昨年(2013年)10月末、アイルランド・ダブリンでWebベンチャーイベントのステージに立ったレナード・クラインロック(Leonard Kleinrock)氏。45年前、ARPANETの誕生にかかわったクラインロック氏は、インターネットを活用したアイディアを次々と生み出す若き起業家や開発者を前に「サービスやアプリケーションはいつもわれわれを驚かせてくれる」と目を細めた。だが、その誕生当時には予想できなかったインターネットの“ダークサイド”には、苦い感情も隠さなかった。
ワーム、スパム、そしてDoS攻撃――ダークサイドの誕生
インターネットの帯域幅が徐々に広くなり、使いやすくなっていく一方で、1988年に、ある「重大な事件」が発生する。当時コーネル大学の学生だったロバート・T・モリス(Robert Tappan MorrisRobert Morris)氏が、世界で最初のインターネットワーム(通称「モリスワーム」)を放ったのだ。このワームは数千台のマシンをサービス不能に追い込んだという。
「最初は単なる異常な行為だと思ったが、間違っていた。それはインターネットの“ダークサイド”の始まりだった」(クラインロック氏)
ダークサイドの歴史は続く。1994年には、ローレンス・カンター(Laurence Canter)氏とマーサ・シーゲル(Martha Siegel)氏が、世界で初めて、インターネットを通じて大量の宣伝メール(スパムメール)を発信した。カンター氏とシーゲル氏がばらまいたスパムメールの内容は、米国永住権(グリーンカード)の広告だったという。
「われわれの反応は『あぁ、これは大変だ』どころではなく、『これは深刻なことが起こっている』というものだった。われわれのインターネットで広告だって? ――今では珍しいことではないが、当時は『なぜそんなことをするのか!』と腹を立てた」(クラインロック氏)
研究用ネットワークから段階的に商用化が進んでいた当時のインターネットにおいて、こうした広告行為に対する拒否感はまだ強かった。怒ったユーザーたちがカンター氏に対し「恥を知れ」「インターネットから出て行け」といったメールを大量に送りつけた結果、カンター氏のメールサーバーはダウンしてしまったのだとクラインロック氏は語る。「世界初のスパム発生を受けて、われわれ自身が『世界初のDoS攻撃』を実行してしまった、というわけだ(笑)」。
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