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【インタビュー】ITの曲がり角~世界とニッポン

ITを使えば人を殺さなくても世界を“征服”できる

2008年04月10日 17時43分更新

文● アスキービジネス編集部、聞き手●遠藤 諭

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クラウドコンピューティングやSaaSなど、新しいコンピューティングの最前線がWebの世界で進展する一方で、「時代遅れ」と言われて久しいメインフレームなどもまだまだ現役で活躍していると言う。「ITは大きな曲がり角に来ているのではないか? このままで日本のITは大丈夫なのか?」――遠藤諭がガートナー ジャパン バイス プレジデントの亦賀忠明氏に聞いた。世界とニッポンが直面するITの最前線を全4回でお送りする。


ビジネスに勝つためにITに投資する


――欧米で起こったITバブルとその崩壊による影響によって、少なくともIBMのメインフレームと国産ベンダーのメインフレームに大きな差がついてしまった。1990年代はじめにIBMがやっていたことといえば、AIXやSAAなど、古典的なIBMの世界を捨てたり、統合して1つの体系にするなど、さまざまなことをやりはじめた。私の得意分野だと、OS/2やマイクロチャネルもあったし、アップルとの提携までやった。まあ、見事に失敗したものもあるんですが、IBMがこの時期にやっただけのことを、日本のベンダーはやらなかったんじゃないかという疑問があります。

 企業の中でのコンピュータの使われ方でも、この時期にメインフレームの世界から、エンドユーザーコンピューティングみたいな流れになり、現場にPCが入り始めました。サーバ・クライアントもやってきて、90年代中ごろになればインターネットも登場してきました。この時期に企業内におけるコンピュータの使い方の大きな質的変化が起きたと思うんですが、日本企業がその部分をしっかりやっていたのかという疑問もあります。

ガートナー ジャパン株式会社 亦賀忠明氏
亦賀忠明氏。ガートナー ジャパン株式会社 リサーチ ITインフラストラクチャ バイスプレジテント。

亦賀:まず日本と世界、とりわけアメリカとで明確に違うのは、企業におけるITの使い方だけでなく、ビジネスに対するその姿勢そのものが違ってると思います。アメリカというのは、たとえばビジネスをよくしたい、もっと成長したいということをまず考えるわけです。それを前提として、その中でITをどう使うかということを考えていきます。ビジネスが大前提だから、まずビジネスプロセスを考えていく。業務はその次です。

 逆に日本は、まず業務面に意識がいきがちです。たとえば業務効率化のためにITをどう使うかと言う議論になってしまう。でも、ビジネスというのは業務のことではないですよね? 少なくとも経営者が真っ先に考えることではない。彼らに主に求められることは、企業戦略の立案と推進です。すなわち、アメリカの経営者にとって、業務のことは大事であったとしても主ではないです。

――そんなことをしたら、アメリカではすぐに社長は首ですよね。

亦賀:アメリカで議論の最初に来るのは、ビジネスの競争に勝つためにはまず何をすべきかということです。勝つためにITが必要なら、それにきちんと投資をして勝ちましょうという話になりますし、逆に、勝つための理屈にならない部分には投資をしない。もちろん、何に投資するかは流行の部分もありますが。

 でも、日本ではビジネスの話とITの話が分離していることが圧倒的に多いために、ITのことは情報システム部門が考える。ベンダーも情報システム部門にシステムを提案しても、経営者にすることはそれほど多くないです。経営者は経営者で「いまどきパソコンを入れないなんておかしいかもしれない」という感覚で、入れた結果ビジネスにどういう影響があるかを考えずに導入を決めることも多い。「当たり前だから」「みんなが入れてるから」という感覚で、インターネットもメールも導入してきたのんです。ある意味では流行追従でしかない。

 こういう意識の差があれば、ITの使い方も当然変わってくるはずです。

――でも、情報システム部門はアメリカの会社にもあるわけですよね。

亦賀:あります。でも、その位置づけが違う。CIOという言葉に代表されるように、地位が高いんですよ。情報システム部門が会社の戦略的な要素になっている。

――日本の情報システム部門は、ある種の管理部門であり、コストセンターでもありという位置付けが多いですよね。ちゃんと戦略的な位置づけをしている日本企業はあるんでしょうか?

亦賀:日本でも基本的にグローバル競争に勝とうと思っているところは、戦略的な位置に情報システム部門を置いています。前回も言いましたが、グローバルに、地球規模にビジネスを進めようとしたら、ITを使わずにできるわけはないんです。そういうことを考えたら、情報システム部門がある業務部門の下請けになるという状況はありえません。

――「日経コンピュータ」が企業のIT力ランキングと言うのを発表してますが、製造業はすごく高い位置にいても、金融業は低いんです。多分、製造業が高い理由ってグローバル化しないと生き残れないからということですよね。逆に金融系のITがダメなのは、国内でとどまっているからということですね。

亦賀:だから、競争原理が必要ということなんでしょう。ITがきちんとしてないということは、ビジネス戦略もないということです。そもそもビジネス戦略もないようなゆるい企業が日本の中では生き続けられること自体がグローバルの感覚からすれば不思議ですよ。金融市場全体がある意味ゆるいと言うこともできる。海外だったら、メディアやアナリスト、投資家からダメだしされてもおかしくない。

――市場を評価する仕組みがないことが問題?

亦賀:そのとおりです。本来経営者なら、いかにビジネスパフォーマンスを上げていくかをきちんとコミットしなければならない。それをコミットすれば、「どうやって実現するか?」を聞かれ、そういった疑問に対してロジカルでストラテジックな回答を要求されます。そういった厳しい環境に経営者が晒される代わりに、大きな報酬を得ているのが欧米の実態ですよね。

――今日本がおかれてる状況は、単にITだけでなく、経営者の考え方や企業のあり方自体の問題が問われてるということですね。でも、そういったことは誰が変えられるんでしょうか?

亦賀:難しいですね。国全体で議論して、新しいベクトルを作るしかない。当然政府にも適切に動いてもらう必要があると思います。私は行政の専門家ではありませんが、現在の政府がそういったことを含め、危機感をもって有効な策を講じているかというと、いささか心もとない。例えば、金融システムのあり方について議論されてはいても、これも内輪の議論に見えてしまう。全てが、内輪の議論であって、外部からの評価をどのように得るかということに関心が無いように見えるのです。これでは日本は永遠に諸外国から適切な評価を受けることはできないでしょう。彼らからすれば、日本が何をやっているかわからないのです。仮に分かったとしても、そもそも、日本の文脈とグローバルの文脈は異なる。日本ではよいと思われていることは、グローバルでは必ずしもそうは思われないことがある。このことに気が付くべきです。

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