社内ニーズ、成果評価、CVC連携――京セラが長年の実践で見たオープンイノベーションの課題
新規事業の理論と実践をつなぐ―京セラ オープンイノベーション推進部 責任者 大崎哲広氏×羽山友治対談
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大崎 哲広氏(左)
京セラ株式会社 みなとみらいリサーチセンター 研究開発本部 オープンイノベーション推進部 責任者
青山学院大学理工学部卒、1991年京セラ株式会社に入社。総合技術本部にてⅢ-Ⅴ半導体薄膜デバイス研究開発に従事。GaAs on Siデバイスの量産プロセス開発、量産立上げ、品質保証に従事。その後中央研究所(現けいはんなリサーチセンター)で半導体機能材料開発を経て2015年にソフトウェア研究開発組織「ソフトウェアラボ」の立上げに参加。2019年より現職。外部との共創を進めるオープンイノベーション推進業務に従事。
羽山友治氏(右)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー、理学博士。チューリヒ大学有機化学研究科博士課程修了。日系・外資系化学メーカーで研究・製品開発に携わった後、技術探索やオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者、現場担当者、仲介業者の各立場で新規事業創出に関わる。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本 外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』、『新規事業の本質 世界レベルの「理論」と「現場知」で描く全体地図』。
オープンイノベーションは、どうすれば大企業の中で成果につなげられるのか。外部の技術や知識を取り込み、研究開発や新規事業に生かしていくには何が必要なのか――。国内外の新規事業に関する1000件超の研究論文を読み解き、実践につながる知見をまとめた書籍『新規事業の本質 世界レベルの「理論」と「現場知」で描く全体地図』(以下、『新規事業の本質』) 。著者の羽山友治氏と合田ジョージ氏が、成長企業の経営者や新規事業の実践者と対話しながら、その理論を現場の経験と照らし合わせていく。
第4回のゲストは、京セラ株式会社 みなとみらいリサーチセンター 研究開発本部 オープンイノベーション推進部の大崎哲広氏。大崎氏は、社内の研究開発ニーズを集め、外部の技術や企業につなぐ活動を長年続けるとともに、イベントやスタートアップピッチなどを通じた社内外のネットワークづくりにも取り組んできた。
近年は「オープンイノベーション=スタートアップとの新規事業」と捉えられることも多いが、本来は既存事業や研究開発に外部の力を取り込むことも含む。『新規事業の本質』第5章「オープンイノベーションの概要」を軸に、基本的なプロセスである「Want-Find-Get-Manage」を長く実践してきたからこそ見えてきた、大企業のオープンイノベーションの難しさと、その先の組織やエコシステムのあり方について話を聞いた。
新規事業だけではない。既存の研究開発を速めるオープンイノベーション
羽山:私は何度か大崎さんの講演を拝見していますが、京セラはかなり早い段階から、社内のニーズを集め、それに合う外部の技術や企業を探すオープンイノベーション活動を続けてこられましたよね。
『新規事業の本質』では、こうした流れを「Want-Find-Get-Manage」と整理しています。何を必要としているのかを定め、外部の技術やパートナーを探し、協業条件を整え、実際の取り組みにつなげていく。京セラの活動は、この基本モデルにかなり近いように見えます。
大崎:はい。今も大枠では、社内のニーズを集め、それに合う外部の技術や企業を探す活動を続けています。最近はオープンイノベーションというと、新規事業をつくるための活動として語られることが多いですよね。我々の場合は、新しい価値を生むことに加えて、社内のニーズを外部の力につなぎ、既存の研究開発を速める役割も大きいです。
羽山:そこは重要ですよね。オープンイノベーションは新規事業だけの手法ではなく、既存事業や研究開発に外部の力を取り込むことも含みます。京セラのように基本的な活動を長く続けてきた企業だからこそ、その先で見えてくる課題があると思います。
大崎:我々のような企業規模になると、どうしても現業や現在の研究が軸になります。一方で、社内でも「オープンイノベーションとはスタートアップと何かをやること」というイメージを持つ人はいます。ただ、イベントを開いて交流するだけで研究や事業が進むわけではありません。外部との接点を、実際の研究開発や事業につなげるところまで考える必要があります。
外に技術はある。でも大企業のオープンイノベーションは「Want」で詰まる
羽山:本書でも、オープンイノベーションで成果が出ない理由は、必ずしも外部に良い技術やパートナーがいないからではないと書いています。
むしろ、「自社が何を求めているのかが明確でない」「外部から持ってきた技術を受け入れる仕組みがない」といった企業内部の問題のほうが大きい。WFGMで言えば、Findより前のWantと、見つけた後のManageが難しいわけです。実際に長く活動されて、大崎さんはどう感じていますか。
大崎:我々も、社内のニーズを集めるところには苦労しています。研究者には、自分たちの技術課題は自分たちで解決しようとする意識もあります。 そのため、「外部に何を求めるのか」というニーズそのものが見えにくいことがあります。
また、研究開発で課題を解決できても、そこから事業にするまではさらに時間がかかります。事業部との連携も重要であり、 研究成果をビジネスまでどうつなげるかは大きな課題です。
羽山:外から技術を探すこと自体は、AIなどの発展も含め、以前よりずっとやりやすくなりました。難しいのは、「会社として何が欲しいのか」を言葉にし、見つけた技術を誰が引き取るのかを決めることです。
大崎:スタートアップと大企業では、意思決定や研究開発のスピードも違います。何のために組むのか、どう進めるのか、社内のどこが受け皿になるのかまで考えないと、実際の協業にはつながりません。
羽山:そう考えると、長くオープンイノベーションに取り組むほど、「外にいい技術があるか」ではなく、「自社がそれを使える状態になっているか」という問題に行き着くわけですね。
外部との橋渡しをどう評価する? オープンイノベーションの成果は誰のものか
羽山:オープンイノベーションを続けている企業で必ず聞かれるのが、「成果は何ですか」という問いです。ただ、これはオープンイノベーション推進部門にとって非常に難しい質問です。探索して外部のパートナーを見つけ、共同研究が始まったとしても、製品や事業になるまでは何年もかかることがあります。
大崎:そうですね。現在も、NDAを結んで研究を進めている案件はいくつかあります。ただ、それが最終的に製品や事業になるかは、途中ではまだわかりません。だからこそ、我々は活動のエビデンスを残すようにしています。
羽山:そこは非常に重要ですよね。オープンイノベーション部門が相手を見つけ、その先で共同研究が進んでも、数年後に成果が出たときには「相手を見つけてきただけでしょう」と言われるかもしれない。
大崎:そうなのです。私自身もエンジニアであるため、本当はプロジェクトに伴走したい。でも一つにかかりきりになると、探索する役割が果たせません。そこで、独自のデータベースを使って、面談や紹介、その後の進捗を記録し、スコアリングしています。
羽山:紹介した先から別の部署へと関係が広がることもありますよね。
大崎:あります。我々がつないだ相手との関係から、別の部署で新しい取り組みが始まることもある。そうなると、最初のきっかけが我々でも、成果との因果関係は見えにくくなります。だから私は、オープンイノベーション部門は基本的に「ギバー(Giver)」でなければならないと思っています。見返りを求めすぎると、機会そのものが減っていきます。
羽山:そのような場合、成果を自分たちのところに抱え込まないほうが、良い活動になります。その一方で、自分たちの貢献は見えにくくなる。だからこそ、途中のエビデンスを残しておく必要があるわけですね。
大崎:ただ、数字を取ればすべて解決するわけではありません。会社の状況に応じて、予算の使い方を工夫することも必要です。限られた予算でも価値を見出してもらえる活動を続け、また広げられるときに動ける状態を保つことが大事だと思います。
羽山:イノベーション活動は、調子のいいときだけ続けてもノウハウが蓄積しません。何をやってきたのかを記録しながら、会社の状況に合わせて形を変えて継続する。長期戦だからこそ必要な考え方ですね。
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