日本におけるIT産業の競争力強化を目的として、2003年12月に経済産業省がITサービスの実務能力をはかるため、国家資格やベンダー資格を含めて体系化したのが「ITスキル標準(以下、ITSS)」である。それから5年以上が経過し、ようやく活用される下地が整いつつある一方で、まだ誤解されている部分も少なくない。そこで改めてITSSとはどういったものなのか、そして何に活用できるのかを改めて考えてみたい。
IT業界でエンジニアとして働いていきたいと考えるのであれば、スキルアップは常に意識せざるを得ない問題である。個々のエンジニアのスキルアップは、実は日本のIT産業においても重要な課題であり続けている。現状でもシステム開発の一部を中国やインドに委託するオフショア開発は広まっているが、もし日本のエンジニアのレベルが停滞すればこの流れが加速する可能性は高い。こうした状況を放置すれば、日本のIT産業が地盤沈下する可能性すら考えられる。
一方、ITを活用するユーザー企業に目を向けてみると、その多くが部門最適にとどまり、全社的にITを効果的に利用できる企業はまだまだ少ないのが現状である。これはユーザー企業側の意識の問題に加えて、ITを活用した効率的な業務運営や新たな価値の創出を提案できる人材が、メーカーやシステムインテグレータに不足していることも理由ではないだろうか。このように考えると、IT業界で働く人材のレベルアップは、それ以外の産業にも大きな影響を与えるとも言えるのである。
あるべき姿を明確にした
スキルアップのために
スキルアップを図るためには、エンジニアなら「将来的に自分はどうなりたいのか」、ITサービス企業であれば「ビジネスを展開する上でどういったスキルを持つエンジニアが必要なのか」という指標が必要になる。こうした「あるべき姿」をイメージせずにトレーニングを重ねても、不要な遠回りをすることになったり、どこにゴールがあるのか分からないまま無闇に突っ走るといったことにもなりかねない。
もちろん、企業によっては求められる人材像が明確化されているケースもあるが、市場全体を考えた場合、IT業界全体で通用する「ものさし」があると便利だろう。標準的なものさしがあれば、個々のエンジニアは自分がなりたい姿(To Be)を明確にしてキャリアプランを考えられるようになり、またIT関連企業も事業において必要な人材像を明確にして教育を実施できる。ユーザー企業についても、サービスを提供するエンジニアのスキルが明確になるメリットは大きい。
こうしたものさしとして使うべく、「ITサービスの実務能力の明確化・体系化した指標」として策定されたのがITSSというわけだ。2003年当時の第1版は経済産業省の手によって公開されたが、その後はIPA(独立行政法人情報処理推進機構)に移管され、現在は「ITスキル標準 V3 2008」としてドキュメントが公開されている。
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