激増するスマートフォン特許紛争
グーグルがモトローラ・モビリティを125億ドルで買収したニュースについては、多くの見方が出ている。常識的には、OSを提供している企業が、その顧客である端末メーカーと競合する企業を買収することは賢明な戦略とはいえない。しかし私は、グーグルのねらいは端末メーカーになることではないと思う。
グーグルのラリー・ペイジCEOが「この買収によってグーグルの特許ポートフォリオが強化され、競争を阻害する訴訟からAndroidを守る上で役立つだろう」とコメントしているように、重要なのは特許である。モトローラのもつ特許は1万7000件で、単純に計算すると1件73万ドル(約5600万円)で買ったことになる。
これはべらぼうな額に見えるが、2009年に経営破綻したノーテル・ネットワークスの保有していた特許6000件は、会社整理に際して45億ドル(1件75万ドル)で売却された。つまりモトローラの買収額は特許の価値と考えれば相場に近いのだ。逆にいうと、特許以外のモトローラの事業(赤字続き)にはほとんど価値がないとグーグルは見ているのかも知れない。
この背景には、携帯電話がスマートフォンに進化するにともなって、特許紛争が激増しているという問題がある。スマートフォンに関連する訴訟は、主要なものだけで300件以上にのぼり特許バブルともいうべき状態になっている。次の表のように、原告と被告には同じような企業が並び、モトローラは訴えている件数も最大だが、訴えられている件数も多い。
スマートフォンをめぐる主な特許紛争(Griffith Hack調べ) | ||
---|---|---|
原告 | 係争件数 | 主な被告 |
モトローラ | 41 | アップル |
クアルコム | 24 | ノキア |
アップル | 20 | サムスン電子 |
Helfrich Patent | 20 | HTC |
ノキア | 14 | RIM |
マイクロソフト | 10 | モトローラ |
通信に関する特許は、初期に取得されたものほど範囲が広く強力だ。たとえば「キーボードつき携帯端末」という基本特許はResearch In Motion(RIM、BlackBerryのメーカー)がもっているので、すべてのスマートフォンはこれに引っかかる。モトローラも老舗なので範囲の広い特許をもっているが、最近この市場に参入したHTCやサムスン電子などは訴えられる側に回ることが多い。こうした企業は、グーグルのスマートフォン用OSであるAndroidの主要メーカーだ。
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