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企業・業界レポート 第4回

ASCII Research Interview Vol.2

日本発の最注目サイト「pixiv」のヒミツ(前編)

2008年12月19日 17時00分更新

文● 村山剛史(構成) 聞き手●アスキー総合研究所所長 遠藤 諭 撮影●吉田 武

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 イラストやマンガでコミュニケーションするという、異色のウェブサービス「pixiv(ピクシブ)」

 現在のmixiは、主に日記を公開することで、他者とのつながりを持つ場として機能している。一方、pixivは日記の代わりにイラストを公開することで、他者とつながる点が最大の特徴だ。各ユーザーは他者のイラストにコメントやタグ、評価点を付けることによってコミュニケーションを図る。さらに、気に入ったイラストをブックマークしたり、作者をお気に入りに追加することもできる。

pixivトップ画面

pixiv(ピクシブ)

http://www.pixiv.net/


 イラストを介したコミュニケーションサービス。会員登録したユーザーには、自作イラストをアップロードできるページが与えられる。これは、「mixi」などのSNSにおけるトップページに相当し、「マイミクシィ」や「お気に入り」に近似する機能も備えている。


 サービス開始は2007年9月で、2008年10月現在での利用状況は、1人1日当たりの平均ページ閲覧数は約35ページ、1日あたりのイラスト投稿数は約8000枚。11月には月間ページビューが4億PVを超え、総イラスト投稿数も約220万枚に達した。


 最大の特徴はイラストへのタグ付け機能で、これは各イラストのテーマや指向などを表したキーワードをイラスト一点につき10個まで付与することができるというもの。各タグをクリックすることで、同じタグを持つイラストが一覧表示されるので、結果的にユーザーは同傾向のイラストを一気に見つけることができるという仕組みだ。

 pixivは、いまやmixiに“制圧”されていると言っていい国内のコミュニティサービスとしては破格の存在感を持ち、11月2日にはサービス開始からわずか419日という短期間で40万ユーザーを突破した。運営会社のクルークは、11月1日をもって社名を「ピクシブ」へと変更し、急遽、中核事業として進める決断を下した。そのピクシブの代表取締役片桐孝憲氏、取締役永田寛哲氏に、pixiv誕生の経緯から今後の展開まで、幅広くお聞きした。

サービスの開発当初は
「これはダメだろう」と思っていた

ピクシブ片桐孝憲社長

ピクシブ株式会社代表取締役 片桐孝憲氏 「いつか世界で通用する自社サービスが生まれたなら(受託開発をやめて)それ一本でやっていこうと決めていた」。

―― pixivの特徴はどういったところにあるのでしょうか。

片桐 これまで、この手のサービスはもっぱら“人”をフォーカスするもので、「ある人のギャラリーを作りましょう」という感じだったのですが、pixivはあえて“絵”にフォーカスしています。そのため、イラストランキングはあっても、ユーザーランキングはありません。開設当初から、絵でつながるコミュニティサイトを指向しています。基本的に1日1回、評価・閲覧数・ブックマークから算出した200位までのデイリーランキングを出しています。

―― 誕生のきっかけは?

片桐 弊社には、外注以上社員未満の上谷隆宏という者がおりまして、彼がイラストのSNSを作りたいという話をしていたんです。正直、僕は絶対に流行らないと思っていたのですが、「やりたいことがあるんだったら、やったほうがいい」と言ったところ、2007年9月冒頭ごろに「できた!」と連絡があったんです。もっとも、内心では「これはダメだろう」と思っていたのですが、彼が納得するならばと最低限の修正箇所を指摘して、サーバもこちらで1台用意するかたちで同月にスタートさせました。

 告知もせずに始めたので、案の定、最初の3、4日間はユーザーが全然来ませんでした。これは宣伝が必要だということで、つてをたどってRBB TODAYさんに取材してもらったところ、1日に2000人規模でユーザーが増え始めたんです。それを見て、手の平を返すようですが『……ひょっとして、これはイケるんじゃないか?』と(笑)。

 実はこのときまで、インターネット上にこんな多くの、しかもクオリティの高いイラストが存在するとは思ってもいませんでした。そして決定打となったのが、pixivというサービス自体を擬人化したキャラクター「ピクシブたん」(2007年9月22日が初出。現在、3000以上のイラストがアップロードされている)がユーザーの手によって作られたことですね。pixivがなければ存在しなかった作品ができたのを見て、これは絶対にイケると思いました。そこで、「会社を興してpixivを運営するべきだ」と上谷に言ったのですが、一緒にやろうと誘われたので、正式に社員として迎え、かつ、あらためてpixivをウチの正式事業のひとつとして運営・開発することに決めたのです。

―― あの、開発者の上谷氏は本日お休みでしょうか……?

片桐 彼は基本的に、自宅作業が主ですね。週に一度のペースで出社して、状況を確認するかたちです。そもそも、引きこもりがちなので社員にできなかったという経緯があるほどでして(笑)。

―― そもそもの御社のメイン事業は?

片桐 システム開発の受託がメインで、その合間に自前のウェブサービスもいくつか発表しているという状態でした。

―― それが、イラスト投稿サイトを突如として作ってしまった。

片桐 上谷は元々、イラストレーターになりたくて絵をずっと描いてきたんですけれど、絵で食うのは難しいので、プログラマーになっちゃったという男なんです。まあ、その無念をpixivにぶつけたという感じでしょうか(笑)。だから、彼は絵をたくさん見たいという自身の欲求を満たすために、pixivを作ったという側面があります。

―― サービス名称であるpixivの由来は?

片桐 画素を意味する「ピクセル」が元ですが、それが“ピクシブ”になったのは、単に言葉の響きからですね。

―― pixiv以前にも、SNS的なものを自社開発した経験はあったのでしょうか?

片桐 ウェブサービスはかなり作ってきたので、技術的な下地はありました。SNSに限らず、Twitterのようなひと言つぶやき系のサービスを開発したこともあります。

―― 「人ではなく、絵にフォーカスしたシステム作り」は開発当初から狙っていたもの?

片桐 そうです。イラストレーターのサイトを集めたリンク集や検索サイトはすでに存在していましたが、それらは人もしくはサイトにフォーカスしていました。だから、例えば「ファンタジー」というキーワードで絵同士がつながるといったことは、今までは不可能でした。pixivは、それを可能にしたいという上谷の欲求に沿って開発されたものなんです。

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