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Letter from Silicon Valley 第11回

アメリカでモバイルWiMAXの商用サービス始まる

2008年12月12日 04時00分更新

文● 秋山慎一

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スプリントのモバイル WiMAXサービス “XHOM”によって、いよいよユビキタス・コンピューティングが実現するのか。しかし、広大なことがアメリカの強みであり弱点。サービスエリアの充実には時間を要しそうだ。

ネットワークマガジン2009年1月号掲載

アメリカのスプリント・ネクステルはこの9月29日、モバイルWiMAXの商用サービス “XOHM”を開始したと発表しました。同日付けのプレスリリースで、スプリントはこれを「第四世代ワイヤレスネットワーク」と呼び、「まったく新しいインターネットベースのビジネスモデルが生まれる歴史的な日だ」と表現しています。

その仕様を調べてみると、通信速度は下りの平均速度が2〜 4Mbps、 料金 はモバイルの使い放題で45USドル/月とのこと。またノートPC用の通信カードは59.99USドルで売っています。モバイルWiMAXは、理論的に40Mbps程度まで実現できるといわれていますので、2〜4Mbpsというスピードはやや物足りない感じもします。とはいえ、平均でこれだけの速度が本当に出るのなら、「ブロードバンド」と名乗っても許されるでしょう。

※  プランの詳細
現在はキャンペーン価格で、6カ月間は30USドル/月。また家庭の固定PCからのアクセスはキャンペーン価格で25USドル/月。これらの料金にはISP機能も含まれるようで、メールアカウントが1つと5GBのファイルスペースなどが付いてきます。

XOHMの開始時点では、WiMAX内蔵のノートPCは今年中に出荷されるとアナウンスされていましたが、筆者がこの原稿を書いているまさに10月初旬、レノボなどいくつかのメーカーからWiMAX装備のノートPCの出荷が始まりました。価格は1000USドル前後が中心。デルやパナソニック、ソニーなども、来年初めにかけて次々に出荷を開始するそうです。

●現状のモバイル通信
現在のアメリカのモバイル通信の状況は、だいたい日本と同様です。たとえばベライゾンは日本のKDDIと同様のCDMA EV-D0Rev.Aという3.5世代の規格で最大1.4Mbpsのスピードを謳い、料金としては転送量が5GBまでは50USドル/月、超過ぶんは従量制などとなっています。カバーエリアも、都市部はほぼカバーしているようです。ただし、アメリカにはウィルコムのようなPHS通信は存在しません。

アルカトラズ

サンフランシスコ沖のアルカトラズ島は、映画「アルカトラズからの脱出」や「ザ・ロック」でも有名です。ちなみにアルカトラズは、スペイン語で「ペリカン」のことです。

アルカトラズ

これは正直、わくわくする状況です。45USドル/月の固定料金で、いつでもどこでもワイヤレスブロードバンドが使えるとなったら、すばらしいことです。筆者はノートPCの買い替えを考えるでしょう。

モバイルWiMAXの強みとして、インテルがそれを強力に推進しているという点が挙げられます。同社のモバイル向けプラットフォームは「Centrino」(セントリーノ)として有名です。今やほとんどのノートPCはCentrinoを搭載し、それゆえにWi-Fi(無線 LAN)にそのまま接続できます。そのインテルは2008年 7月に、コードネーム “Montevina”として開発していた「Centrino 2」を発表しました。省電力・高速化などノートPC向けに機能強化を図っていますが、その中にオプションとして、Wi-FiとWiMAX両用の無線アクセスモジュール “Echo Peak”が含まれています。今回出荷が始まったWiMAXノートPCはこれを搭載しており、Wi-FiにもWiMAXにもアクセスできるのです。インテルがWiMAXを強く推進していることは、WiMAXにとって強力な援軍です。多くのノートPCにWiMAXが標準搭載されれば、確実にその普及を後押しするでしょう。

前回お話したXGPは、この点で弱みがあります。世界で出荷される多くの機器にサポートされるかどうか? 物理レイヤはWiMAXと共通性が高いといいますが、今後の機器メーカーの動きが気になります。

大きさにびっくり

ペリカンは翼を広げるとゆうに1メートルを超えます。日本ではこんなサイズの鳥は見かけないので、かなり迫力があります。

大きさにびっくり

しかしXHOMにもまだ大きな問題が残っています。それは、サービスエリアです。今回のモバイルWiMAXは、実はボルチモアという1つの町だけでサービスが開始されたものなのです。

●ほかのキャリアの状況
アメリカの有力なキャリアにはスプリントのほかに、AT&Tやベライゾン、T−モバイルなどがあります。これらはいずれもモバイルWiMAXに手を出さず、モバイル通信に関しては現状の携帯電話を少しずつ高速化することで対応し、将来はLTEへという方向のようです。

ボルチモア市はメリーランド州でもっとも大きな都市で、ワシントンDCの少し北、ニューヨークからは南西に200kmくらいに位置する町です。日本になぞらえれば、「モバイルWiMAX、横浜市で試験サービス開始」という感じでしょうか。

これではもちろん、「いつでもどこでも」というわけにはいきません。スプリントは今後、シカゴやワシントンDCなど、順次サービスエリアを拡大するとして数十億ドルを投資して準備中です。しかし、ボルチモアのもたくさんの水鳥を見かけサービスインも当初の予定から遅ます。れており、全米の主要な都市をカバーするには、まだ数年を要するだろうと筆者は見ています。新しい技術であるWiMAXゆえの産みの苦しみです。筆者がアメリカにいるあと1、2年の間に、EchoPeak搭載のノートPCに買い替えてみたいものですが……。

ラグーンの午後

フォスターシティの近辺はベイを埋め立てて造った住宅エリアで、人工のラグーン(海から引いた水路)に囲まれています。ベイエリアにはこのようなラグーンや干潟も多く、身近にとてもたくさんの水鳥を見かけます。

ラグーンの午後

筆者紹介─秋山慎一


Letter from Silicon Valley

日立システムアンドサービス にてシステムエンジニアやプロダクトマネージャ、 マーケティングを経験。現在Hitachi America Ltd. に駐在し、シリコンバレーの技術動向の調査やビジネス開発などに携わる。「SEのためのネットワークの基本」(2005年・翔泳社刊)、ネットワークマガジン連載「トラブルから学ぶネットワーク構築のポイント」(2005.12〜2006.12)などを執筆。


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