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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第109回

【JSTnews7月号掲載】イノベ見て歩き/研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(育成型)「ニホンウナギ成長増進を目指した、サプリメントオイル酵母の開発」

油を溜め込むサプリメント酵母で、ウナギを手頃にもっと美味しく!

2026年07月17日 12時00分更新

文● 肥後紀子 写真● 島本絵梨佳

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髙山 優子。帝京大学 理工学部 総合理工学科准教授。2023~25年 A-STEP研究責任者。

 社会実装につながる研究開発現場を紹介する「イノベ見て歩き」。第31回は、ニホンウナギの成長を促すために、餌に混ぜて与えるサプリメントオイル酵母の開発に取り組む帝京大学理工学部総合理工学科の髙山優子准教授に話を聞いた。ウナギが短期間で成長することで、養殖ウナギをこれまでより手頃な価格で味わえるようになることが期待されている。

成長スピードが2倍に
身の柔らかいメスも出現

 JR宇都宮駅からバスで約20分。豊かな緑に囲まれ、東京ドーム6個分という広大な敷地に帝京大学宇都宮キャンパスがある。ここで、理工学部総合理工学科の髙山優子准教授は、ニホンウナギの成長を促すサプリメントオイル酵母の開発とその実用化に取り組んでいる。

 現在、日本で食べられているウナギのほとんどは、稚魚であるシラスウナギを採取して養殖したものだ。養殖ウナギの餌には、成育を促すために魚の肝臓から抽出した魚油が添加されるが、近年は漁獲量の減少により魚油の価格が上昇している。また、魚油は酸化によって劣化しやすく、水中で餌から油が分離して、水質を悪化させるという問題もある。

 髙山さんが開発したサプリメントオイル酵母は、細胞内に油脂をためる性質を持つ油脂生産酵母を改良したものだ。油脂量を変えた2種類のサプリメントオイル酵母を用意し、ウナギに週3回、5カ月間与えたところ、多くの油脂を蓄えた酵母を食べたウナギは、そうでないウナギに比べて、体重は約2倍の速さ、胴回りはさらに速く成長することが明らかになった(図1)。成長が速いことで、餌代や飼育費用が抑制されるため、ウナギの価格低下にもつながることが期待できるという。油滴が細胞内に閉じ込められているため、酵母が餌から分離しても水質を悪化させることがないのもメリットだ。

 さらに、油脂量の多いサプリメントオイル酵母を与えると34%がメス化するという結果が得られた。一般的にウナギは、メスの方が身が柔らかくておいしいとされている。ウナギは成長過程で性別が決まり、養殖ウナギは約9割がオスになるが、サプリメントオイル酵母を与えることで天然ウナギに近いメス化率になるという。メス化率が上がれば、より安全にウナギの完全養殖の研究が進むことも期待できる。

図1 油を多く含むサプリメントオイル酵母を与えたウナギは、油の少ないものに比べて、体重が約2倍の速さで増加した。一方、体長については、油脂量による成長の差は見られなかった。

油脂量の多い細胞株を選抜
独自開発培地で培養期間短縮

 髙山さんは、もともとウナギの成育や餌を研究していたわけではない。専門分野は酵母を研究材料にした染色体研究で、サプリメントオイル酵母の研究は2023年に開始した。大学から、JSTのA-STEPへの応募を勧められたことがきっかけだ。同プログラムは新規性のある基礎研究成果を企業との共同研究につなげることを目指すものだが、当初、髙山さんは酵母の基礎研究では採択されるのは難しいのではないか、と考えていた。しかし、隣の研究室に実験用のウナギがいたことで、「酵母×ウナギ」というアイデアが生まれたという。

 以前から油脂をためる酵母の研究をしていた髙山さんは「養殖ウナギの餌には酵母エキスが添加されていて、さらに油を混ぜている」という話を聞き、「それなら、油脂生産酵母をウナギの餌に混ぜたらどうだろうと思い付きました」と当時を振り返る。ポイントの1つが、油をためた酵母を加工せずそのまま使う点だ。酵母の細胞壁は硬く、油を抽出・精製するには環境負荷が高くコストもかかる。ならば、そのまま使うことでその欠点が抑えられると考えた。サプリメントオイル酵母という名称は、酵母の細胞壁をカプセルになぞらえ、中に油脂を蓄える点から命名した。「企業の方と話していても、『酵母まるごと』というのは評判がいいですね」と髙山さんは話す。

 サプリメントオイル酵母(図2)は、たくさんの細胞株の中からさまざまな油脂量をためる細胞株を選び出して作る。選び出した酵母は、一般的な酵母の増殖に用いられる栄養豊富な培地で前培養し、培地の成分を洗浄後、髙山さんが開発したN培地(油脂蓄積培地)で4日間培養する。N培地による培養法は、従来法よりも油を速くためられるため、培養日数を短縮できる(図3)。N培地で培養した後は、回収して加熱処理し、その後はウナギの餌に混ぜて与える時まで、冷凍保存が可能だ。

図2 サプリメントオイル酵母の入ったチューブ(左)。サプリメントオイル酵母の顕微鏡写真(中・右)。油滴はBODIPY(蛍光色素)染色したもの。

図3 サプリメントオイル酵母の培養の流れ(左)。紫外線照射でDNAを変異させた酵母の中から、油脂を蓄積する育種株を選択した。株によって、ためられる油脂量は異なる。髙山さんが開発したN培地(油脂蓄積培地)を使用することで、従来法より速く油をためられる(右)。

実用化に向け企業と連携探る
他の魚や家畜への展開も視野

 現在は、実用化に向けてサプリメントオイル酵母や培養方法のさらなる改良を進めるとともに、連携の可能性を探ってさまざまな企業とマッチングをしている段階だ。サプリメントオイル酵母がウナギを速く成長させることはすでに判明しているが、まだまだ研究途中のこともある。例えば、メス化率が上昇している要因の解明はまだこれからだ。また、サプリメントオイル酵母を使用した水槽内では細菌数が減少することから、ウナギの腸内細菌との関連についても調査している。

 企業の声などを聞いて、大量のサプリメントオイル酵母を扱えるように培養の手順を改変した部分もあるという。「コストに見合うような大量生産向けの酵母をスクリーニングすることも考えています。また、餌にはDHAを入れたいという要望もあるので、遺伝子組換えを用いずにできる方法も検討中です」と、髙山さんはこれから取り組むべき課題を次々に挙げる。さらに、共同研究者である久留米大学分子生命科学研究所の齋藤成昭教授を中心に、海藻や酒粕(かす)などの未利用資源でサプリメントオイル酵母を培養する研究も進めているという。

 サプリメントオイル酵母の用途の可能性は、ウナギの餌だけではない。「他の魚類でも使えますし、水質がきれいに保たれるので特に金魚の餌にも適していると考えています」と髙山さんは語る。いずれは家畜の餌としての展開や、ヒトの栄養補助食品としての活用も研究していく計画だ。実用化の順番にこだわりはないと話す髙山さんだが、やはりまずは多くの日本人に愛されているウナギから、という思いもあるという。

 今年は7月26日が夏の「土用の丑(うし)の日」。例年、シラスウナギの漁獲量減少やかば焼きの価格上昇などがニュースになり、食べたくても気軽に手を出せなくなっている。サプリメントオイル酵母の実用化によって、大きくて柔らかいニホンウナギのかば焼きを、今よりも手頃な価格で楽しめる日は、そう遠くないかもしれない。

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