クラウドコンピューティングやSaaSなど、新しいコンピューティングの最前線がWebの世界で進展する一方で、「時代遅れ」と言われて久しいメインフレームなどもまだまだ現役で活躍している。「ITは大きな曲がり角に来ているのではないか?このままで日本のITは大丈夫なのか?」――遠藤諭がガートナー ジャパン バイスプレジデントの亦賀忠明氏に聞いた。世界とニッポンが直面するITの最前線を全4回で掲載する。
国産ベンダーはIBMのメインフレームに追いつけない
――前回、企業がITを武器にして戦っていくには、メインフレームに対する認識を改める必要があるという話にまとまりました。これというのはどういったことを意味するのですか?

亦賀忠明氏。ガートナー ジャパン株式会社 リサーチ ITインフラストラクチャ バイスプレジテント。
亦賀:まず認識してもらいたいのが、メインフレームに関する日本と世界での状況の違いです。まずは、この図を見てください(図1参照)。これは世界のメインフレーム市場シェアです。現在のメインフレーム市場を誰が今握ってるかというと、一目瞭然でIBMが圧倒的です。国産ベンダーも多少のシェアは取っていますが、もうグローバルな文脈では、メインフレームといえばIBMのメインフレームのことを指すのが通例です。売り上げは決して下がっていません。
――下がってないというよりは、伸びていますよね。IBMは「system z」ですごく儲けているという話を聞きますが……。
亦賀:そうです。でも、この売り上げの推移を見ればわかる通り、2000年まではいまひとつ勢いがなかった。でも、その後伸びている。この2000年に何があったかというと、IBMがメインフレーム上でLinuxを動かすと宣言した年にあたります。要はこのころから、メインフレームの中身をどんどんレガシーなものから、オープンなものに変えていったのです。
――メインフレームをオープン化することで、IBMはその再生に成功したと?
亦賀:そのとおりです。ただ、全部をオープンにしたわけじゃない。顧客に対して、「レガシーを捨てて、オープンに行け」とシステムを丸ごとリプレイスするような話ではなく、「メインフレームとしての従来の使い方もできるし、オープンサーバとしても活用できます」という提案だったんです。この「継続してもいいし、いつオープンに移行してもいい」という提案は、非常に安心感のある提案だったわけです。だからこそ、IBMのこの戦略は成功したんです。
その一方で日本のベンダーは、オープン化の流れの中で、メインフレームとオープンを別物として認識してきたように思います。メインフレームにはメインフレームのよさがあり、オープンにはオープンのよさがあるということで、それぞれ使い分けるような提案をしてきた。適材適所といえば聞こえはいいですが、ハードは別物です。IBMのようなハイブリッドの路線を市場に投入してこなかった。

この段階で、IBMのメインフレームと国産ベンダーのメインフレームでは、目指すものが全く別物になってしまった。その結果として、先ほど挙げたような市場シェアの状況があり、さらにいえば、テクノロジー面でも、プロセッサー性能で10倍以上の性能差がついてしまった。このままでは国産ベンダーは今の市場を維持することすら、至難ではないでしょうか。
――国産ベンダーが作っているメインフレームは、企業に古くからあるメインフレームのシステムを維持するために作ってるような状態ということですか?
亦賀:そのとおりです。このままでは国産ベンダーのメインフレームがIBMのメインフレームの独走に待ったをかけることはできないでしょう。我々も2005年から、「新基幹系システム」という呼び名で、メインフレームのよさとオープンのよさをあわせた、新しいシステムをベンダーが考えるべきだと主張していたのですが、今のところ国産ベンダーにその方向性はみえません。
――なぜですか? とりあえず市場はあるし、システムも動くからと言うことですか?
亦賀:そうです。彼らにいわせれば、顧客が古い形のメインフレームを支持しているから、ということです。でも実際にそういった国産ベンダーのメインフレームを使っているユーザー企業と話をすると、「ベンダーにははっきりしてほしい」と口にしていますね。
――メインフレームを進化させないなら、やめて欲しいし、続けるのであれば、ちゃんと進化したものを作れ、ということですか?
亦賀:ベンダーがはっきりしないと、ユーザーはシステムをどうしていいのか検討すらできないですからね。確かに、一部のユーザー企業は今のままのメインフレームでいいと言ってるようです。どんどんと少数になってきてはいますが、そういうユーザー企業はベンダーへの影響力が強いのも確かであると見ています。しかし、ここは、ベンダーおよびユーザーは日本と世界でこれだけ状況が違うということを認識しないと、「メインフレームが生き残るか、生き残らないか」という議論はなりたたない、ということは認識すべきです。
