原発はクリーンなエネルギー
マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は実務を引退し、その莫大な財産で設立した「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」による慈善事業に専念している。彼が援助の対象にしているのは主として発展途上国だが、これまではエイズなどの感染症の予防や治療の研究に寄付してきた。そのゲイツが最近、力を入れているのが原子力である。
5月初めに行なわれたWIREDビジネス会議では「福島第一原発の事故が起きても、原発は火力より安全だ」と講演を行なって、世界を驚かせた。これには根拠がある。たとえばOECD(経済協力開発機構)の調査によれば、死者が5人以上の重大事故はOECD諸国では、これまでに一度も起きていない(福島事故も放射線による死者はゼロ)。
原発事故による死者のほとんどはチェルノブイリ事故によるものだが、それも今のところ30人程度である。死者を発電量で割るとOECD諸国ではゼロで、途上国でもギガワット年あたり0.048人と、石炭(約6人)よりはるかに少ない。特に中国では、炭鉱事故で毎年3000人以上が死亡し、大気汚染で数万人が死亡しているといわれる。
地球温暖化への影響も石炭が最悪である。それに比べると、原子力は相対的にきれいなエネルギーなのだ。オバマ米大統領の発表したエネルギー政策でも、原発は「クリーン・エネルギー」と位置づけられている。炉心溶融によって原子炉が破壊される最悪の事故が起きた場合には、数千人の死者が出る可能性もあるが、OECD諸国では史上最悪の福島事故でもそういう事態には至らなかった。
ゲイツは「福島事故の原因は原発を建てたことではなく、新しい原発を建てなかったことだ」と指摘している。1967年に建てられた福島第一の1号機は古い「第2世代」で、設計も大津波を想定していなかった。最近の「第3世代」の原子炉では、このような事故は(設計上は)起こりえない。廃炉を嫌がって古い原子炉を延命しようとする電力会社と、新規建設に反対する地元との紛争によって設備の更新が遅れたことが、福島の悲劇の原因である。

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