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企業・業界レポート 第8回

誰も語らない ニッポンのITシステムと業界

「メインフレーム終焉」のウソ

2009年05月07日 09時00分更新

文● ASCII.jp 聞き手●政井寛、企画報道編集部  協力●アスキー総合研究所 遠藤 諭

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政井寛が斬る 「370アーキテクチャの呪縛」

 「レガシー」と名指しされるメインフレーム(大型汎用コンピュータ)は、現在、日本で金融、流通系の企業や官公庁などにまだ1万台以上も稼動しているといわれる。これらの大半は「370アーキテクチャ」と呼ばれるIBM製メインフレームの流れをくむテクノロジーが使われている。



 1982年に報道された「IBM産業スパイ事件」をご記憶の方も多いはず。1970年代に、主要コンピュータメーカーの一部は、IBM製コンピュータ向けのソフトや周辺機器がそのまま使える「IBM互換機路線」を探ることになる。その中で、「IBM システム/370」の技術情報を不法に入手しようとして摘発された事件である(1983年に和解済み)。このような屈辱的な出来事はあったが、国産メインフレーム・メーカーのIBM互換機路線は、1990年代まで一応の成功を見たといえる。その証拠に、全世界の大型コンピュータ市場を独占したIBMは、日本市場のみ30%前後のシェアに留まることになる。また、国産メインフレーム・メーカーは、M&Aで欧米に橋頭堡を作り、積極的に海外進出しつつあった。



 しかし、1990年頃になるとUNIXやC/S(クライアントサーバー型システム)といったメーカーの枠を超えた「オープン系」システムが注目されはじめる。それ以降は、ハードウェア価格の急激な低下やネットワーク技術の普及によって、オープン系システムの普及は加速していくことになる。それに対して、IBMは、全世界にまたがる多数のユーザーと自らのビジネスを守るために、オープン環境と従来のアーキテクチャが共存できる「zシリーズ」を世に送り出した。この「z」は、C/S方式の脆弱性や運用の複雑化を嫌う世界の大企業ユーザーに受け入れられ、既存のシステムを吸収しながらデータベースサーバーとしての地位を確立しつつある。



 一方、富士通、日立といった日本のメインフレーム・メーカーはどうしたのか。オープンサーバーの出現でIBM互換機路線と縁を切ることができると考え、早くからオープン環境に適合できるサーバーの開発に傾注していった。当然、既存のメインフレームシステムはアーキテクチャの継続性が保証されなくなり、その時点からレガシーへの道を歩み始めたのである。



 自社でシステム開発・運用をできるユーザー、あるいは十分なIT予算を確保できるユーザーは、適切な手順を踏んで旧システムをオープン系に移行できる。しかし、はじめに述べたように今なお多数のユーザーが環境の変化に追随できず、最新のIT技術の恩恵にも浴することができない状態で立ち止まったままでいるのが現状なのだ。技術者も現状のシステムの維持に腐心しており、ハードやソフトに加えて人(技術者)もレガシーと化しているといわざるをえない。



 いまのままでは、本来、企業活動の源泉になるべきITが逆にビジネス環境の変化に対応できないばかりか、将来的な新システムへの移行すらままならない状態になりかねない。まだ、メインフレームを担当していた関係者が残っている現時点では、アクションの選択肢もあるが、数年後にはユーザーの企業活動にも影響を与えかねない致命的な状態になる可能性がある。これが「370アークテクチャの呪縛」と呼ぶべき日本の企業システムに見られる現象である。



注1:「レガシー」(Legacy)を辞書で見ると「過去の遺産」とある。ITの世界では新技術や環境の変化に対応できなくて、古くなりつつあるにもかかわらず諸般の事情で今なお稼動を続けているシステムをいう。



注:4月15日に富士通は新しいGS21シリーズと銘打って従来の大型汎用アーキテクチャを継承し、かつオープン系を包含するサーバーを発表した。IBM“zシリーズ”のように仮想化環境での統合ではないようだが、ユーザーにとっては延命という選択肢が増えたことになる。しかし「370アークテクチャの呪縛」はまだしばらく続く事になる。

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