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PeopleXも実践する企業成長をもたらす連続的な「共生型M&A」戦略

新規事業の理論と実践をつなぐ――PeopleX橘大地CEO×合田ジョージ対談

株式会社PeopleX 代表取締役CEO 橘 大地氏(左)
東京大学法科大学院修了後、弁護士資格を取得し、サイバーエージェント、GVA法律事務所で企業法務に従事。2015年に弁護士ドットコムへ入社し、クラウド契約サービス「クラウドサイン」の事業責任者を務め、執行役員、取締役を歴任。2024年4月にPeopleXを創業し、「PeopleX AI面接」や「PeopleWork」などのHR・AIサービスを開発、運営。2025年には「AIによる採用面接・人事評価サービス協議会(AIAC)」を設立し、代表理事に就任している。

合田 ジョージ氏(右)
株式会社ゼロワンブースターホールディングス取締役、株式会社ゼロワンブースター代表取締役。MBA、理工学修士。東芝、村田製作所で研究開発、商品企画、海外営業、国際アライアンス、全社戦略策定などを経験。ITスタートアップでは海外展開やM&A後の統合・海外戦略を担当した。現在は01Boosterでコーポレートアクセラレーターや事業創造支援を手掛け、国内外の新規事業創出とエコシステム構築に取り組む。

 新規事業を成長させる方法は、自社で人材や技術を積み上げることだけではない。必要な技術や顧客基盤、人材を持つ企業とのM&Aも選択肢になる。国内外の新規事業に関する研究をもとに、事業創出から成長までの知見をまとめた書籍『新規事業の本質 世界レベルの「理論」と「現場知」で描く全体地図』(以下、『新規事業の本質』)。著者の羽山友治氏と合田ジョージ氏が、成長企業の経営者や新規事業の実践者と対話しながら、その理論を現場の経験と照らし合わせていく。

 第2回のゲストは、株式会社PeopleX 代表取締役CEOの橘大地氏。AI面接やAIロープレなどのプロダクトを展開する一方、創業から短期間で複数社をM&Aしている。なぜAI企業が組織コンサルティング会社などをM&Aするのか。買収後の信頼関係をどう築き、連続的なM&Aを成長につなげているのか。『新規事業の本質』第8章「M&A」を軸に話を聞いた。

『新規事業の本質 世界レベルの「理論」と「現場知」で描く全体地図』第8章「M&A」

AIだけでは足りない。PeopleXがM&Aを選んだ理由

合田:まず、PeopleXが何の課題に挑戦している会社なのかを教えてください。短期間で複数のプロダクトを立ち上げ、M&Aも進めていますが、どのような考えで取り組んでいるのでしょうか。

橘:PeopleXは2024年4月に創業しました。私はその前に約10年間、クラウドサインの事業責任者を務め、慣習や文化を変えたり、無駄をなくしたりするDXに取り組んできました。

 これからAIが発達していくと、働き方そのものが大きく変わります。米国ではリストラクチャリングも起きていますが、そうした摩擦も生じながら、今後10年、20年をかけて世界中で人間とAIが共存する方法を模索していくことになると思います。

 PeopleXはAIプロダクトを作りながら、「人」と向き合う、というパーパスを掲げています。AIの力を、いかに人間のために活用するかを考えています。

合田:具体的には、どのような使い方でしょうか。

PeopleX AI面接

橘:例えば「AI面接」です。本来なら人事部長や社長が応募者全員と会えれば、その人の能力や熱意を見極められるかもしれません。しかし、時間がないために5~7割という多数の方を書類選考で不採用とせざるを得ない。そこでAIが対話を補助すれば、書類だけではわからない熱意や能力を聞き取ることができ、面接で人と向き合う機会を増やせます。

 「AIロープレ」も同じです。営業部長と毎日ロープレをできればスタッフは成長できますが、現実には、月1回30分くらいしかできないこともある。しかし、AIが相手であればいつでも時間の制約なく練習できます。このように、AIを人のために実装していくことに挑戦しています。

合田:その事業の延長線上にM&Aもあるのでしょうか。

橘:そうですね。人とAIが共存する社会は、AI面接という一つのプロダクトだけで実現できるほど単純ではありません。いろいろな課題を解決しなければならないので、最初から資金調達をしてマルチプロダクト化していきたいと考えていました。

 ただ、自分たちだけですべて行うのではスピードが落ちます。そこで、素晴らしい先輩企業の方々をM&Aさせていただき、この理念を1秒でも早く実現したいという思いからM&Aを選んでいます。

社名も制度も変えない。M&Aで選んだ「共生」

合田:M&Aでは文化や制度の違いが問題になることもあります。PeopleXでは、買収した企業をどのように統合しているのですか。

橘:私たちがM&Aさせていただくのは、むしろ先輩企業が多いのです。PeopleXはまだ創業間もないですが、例えば株式会社ジェックは創業60年以上です。ルーセントドアーズ株式会社の代表も、リクルートで30年以上の経験をお持ちのHR業界の大先輩です。

 ですので、親会社が制度を設計し直して、買収先を親会社に合わせるようなPMI(Post Merger Integration:買収後の統合)は行っていません。むしろ私たちが日々勉強させていただいています。信頼関係をベースに、謙虚に学ばせていただくのが私たちのやり方です。

合田:相手企業の知見を学びながら、PeopleX側の力を使って相手にもメリットを出す。言うのは簡単ですが、なぜそのやり方ができるのでしょう。

橘:株式会社SHIFTの丹下社長にお話を伺う機会があったのですが、SHIFT様も基本的に、M&Aした会社の社名を変えず、制度も変えず、社長も変えないというスキームを採用されているとのことです。スタートアップがロールアップしていく戦略が増えるなかで、これは一つのスタンダードな方法なのだとSHIFTさんから勉強させていただきました。

 PeopleXは「私たちを使えるところがあったら使ってください」という姿勢です。例えば我々の採用チームが支援に入り、それまで2年間で1人も採用できなかった企業様で、4カ月間に4人の採用が決まったこともあります。要望があればPeopleXから社員を派遣することもあります。

合田:買収した相手を変えるのではなく、まず自分たちのリソースを使って支援するわけですね。

橘:そうです。吸収統合をしない「共生」という道を選ぶことで、先方にも受け入れていただきやすくなります。PeopleXのストックオプションも買収先の全社員にお渡ししています。PeopleXだけが大きくなるのではなく、同じグループとして一緒に成長できる形にしたいと思っています。

Haspeslaghが開発した統合マトリクスでは、統合方針は4 つに整理される。「吸収」は被買収企業を買収企業に組み込む方法、「保全」は被買収企業の独自性を維持する方法、「共生」は能力移転を進めつつ自立性も残す方法、「保有」は財務的・経営管理的な関与にとどめる方法である(『新規事業の本質』第8章より)

AIをつくる会社が、なぜ組織コンサル会社を買うのか

合田:連続的にM&Aをしていく「プログラマティックM&A」のポジションを取ろうとした背景には、どんな考えがあるのでしょうか。

橘:AIサービスは、製品を渡せば次の日から大企業の中で使われるというものではありません。前職のクラウドサインでも、大企業に渡しただけですぐ使ってもらえるわけではありませんでした。コンサルティング企業と組んでラストワンマイルの構築支援をしたり、プロフェッショナルチームをつくって定着させたりする。3〜5年規模のプロジェクトになることもあります。

 近年のAIの世界では、FDE(Forward Deployed Engineer)という形で現場に入り込んで、プロダクトを業務になじませる動きがあります。AIが浸透すればするほど、最後の部分で伴走するプロフェッショナルの価値は上がっていくと思っています。

合田:そこで組織コンサルティング会社などが必要になる。

橘:はい。日本全国には、企業の中に入って制度設計や研修を行っている組織コンサル企業がたくさんあります。そうした企業と一緒になることで、PeopleXのAIサービスを大企業の現場に浸透させるための研修や制度設計までできるようになります。

合田:つまり、AIプロダクトと、現場への導入・定着を担う組織コンサルティングの力を組み合わせるわけですね。

橘:そうです。現場のノウハウを持つ企業とPeopleXのAIプロダクトを組み合わせることで、両方の価値を高められると思っています。

「一緒になってよかった」を先につくる。PeopleXのPMI

合田:吸収統合をしないとなると、それぞれの会社がバラバラな方向へ進んでしまう可能性もあります。ガバナンスや方向性は、どのように合わせていますか。

橘:人との信頼関係が非常に重要なので、交流する機会をものすごく大切にしています。お互いの半期や四半期といった節目の総会に、相手方のマネージャーの方々に来ていただいたり、私が出席したりしています。加えて、現場レベルで「一緒になったことで得をした」という実績をつくることも重要です。

合田:具体的にはどういうことでしょう。

橘:例えば、これまで1日35万円くらいで提供していた管理職研修に、PeopleXのAIロープレを組み合わせることで、400万円ほどの単価で受注できるケースがあります。現場の営業からすれば、「このAI製品を売ると自分たちの営業成績も上がっていいぞ」となる。そういう実績ができてから、会社としての目標にも入れていただく流れです。

合田:そこで生まれた売り上げは、買収先にも還元するんですか。

橘:レベニューシェアなどで還元します。現場が持つノウハウと私たちのAI製品を組み合わせ、その循環を回しています。

合田:『新規事業の本質』第8章でも、M&Aでは買収契約そのものより、その前後で相手企業への理解を深め、統合後にどう価値を生むかが重要と整理しています。PeopleXの場合、最初から制度を一本化するのではなく、仕事を一緒につくり、成果を分けることで関係をつくっているわけですね。

橘:PMIにおいて欠かせないのは、人間関係です。制度や組織図を変えれば統合できるというものではありません。人と人との関係をつくって、「一緒になってよかった」と思ってもらうことが重要だと思っています。

M&Aを「経営の中核」に。1社で終わらせない成長戦略

合田:日本では、IPO時の時価総額がそれほど大きくなくても上場できるため、M&AよりIPOに偏りやすいという課題がありました。M&Aが増えれば、売却後に再び起業するシリアルアントレプレナーも増えやすくなると思います。大企業や、M&A後のPMIに悩んでいる企業に対して、どのようなことを伝えたいですか。

橘:FacebookによるInstagramの買収や、GoogleがYouTubeを買収したときも、買収側からエンジニアなどの支援人材を大量に派遣する形を取っていました。こうした「共生モデル」は、世界的な成功事例に見られます。自社だけで成長するのではなく、スタートアップを取り込みながら成長していくときに、「共生」を選ぶことが重要だと思います。

合田:では、日本のトラディショナルな大企業や、創業70年、100年といった歴史のある地域の中堅企業から相談された場合は、どうアドバイスされますか。

橘:一番重要なのは、M&Aを「経営の中核」に置くことだと思います。経営企画やオープンイノベーションチームの数名だけで検討して、案件が上がってきた段階で取締役会が議論するのでは遅い。自分たちには次にどのような企業が必要なのかを、経営陣が毎月のように議論し続ける。M&Aを経営戦略のキーマターとして捉えることが大事だと考えています。

合田:そのとき、「自力でやるのか、M&Aでやるのか」は、どのように切り分けるのでしょう。

橘:PeopleXの場合、得意な領域はAI技術開発なので、そこには投資を集中します。逆に、現状不十分なところは無理に自力でやらないということです。自分たち以外にもできる会社がたくさんある領域は、私たち独自の強みにはなりません。

 そうした領域では、優秀な企業や人材をロールアップし続ける。私たちはAI技術開発に専念して、プロフェッショナルファームやコンサルティングの機能は外部から取り込んでいく。そういうスタンスです。

合田:つまり、1社買収して足りない機能を補えば終わり、ということではない。

橘:はい。M&Aやロールアップで重要なのは「再現性」です。1社買って終わりではなく、それを継続し、再現性を持たせることが重要です。

合田:そういった動きは、『新規事業の本質』第8章でも取り上げている「プログラマティックM&A」ですね。個別の大型案件だけに賭けるのではなく、M&Aを継続的な成長の仕組みにしていく。

橘:本書を読んで、「プログラマティックM&A」というロールアップの考え方や、「共生」というキーワードが、自分の中でも非常にしっくりきました。PMIは人間関係なので、そういった側面が言葉として書かれていて、深い学びになりました。

合田:PMIで揉める前の段階から経営陣が議論を重ね、相手企業への解像度を高めておくこと、買収後も人と人との信頼をつくっていくことが重要だとよくわかりました。本日は本当にありがとうございました。 

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