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企業・業界レポート 第2回

ASCII Research Interview Vol.1

コンテンツ消費の縮図「とらのあな」が考えていること

2008年12月01日 14時00分更新

文● 村山剛史(構成) 聞き手●アスキー総合研究所所長 遠藤 諭 撮影●吉田 武

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 アキハバラをビジネスモデルとして見た場合、それを最も正確に理解するには、「コミックとらのあな」に飛び込んでみることだ。1994年に神田明神下の雑居ビルでスタートした同店は、まるで同人誌のようなゆるい店舗名で、新世紀にかけて“萌え”マーケットをリードした。とらのあなを運営する株式会社虎の穴社長の吉田博高氏に、アスキー総研所長 遠藤 諭が聞いた。

吉田 博高(よしだ ひろたか)

株式会社虎の穴 代表取締役社長

1970年東京都世田谷区生まれ。'88年に工業高校卒業後、'94年に虎の穴を創業。'96年に法人化し、2003年には株式会社に改組。趣味はガジェット、パソコン、モバイル機器の収集や、海外の“OTAKU”研究。現在、法政大学大学院イノベーション研究科にて勉強中で、学生向けに大学や大学院などでの講義も随時行っている。



マンガ、ゲームなどをここに集積

―― 現在の、コミックとらのあなの事業内容とその規模は?

吉田 売り上げ規模は年商171億円、来期の目標が186億円です。小売業が売り上げの90%程度を占めていて、その他グッズの生産などが残りの10%ですね。店舗数は全国に16店で、秋葉原には本店と1号店の2店舗を展開しています。

 とらのあなの特徴は、同人やアマチュアのクリエイターが作った作品を扱っていることです。商材別では、4割が商業誌、3割が同人(マンガ、ゲーム、音楽、グッズなどのすべてを含む)コンテンツ、そしてメディア(商業ベースの音楽CD、DVD、ゲームなど)と玩具(フィギュア含む)が残りを占めています。

―― 商業誌4割に同人3割ということは、御社の売り上げは圧倒的に紙なんですね。

吉田 そうです。同人は音楽やゲームも含めた数字なので、単純に売り上げの7割が紙というわけではありませんが、それでも多いときでは65%くらいが紙になります。

―― 長らく家電とパソコンの街だった秋葉原に、新しい風を吹かせた店舗が「とらのあな」で、そこには当然これまでになかった要素が含まれていると思うのですが、まずは吉田社長がとらのあなを始めたきっかけを教えて下さい。

吉田 今から20年ほど前、ソフマップで店員をしながら、秋葉原でまだ扱っておらず、しかもマーケットが伸びそうなものは何だろうと考えていました。

―― 当時はファミコンの爛熟期で、秋葉原が家電街から電脳街へ移り変わろうとし始めた頃ですね。何よりソフマップさん自体が伸び盛りでした。

吉田 時期的にはザ・コン館の開店直前なのですが(ラオックス ザ・コンピュータ館/1990年開店)、当時のソフマップでは成人向けのパソコンゲームが結構売れていたんです。

 アニメーションやマンガが好きな、今だとオタクと呼ばれるような人たちとパソコンショップをつないでいる商品が、成人向けゲームでした。ところが、アニメそのものはソフマップに置いていないので、石丸さんで買うわけです。そして、マンガを買うには、神保町の高岡書店まで行く必要がありました。

―― じゃあ、その頃のオタクは、神保町からマンガを抱えつつ、OVAやPCゲームを求めて秋葉原まで買いに来ていたわけですね(1キロメートル以上、2駅分ほどの距離がある)。

吉田 そうです。だから「1カ所で何でも買える場所」があればいいんじゃないかと考えたのです。需要があるにもかかわらず、ゲーム、マンガ、ビデオといったグッズが集積されているお店って、意外になかったんです。少なくとも秋葉原にはありませんでした。

 そして当時は、今とは比べ物にならないほどオタクが偏見の目で見られていましたから、オタク向けのゾーニングをするとほかのお客が非常に入りにくい、下手をするとエロ本屋に入るより厳しいんじゃないかといった風潮がありました。

 ですから、秋葉原の店舗では、成人向けゲームはよく売れているにもかかわらず、店の奥でひっそりと売っている状態した。だからこそ、これらを集積させれば、小さくてもパンチの効いた店になると考えたのです。

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