いまはITエンジニアなら誰でも知っているプロトコルですが、当時はOSI(Open Systems Interconnection)の7階層モデルがなく、大学にコンピューターサイエンスはあったけれど、ネットワークの講座というものはなかったそうです。プロトコルはアプリケーションごとに考えるのが当たり前で、スー氏はそれを「 キャッスルモデル ※ 」と呼びました。
※
キャッスルモデル
「ルーティングとか、ターミナルコントロールとかいったアプリケーションごとに、全部のレイヤを含めて考えなきゃならなかった。それぞれが独立してて、あるものは今でいうレイヤ4、あるものはレイヤ7までを含む、といった具合なので、建物(城)に見立ててキャッスルモデルと呼んでいるんだ」
そんな歴史に残るプロジェクトに携わっていたスー氏ですが、なぜその後BBNを離れたのでしょうか。「カルフォルニアに行きたかったんだよ。気候のよいこの地で、スタートアップビジネスに関わりたかったんだ。当時はようやくこのあたりがシリコンバレーと呼ばれだした頃で、まだまだスタートアップ企業は少なかったけれどね」
その後シリコングラフィックスでネットワークチームのジェネラルマネージャを勤めたり、ウォッチガードのCTOを勤めたりして現在に至っています。年齢は聞きませんでしたが、そろそろ60に近いはずです。エンジニアというよりは技術担当重役、といった役回りでしょうが、筆者もかつてスー氏と実際の業務で細かい仕様の議論などしたことがあります。まだまだ現役で、突っ込んだ技術では到底かないません。
今後について聞かせてください、という質問には、「ネットワークのことかい? 個人のことかい? ネットワークはもっともっと人々の身近になって、さらに役立つようになっていくだろうね。特に映像がもっと当たり前に使えるようになる。今も技術はあるけれど帯域が足りなかったりコストが高かったり、まだ一般化しているとは言い難い」。確かに、YouTubeを始め、ネット上で映像が身近になってきています。「YouTubeもあるけれど、あんな小さな画面じゃまだまだ。今のテレビくらいの映像を、ネットを使ってみんなが当たり前に使えるようになる。そのためにいろいろな進歩があるだろう」。スー氏は今、アレイネットワークスのCTOとして、Webアクセスの高速化や、セキュリティを守りつついかにユビキタスなアプリケーションアクセスを実現するか、といった課題に取り組んでいます。個人の将来はどう考えていらっしゃいますか? と聞くと、「個人的には? そろそろリタイアしたいなあ」という答えが返ってきました。
筆者紹介─秋山慎一
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日立システムアンドサービス にてシステムエンジニアやプロダクトマネージャ、 マーケティングを経験。現在Hitachi America Ltd. に駐在し、シリコンバレーの技術動向の調査やビジネス開発などに携わる。「SEのためのネットワークの基本」(2005年・翔泳社刊)、ネットワークマガジン連載「トラブルから学ぶネットワーク構築のポイント」(2005.12〜2006.12)などを執筆。
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