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乱立するイノベーション活動をどう束ねるか。人材開発から始まる大企業の組織づくり

新規事業の理論と実践をつなぐ―コニカミノルタ 宮木俊明氏×羽山友治対談

連載
トップランナーと語る「新規事業の本質」

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10年続いた「出島」から見えた、大企業の新規事業の難しさ

羽山:ここまで人材について伺ってきましたが、大企業にはもう一つの難しさがあります。『新規事業の本質』では、複数の新規事業を継続的に生み出すコーポレートベンチャービルダーも取り上げています。ですが、そこまでいかなくても、新規事業組織の独立性を高め、本体とは異なる人事制度などを使える、いわゆる「出島」をつくる考え方があります。コニカミノルタでは、そうした議論はありますか。

宮木:実は、コニカミノルタには以前、「ビジネスイノベーションセンター」という組織がありました。2013年に発足して、2023年3月末まで約10年間続いていました。当時としてはかなり画期的な出島型の組織だったと思います。スタートアップの買収や投資なども含めて、かなりアクティブに活動していました。ただ、今はセンター自体は廃止され、技術開発本部に統合されています。

羽山:約10年間続けたうえで、解体された。どういう背景があったのでしょう。

宮木:あくまで私見ですが、いくつか要因があると思います。新しい芽は生まれましたし、当時生まれた事業で、今も育っているものもあります。ただ、「会社の次の柱になるような事業をつくれたか」と問われると、活動期間内にはそこには至らなかったという見方になるように感じています。

 もう一つ大きそうなのが、本体とのシナジーです。出島での自由度と引き換えに、本体との接続性が構造的に弱まったのではないかと考えられます。もちろん、私自身はまったくの失敗だったとは思っていません。私が入社する前からの取り組みですので、後から見ている立場ではありますが、新しいものはたくさん生まれましたし、醸成されたカルチャーもあると見ています。ただ、会社としては別のやり方を模索しよう、という判断になったのだと思います。

羽山:5年くらいでやめてしまうなら「もう少し続けてもいいのでは」と思いますが、10年やったうえで次の柱に届かなかったとなると、社内でも続ける判断を正当化するのは難しくなりますね。

宮木:そうですね。その学びを踏まえて、ここ数年は足元を整えてきました。「なぜコニカミノルタでこの事業をやるのか」を改めて考え、技術だけではなく、サプライチェーンなども含めた自社の強みを生かして事業開発をしようとしている。その流れの中から立ち上がったのが、今私がいる事業開発部です。

乱立するイノベーション活動を誰が束ねるのか

羽山:御社と同じくらいの規模のグローバル企業を見ると、全社の新規事業開発があり、各事業部にも新規事業開発がある。オープンイノベーションのチーム、CVC、アクセラレーションプログラム、ベンチャークライアントと、さまざまな活動が並行して動いている会社があります。コニカミノルタでも、技術部門から新しいものが生まれますし、事業部にもそれぞれ新規事業がありますよね。

宮木:あります。技術開発本部から生まれたテクノロジーをどう事業につなげるのかは当然考えますし、各事業部が新規事業的な取り組みをしていることももちろんあります。

羽山:今回の本を読んでくださった方から、「新規事業に関する活動がこれだけ広がっているなら、それぞれを連携させ、全体として相互作用を考える人や部署が必要なのではないか。それがCIO(Chief Innovation Officer)なのではないか」という感想をもらったのです。

 私自身、この本を書きながら、まさにそういう問題だと思いました。個別の新規事業プロジェクトだけなら、最低限リーンスタートアップのやり方を知っていれば進められるかもしれません。でも大企業では、それだけではありません。

 研究開発、各事業部の新規事業、オープンイノベーション、CVCがある。外部スタートアップとの連携もある。それぞれが別々に活動していると、会社全体としてどこへ向かうのかが見えなくなる。全部を俯瞰して、「この活動とこの活動はつなげよう」「この技術はこの事業部と組み合わせよう」「ここには外部のスタートアップを使おう」と考える人や組織が必要になると思うんです。

宮木:その考え方には同意します。コニカミノルタでは、現在、CIOという役職は置いていませんが、会社のイノベーションを推進する役割として、私の部門と技術開発本部や事業部との連携を進めているところです。

羽山:その場で議論する人たちには、ある程度共通言語が必要ですよね。例えば、CVCとは何なのか。オープンイノベーションはどう使うのか。新規事業を社内でやるのか、外に出すのか。研究開発型企業なら、技術をどう商用化まで持っていくのか。

 参加者全員が同じ専門家である必要はありませんが、それぞれの選択肢について基礎的な理解がないと、全社として議論するのは難しい。

宮木:そこは難しいところです。人によって得意領域も違いますから。

羽山:今回の本をまとめた目的の一つも、そういう共通言語をつくることでした。世の中には、ゼロから一つの事業をつくる方法を扱った本はたくさんあります。ただ、大企業では、研究開発、CVC、オープンイノベーションなど、複数の手法をどう組み合わせるかまで考えなければならない。大企業全体としてイノベーションを考えるための「地図」が必要だと思ったんです。

宮木:確かに、イノベーションに必要なテーマをここまで広く扱っている本は、これまであまりなかったと思います。ゼロイチを扱う本は多いのですが、大企業で複数の事業開発をマネジメントする立場になると、個別のテーマは理解できても、「全体をどうすればいいのか」という地図がなかった。そのニーズには非常に合っていると思います。

新規事業、人材開発、組織開発を「三位一体」にする

宮木:私自身、社内外のさまざまな立場で新規事業開発と人材開発をやってきましたが、もう一つ重要だと思って取り組んできたのが「組織開発」です。既存事業と新規事業が同時に存在していることが、スタートアップと大企業の大きな違いです。出島をつくることは、一つの答えだと思います。でも、それがすべてではない。

羽山:既存事業の側を変えていくという考え方もあります。例えば「ビジネスモデルイノベーション」のようなフレームワークでは、既存事業が持っている資産を使いながら、ビジネスモデル自体を変えていきます。ただ、既存事業の中の人たちは、これまでの成功のロジックに強く影響されているので、自分たちだけでそこから抜け出すのは難しい。

 そこで新規事業の人材が、既存事業の変革にも関わる。完全に新しい事業だけをつくるのではなく、既存事業と一緒に変革するテーマを持てば、新規事業部門と既存事業部門の対立も変わってくるかもしれません。

宮木:たいへん示唆に富んだ話ですね。私も、最終的には専門部署だけが新規事業をやる状態ではなく、既存事業にいる人たち自身が日常的に新規事業に関わっていける会社を目指したいと思っています。

 以前の事業本部では、既存事業に関わっている人たちと、その事業のビジネスモデルを土台に新しいことをやってきました。ただ、仕組みがあったわけではなくて、仲間とゲリラ的にやってきた部分もあったというのが正直なところです。それでは、「馬力のある人しかできない」ということになってしまう。だから、これをどう仕組みに落とすのかが、これからの課題です。

羽山:最終的には、新規事業の専門部隊がなくても、新しい事業が生まれる状態になるのが理想ですよね。以前、ブラザー工業の方に話を聞いた際、既存事業の中でも常に事業を変えていく文化があり、新規事業を専門部署だけの仕事にしていないという話が印象に残っています。

宮木:そうですね。カルチャーとして浸透すれば、特殊な部隊はいらなくなるかもしれません。ただ、今のコニカミノルタには、まずインキュベーションの仕組みが必要だと感じています。そのために現在の私の部門があるのだと思っています。

 私の考えでは、新規事業開発と人材開発と組織開発は、切り離すべきではありません。「三位一体」で進めることを、自分の信念としてやっています。新規事業開発は、非常に強力な人材開発の手法でもあると思います。でも、新規事業をやれば人が育つから、それだけでいいという話でもない。

 組織開発が追いつかなければ、せっかく育った人が一人で「孤軍奮闘」することになります。その中で、一つのアイデアだけに賭け続けたり、顧客や現場よりも社内説明に時間を取られ、一次情報から離れたりすることもあります。私はこれらを、新規事業が陥りやすい「3つのイチ」と捉えています。これは事業開発の失敗要因であると同時に、人材開発の失敗要因でもあります。

 また、人材を一人ずつ既存事業へ戻せば、新規事業の経験がそのまま組織に還流するとも限りません。一人では、異動先の仕事の仕方に同化してしまうこともあります。共通言語や信頼関係を持つチーム、さらに部門を越えて相談できる関係性まで残してこそ、新規事業で育った力が組織に根づくのだと思います。

羽山:人材を育てる話から始めても、最後は組織そのものをどう変えるかという話になりますね。大企業の人材開発では、育てた人が継続的に新しい事業を生み出せる組織までを同時に考える必要がありそうです。 

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