で、同社にも該当するモデルが存在するが、D.C.A.C.こそ搭載するものの、A.P.Mやスピーカーリロケーション with A.P.M.は非搭載。正直なところ、これがあるのとないのとでは、完成したホームシアターの出す音に大きな差がある。
初めてAVアンプを買おうかと考えている人ほど、本機またはA.P.M.搭載の下位モデル「TA-DA3600ES」(実売価格12万円弱)を手に入れるべきだと考える。今回のレビューを読んでいただければ、その理由がよくわかってもらえるだろう。
ぱっと見は普通のAVアンプだが
よく見るとちょっと違う!?
まずは、本機の外観を見ていこう。といっても、AVアンプの外観はそうそう大きく変わるものでもなく、細部の変更こそあるものの、ここ数世代のモデルと外観はあまり変わらない。
前面には、音場補正のタイプやサラウンドモードなどを切り換えるボタンのほか、マスターボリューム、入力セレクター、チャンネルごとのレベル調整、トーンコントロールと、4つもツマミが並んでいる。このため、他社のAVアンプと比べても少々異なる印象になっている。
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