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企業・業界レポート 第8回

誰も語らない ニッポンのITシステムと業界

「メインフレーム終焉」のウソ

2009年05月07日 09時00分更新

文● ASCII.jp 聞き手●政井寛、企画報道編集部  協力●アスキー総合研究所 遠藤 諭

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1990年代以降のオープン化の流れの中で、取り沙汰され続けているのがレガシーの問題である。過去に構築したシステムが文字どおり「伝説」となってしまい、運用やメンテナンスに費用がかかり対応人員も確保できない。そのヤリ玉に挙げられるのが「メインフレーム」(大型汎用コンピュータ=ホストコンピュータ)である。しかし、長く企業システム構築に関わってきた政井技術士事務所 政井寛氏は、そこに大きな落とし穴があり、単純な話ではないと指摘する。

 今回は、東京海上日動システムズ株式会社 常務取締役 島田洋之氏を訪ねて、日々、業務システムを動かす立場からの意見をうかがった。同社は、大手損害保険会社である東京海上日動火災保険株式会社における、各種業務システムの運用・開発・保守などを一手に引き受けている。島田氏は同社のシステム運用部門の統括責任者を経て現在は同社リスク全般を統括している。


企業や官公庁にある出口なきレガシーをどうするか?

島田氏

東京海上日動システムズ株式会社 常務取締役 島田洋之氏

島田 私は、SE暦30数年になります。2001年から運用を担当しましたが、2001年は主に企画・開発を担当していました。今日は、メインフレームの話をということですが、1995年から2000年にかけては、オープン系のシステムをずいぶん開発しました。Web系やコールセンター、インターネット、イントラネットなどで、ちょうどその時期、関連の技術革新が進み、そういったものにビジネスの要求が高まった時期です。

—— 2000年前後に、企業システムにオープン系の技術をもとにしたものが求められてきた。

島田 当時は、「早く作ってほしい」とか、「ユーザビリティがいいもの、使いやすいもの」という要求がありました。

—— そこがオープン系のメリットとされましたからね。

島田 しかし、サービスイン後の運用局面での安定性・安全性という観点では、当時のオープン系の技術は未熟だったし、実績・ノウハウも少なかった。安定性・安全性でいろいろな課題を抱え、企業システムとしてはこのままではいけないという時期に運用を担当するようになりました。オープン系の運用に関して、それまでもさまざまな取り組みはあったと思いますが、企業システムの安全性や安定性を確保するに相応しいメソトロジーやフレームワークの必要性を感じました。そういった中で、いろいろ模索しながらオープン系の運用に取り組んできたんですよ。

—— 島田さんには企業でのオープン系の運用に関してお話をうかがうのがスジかもしれませんね。しかし、今回のテーマは、俗に言う「レガシー」の問題についてです。日本のメガバンクの勘定系システムは、だいたいIBMに統一されつつある流れにありますが、一部には、80年代の富士通、日立のメインフレームをベースにした勘定系のシステムが残っている。また、官公庁や自治体のシステムにも、国産のそうしたシステムがかなり残っている。こういうシステムを今後どうするのかという問題提起をしたいのですよ。

 ひとつは、少なくともIBMは「zシリーズ」を出して、継続性の問題についてはある程度の答えを出しています。要するに、メインフレームの上でLinuxも同時に動かせるようにして、いつでもオープン系に移行できるというパスを用意した。その結果、zへの移行も進んできていると思いますが、金融業界はどちらかというと銀行の統合によって必然的にIBMに全部集約されたというような状況でしょう。東京海上日動さんの場合は、メインフレームは動いているのですか?

島田 IBM「zシリーズ」は使っていますね。

—— zシリーズの場合は、オープン系を含めた包括的なソリューションを提供することで、逆に、以前からのメインフレーム系のサポートも続けられる。ところが、そうではない日立、富士通のユーザーはどうするのでしょうか? いわゆるレガシーの問題が大きくのしかかってきていますよね? 開発時のドキュメント(資料)も残っていない、その後の改修の状況も分からない、対応できる要員もいない、コストもかかる。島田さんは、ユーザーとしてこの問題についてどうお考えなのかをお聞きしたいのです。

島田 先ほどzシリーズを使っていると言いましたが、富士通さんや日立さんのメインフレームも使っています。中心的な部分ではありませんが。

—— そうしたシステムは今後どうされるおつもりでしょう?

島田 当社で有するシステムの規模は相当大きく、種類も多くあります。システム化計画はお客様のビジネスの要請や、またシステムサイドの必要性などを考慮しながら、数年ベースで策定していきます。サポート切れ対応などもこの中で検討、スケジューリングしていくことになります。この数年は30年前に開発した勘定系システムの再構築に取り組んでいます。開発にあたっては、保守を考慮して開発ドキュメントを含め標準化を図っていますので、システムがブラックボックスになるような状況はあまり起こりません。

 「レガシー」と言う言葉がメインフレームの問題かのように専門誌などで取り沙汰されるので、メインフレームが非常に問題であるというイメージがあります。しかし、1個1個のシステムは、まわりの環境や流れの中で必要に応じて作り替えていく必要があるという点では、メインフレームもオープンも一緒と考えています。

—— 東京海上日動さんの場合は、企業環境的にも、再構築もできるだろうし、zに載せ替えるようなことも考えられるんですね。また、ドキュメントや要員に関しても、整備されているし必要に応じて補強するような体力があるのだと思います。問題は、そうしたことができない予算的にも人員的にも確保できないようなユーザーなのですよ。

島田 そうですね。うちの場合は、そうしたことが問題になっているわけではないんですね。「メインフレームを使っていますか?」と聞かれたら、まだかなり使っていますよ。オープン系の依存度は高まっていますが、半分半分くらいかなというイメージですね。メインフレームを使う理由は、やはり信頼性・安定性ですね。

—— メインフレームに対してそれだけの体制を組んで運用されている。それだけの価値がある?

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