ムーアの法則についていけない光学メディア
東芝がHD DVDから撤退することを決めたという。同社は18日、「撤退を決定した事実はない」というコメントを出したが、株価は撤退を好感して上がっている。これで次世代DVDの標準化競争は決着し、ソニー・松下などのBlu-rayディスク(BD)が世界標準となることが確定した。
しかし本当の勝者が誰かは、まだ分からない。1TBのHDDが3万円で買える時代に、たかだか55GB(BD両面モード)のディスクドライブを10万円も出して買う人がどれほどいるのだろうか。
半導体の集積度は、1年半で2倍になるという「ムーアの法則」がよく知られている(拙著「過剰と破壊の経済学 『ムーアの法則』で何が変わるのか?」参照)。これに対して光学ディスクの記憶容量は、1982年にCDが550MBだったのが、それから25年で100倍と、4年で2倍の割合でしか進化していない。これは記憶容量がディスクの物理フォーマットで決まるため、方式を変えるたびに標準化競争に無駄なエネルギーが費やされて、技術が固定されることが原因だろう。
これに比べると、HDDやUSBフラッシュメモリーは、SCSIやUSBといった同じインターフェースで性能を上げられるので、技術革新のスピードがはるかに速い。HDDの記憶容量は、ムーアの法則と同じように「もう物理的限界だ」と何度も言われながら、ほぼ毎年2倍というムーアの法則以上のスピードで上がってきた。
本家のムーアの法則も健在だ。すでにBD(片面一層)を上回る32GBのUSBメモリーが、3万円以下で買える。これはどんな電化製品にも装着でき、ディスクよりずっと小さいので持ち運びも楽だ。この価格は急速に下がるから、BDは──成功したとしても──最後の光学ディスクになろう。
HD DVDへの東芝のこれまでの投資は数百億円といわれるが、次世代DVDはまだ本格的なセールスが始まっていないので、世界中に普及してから撤退したソニーのベータマックスに比べれば、傷ははるかに浅い。むしろこれを機に、次世代DVDという中途半端な技術から手を切れるのは朗報だろう。

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