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鳥居一豊の「最新AVプロダクツ一刀両断」 第23回

家庭におけるホームシアター実現の難問をまとめて解決!!

初心者に勧めたい!! ソニーの高級AVアンプ「TA-DA5600ES」

2010年12月15日 12時00分更新

文● 鳥居一豊

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脳天を撃ち抜かれるような
衝撃のサラウンド効果を体験

電源ケーブル。ノイズ対策でかなりケーブルが太く、端子は金メッキ仕様となっている

電源ケーブル。ノイズ対策でかなりケーブルが太く、端子は金メッキ仕様となっている

 筆者宅での実例をお伝えした方がわかりやすいので、この効果について、先に紹介してしまおう。ちなみに筆者宅は、前述のとおり、すべてのチャンネルが異なるスピーカーで構成されており、他社製の位相補正機能を持った自動音場補正で調整した環境で聴いている。部屋はやや横長の8畳間で、長い方の壁面にテレビを置いているため、前後のスピーカーの間隔が狭いのが難点だ。

 まずはA.P.M.もスピーカーリロケーション with A.P.M.もOFFにして、サラウンド音声の映画を聴いてみる。それぞれのチャンネルから音が出ているのはわかるのだが、それぞれのスピーカーがそっぽを向いているような、ちぐはぐな印象になる。

 わかりやすい違いは、フロント右とリア右のスピーカーの間の音が消えてしまい、本来あるべき音がフロント右の周りとリア右の周りで関係なく鳴っていることだ。これが「スピーカーのつながりが悪い」という現象で、この状態では真横から聞こえるはずの音が正しく再生されないし、前から後ろへ移動する音も、真ん中が抜けて前から急に後ろへと瞬間移動して聞こえるようになる。

 これは、それぞれのスピーカーのど真ん中に鎮座しているはずの視聴者がないがしろにされているようなもので、全然面白くない。

 初めてサラウンドの音を聴くと、後ろから音が聴こえる体験は新鮮で、ついついそれにごまかされてしまうが、全然面白くないのだから、すぐに飽きてしまう。だから、奥さんは「掃除が邪魔だから」と後ろのスピーカーを片付けてしまうのだ。

A.P.M.機能の切り替え。自動音場補正が完了すると、こちらの選択が可能になる。AUTOとOFFを切り換えて、その効果を試すことができる

A.P.M.機能の切り替え。自動音場補正が完了すると、こちらの選択が可能になる。AUTOとOFFを切り換えて、その効果を試すことができる

 A.P.M.をONにすると、スピーカーとスピーカーの間に定位するべき音がビシっと現われる。サラウンドにおけるステレオペアの関係は、各チャンネルの左右と、フロント右とリア右(および左)の四角形の四辺だけでなく、フロント右とリア左のような対角線の関係でもステレオペアとなるため、正しく調整された環境では、きちんと音が目の前に定位する。

 例えば、「プライベートライアン」冒頭の揚陸艇から浜辺に降りようとしたアメリカ兵が、ドイツ兵の機銃で脳天を撃ち抜かれる場面で、自分が頭を撃ち抜かれたような臨死体験を味わえる。これは今も製品チェックでよく使うタイトルなのだが、本当に自分の額のあたりに、頭蓋を貫く弾丸の音が定位するのだ。

 (臨死体験が面白いかどうかはともかく)こうなると、サラウンド再生が断然面白くなる。「サラウンドならずば映画にあらず」といった主義者になり果て、レンタル店やBD/DVD店でソフトを選ぶとき、パッケージの裏を見てサラウンド収録かどうかを必ず確認するようになる。

 ちなみに他社製の位相補正と、TA-DA5600ESのA.P.M.の違いについて解説すると、A.P.M.の場合はフロントチャンネルの位相特性を補正しない。これは、メインチャンネルであるフロントスピーカーは、多くの場合もっとも優れたスピーカーが使われるし、筆者のようにオーディオ再生用のそれなりに優秀なスピーカーを転用していることが多いことへの配慮である。スピーカーの音は位相特性も含めての音作りがなされているので、これを補正してしまうことで、スピーカー本来の音色に影響が出る可能性がある。それを防いでいるわけだ。

 このほか、部屋の壁の反射における位相特性の乱れも補正するので、たとえ全チャンネルを同じスピーカーで使用していたとしても、壁の反射による影響を抑えられる。

スピーカーリロケーションの切り替え。こちらは、映画再生に適した「タイプA」と音楽再生向きの「タイプB」がある。もちろん、OFFにすることも可能

スピーカーリロケーションの切り替え。こちらは、映画再生に適した「タイプA」と音楽再生向きの「タイプB」がある。もちろん、OFFにすることも可能

 続いてスピーカーリロケーション with A.P.M.をONにすると、サラウンド空間全体が一回り大きくなったように感じる。特に後方スピーカーがスッと後ろに下がったような効果が大きい。これは、筆者宅が狭いため、サラウンドスピーカーは聴取位置のほぼ真横で、サラウンドバックスピーカーが視聴位置の真後ろにあるためだろう。

 また、好ましい変化としては、テレビの前に置いたセンタースピーカーの音も後ろ(テレビの向こう側)に下がり、テレビの画面から音が出てくるような効果になること。画面と音の一致感が増し、奥行き感もしっかりと出てくるようになる。これは総じて良好な結果であり、このまま家に本機を置いておきたいと思ったり、さっそく量販店のサイトで価格を調べてしまったりした次第だ。

 ここからが肝心なのだが、実はこれらの機能は、ヘビーなAVマニアにはそれほど訴求力がない。というのも、ヘビーなAVマニアであれば、位相特性を揃えるまでもなく、すべてのスピーカーを同一のもので揃えているし、スピーカーの位置も物理的に視聴位置から等距離に配置しているからだ。物理的に音響特性を揃えられるならば、こうした機能は電気的な補正にほかならず、少ないとはいえ、音質的な影響を考えるならば使わない方がいい、ということになる。

 だから、こうした機能は、初めてAVアンプを手に入れるような人にこそ、ありがたみがある。残念ながら価格はそれなりに高いものだが、こういった違いが体感できる製品を手に入れないと、結局のところ長続きしない。

 逆に本機を手に入れれば、スピーカーは全チャンネルを同一にする必要もないし、今、手元にあるスピーカーをかき集めてサラウンド環境を整えても十分な効果が得られるというわけだ。もちろん、スピーカー自体のクオリティが上がるわけでないが、それらは後々グレードアップしていけばいい。長い時間をかけてシステムを完成に近づけていくのもオーディオの面白さのひとつだ。

スピーカー設定の画面。この画面で使用するスピーカーを選択できる。フロントハイチャンネルを使った7.1ch(5/2.1ch)などの選択も可能

スピーカー設定の画面。この画面で使用するスピーカーを選択できる。フロントハイチャンネルを使った7.1ch(5/2.1ch)などの選択も可能

 また、A.P.M.はファントム定位を利用して本来あるべき位置にスピーカーを配置するため、センターやサラウンドバックなど、フロントやリアの間にあるスピーカーの音までも生成可能。だから、前方に2本、後方に2本のスピーカーがあれば、7.1chスピーカー環境を仮想的に実現できる。これにスピーカーリロケーション with A.P.M.を加えれば、部屋の四隅にスピーカーを配置したような条件でも、理想的な配置でサラウンド再生が楽しめるようになる。

 ここまで考えると、複数のスピーカーを用意する予算的な意味でも、暮らしやすいリビングを犠牲にせずにホームシアターを実現するという意味でも、あらゆる難問が解決しやすくなるとわかるはず。

 初めてのAVアンプとして多くの人が想定する10万円未満の価格に対し、本機は2倍以上の価格となるが、それでも上記の理由から本機は安いと断言できる。

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