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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第99回

【JSTnews6月号掲載】特集1

無数の微細な孔を持ち電気を流す! 「導電性ナノ多孔体」の合成法を確立

2026年06月08日 12時00分更新

文● 島田祥輔 写真● 水野由佳

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 活性炭やゼオライト、金属有機構造体(MOF)には無数の微細な孔(あな)があり、特定の化学物質の分子などを吸着・放出する性質を持つ。名古屋大学大学院工学研究科の山内悠輔卓越教授は、こうした構造体のうち電気が流れる「導電性ナノ多孔体」の合成法を確立した。山内さんは、ナノ(ナノは10億分の1)メートルレベルの構造体を作る「ナノ空間」を作製し、高度に集積化した「ハイブリッド空間」の実現を目指して研究を進め、従来にない高機能・高効率な触媒の開発からがんマーカー、マイクロプラスチックの検出まで多方面の社会応用に取り組んでいる。

第2世代の無機多孔体を開発
多用途で圧倒的な優位性

 2025年のノーベル化学賞の受賞対象となったMOFは、無数の微細な孔を持つ構造体であり、「多孔体」と呼ばれている。化学物質などの分子を吸着・放出する材料として幅広い実用化が進んでおり、脱臭機能のある活性炭や、ペットのトイレ用の砂に使われるゼオライトが例として挙げられる。

 MOFは、炭素原子や窒素原子を含む有機分子と金属イオンから成る多孔体だが、有機分子を含まない無機多孔体も存在する。シリカ(二酸化ケイ素)を材料とし、ナノメートルスケールの細孔を持つメソポーラスシリカは無機多孔体の代表的存在である。

 無機多孔体の研究に取り組む名古屋大学の山内悠輔卓越教授は、電気が流れる多孔体である「導電性ナノ多孔体」を独自の合成法で作製。材料化学の分野で世界的に大きな注目を集めている。「ゼオライトやMOF、メソポーラスシリカには電気が流れません。そのため、気体分子の吸着・分離が主な用途です。導電性ナノ多孔体には、高い電気伝導性、骨格の結晶性や組成・細孔構造の多様性などの観点で圧倒的な優位性があります」と山内さんは説明し、導電性ナノ多孔体を「次世代の無機多孔体」と呼んでいる。

 導電性ナノ多孔体の中でも、金属原子を含む金属ナノ多孔体は特に導電性が高く、さまざまな組成や構造を持たせることができるため、応用範囲も広いと期待されている。例えば、光センサー、バッテリー、血中のグルコースなどを検出する医療用センサー、大気中や水中の物質を検出する環境センサー、水素で発電する燃料電池などへの応用が想定されている。

球体ミセルを鋳型に金属析出
抗がん剤の送達技術から着想

 早稲田大学大学院で学位を取った山内さんが物質・材料研究機構(NIMS)に着任した2007年当時、多孔体としてメソポーラスシリカやゼオライトが注目されていた。電気が流れる多孔体を作ればさまざまな応用が可能だと考えた山内さんは導電性ナノ多孔体の合成法の研究をしていたが、その道は険しかった。

 転機となる発想を得たのは、山内さんが茨城県科学技術振興財団から「つくば奨励賞・若手研究者部門」を受賞した2012年だった。同じ年に東京大学の片岡一則名誉教授(当時・教授)が、高分子で抗がん剤を包み、がん細胞に送達するナノマシンの開発で江崎玲於奈賞を受賞した。その研究は、水に溶けやすい親水基と、水に溶けにくい疎水基を持つ高分子でミセルという球体の構造を作り、その中に抗がん剤を閉じ込めるというもので、ミセルを安定化させる技術を開発していた。

 それを聞いた山内さんは、「安定化したミセルを規則的に配置して、それを鋳型とすることでナノ多孔体を作れるのではないか」と考えた(図1)。具体的な手順は次の通りだ。まず、ミセルを形成する高分子を水に添加する(図2-A)。高分子は疎水基を内側にしてミセルを自然に形成する。ここに金属イオンを添加すると、金属イオンはミセルの外側の親水基に集まる。次に、導電基板を入れて電気を流して電子を供給し、ミセル表面に金属イオンを金属として析出させる(図2-B)。最後に、ミセルを除去すれば、導電性ナノ多孔体が残るというわけだ。ミセルの大きさを変えることで孔のサイズを制御できるほか、室温に近い温度で反応が進む上、使う材料にもよるが電気を流す時間は1時間弱で済むという。

 当初はなかなかきれいな細孔構造にならなかったが、ミセルの直径や析出電位、析出時間などの改良を重ねて、2020年に導電性ナノ多孔体の合成法を確立し、「Nature Protocols」に論文が掲載された。「材料科学とバイオという、まったく違う分野のコンセプトを組み合わせることで、新しい材料が生まれたのです」と、山内さんは振り返る。

図1 左図はミセルの概念図。水になじむ親水基と水になじまない疎水基でできた高分子が、水溶液中で親水基を外側、疎水基を内側にしたほぼ球形の集合体となっている。右図の青は鋳型となるミセル、白は金属原子を示す。ミセルと金属イオンを混ぜた溶液に導電基板で電気を通して金属を析出させた後、ミセルを除去すれば、無数の細孔を持つ導電性ナノ多孔体が残る。出典:Nature Communications, 6, 6608, 2015, Springer Nature

図2 🅐ミセル溶液(左)とミセル溶液に金属イオンを添加した溶液(右)。金属イオンはミセルの親水基に引き寄せられ、ミセルの周囲に集まる。レーザーポインターを当てると、ミセル粒子が光の通り道を可視化するチンダル現象を観察できる。🅑ミセル溶液に金属イオンを添加した溶液に導電基板を入れて電気を流すと、金属イオンが還元され、基板上に金属が析出する。

ハイエントロピー合金で合成
機械学習を使い5種の元素選定

 2020年10月、ERATO「山内物質空間テクトニクスプロジェクト」がスタートした。名古屋大学や早稲田大学、NIMS、オーストラリアのクイーンズランド大学の研究グループで構成する同プロジェクトのコンセプトは、「あらゆる金属元素で多孔体を作り、電気を流し、応用範囲を広げること」だ。その実現に向けて、原子レベルから組成を制御し、ナノメートルレベルの構造体を設計し、そしてさまざまな特徴を持つ導電性ナノ多孔体を高度に集積化した「ハイブリッド空間」を制御する合成プラットフォームを確立することを目標に掲げた。

 ERATOでの山内さんらの成果の1つに、ハイエントロピー合金(HEA)の金属ナノ多孔体の合成がある。HEAは5種類以上の金属元素が均一に混ざり合っている合金だ。金属ナノ多孔体の合成ではこれまで、多くても3種類の金属元素が限界だった。

 HEAは、特異な物理化学的性質、卓越した耐久性、そして複雑な反応を高い選択性で起こせる特性から有望な触媒材料群として注目されている。だが、構造が複雑であるため、有用な成果を得ることは困難だった。山内さんは、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)の5種類の金属元素を特定の比率で混合し、上述の合成法を用いることで、元素が規則正しく並んだ結晶性を持つ導電性ナノ多孔体を得ることに成功した(図3)。

図3 🅐~🅒はハイエントロピー合金の導電性ナノ多孔体の電子顕微鏡画像。🅓は元素マッピングと呼ばれる手法により各元素をカラーで表示した画像で、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)が含まれることがわかる。出典: Nature Communications, 14, 4182, 2023, Springer Nature

 得られた多孔体は電極触媒として、水素発生反応に対して優れた活性と安定性を示すことがわかった。また、酸性、中性、アルカリ性と、幅広いpHで触媒活性を持つ。こうした性質はこれまでのHEAには見られなかった。一般的な触媒は反応が進むと活性が下がるが、この多孔体は2500回の触媒反応を繰り返しても活性がほとんど変わらない。

 山内さんがPt、Pd、Rh、Ru、Cuという元素を選ぶにあたっては、人工知能(AI)の一種である機械学習が役立った。AIが予測した多孔体を実験で作成し、その結果をAIに学習させる「アクティブラーニング」と呼ばれる手法を用いている。山内さんは「データの再現性が高く、効率良く優れた触媒を見つけ出せます」と、AIを活用する理由を話す。

 ただし、AIが予測できるのは、ナノ多孔体の表面で起きる反応の活性だけだ。水素発生反応の場合、発生した水素をどう回収するかといった設計は研究者自身で考える必要がある。「AIのアドバイスを取り入れつつ、最適な構造を考えて作るのが私たちの仕事です」と、山内さんは念を押す。

大小2つの孔を組み合わせ
マイクロプラスチックを検出

 山内さんは白金(Pt)原子をナノ多孔体の表面に均一に散りばめる方法も開発した。触媒による反応は表面でしか起きないため、内部までPt原子を詰め込む必要はない。Ptは非常に高価な金属のため、表面だけに配置すれば反応性を犠牲にすることなくコストを削減できる。さらに、Pt原子を1個ずつ孤立させるように散りばめれば、Ptの表面積を増やし、反応効率を上げられる。

 山内さんは、まず、安価なニッケル(Ni)で構成されるナノ多孔体を作製。次に、その表面でNiの溶解とPtの析出が同時に起きる「置換メッキ」と呼ばれる化学反応を起こして全体の10パーセント以上ものPt原子を、孤立させた状態で散りばめることに成功した(図4)。「大きな表面積を持つナノ多孔体だからこそ実現できたことです。世界最高クラスの活性を持つ、究極の触媒を作れます」と、自信をのぞかせる。

 ERATOの目標の1つであるさまざまな特徴を持つ導電性ナノ多孔体を高度に集積化することに関しては、マイクロプラスチックを検出する多孔体の開発がある。5ミリメートル以下のプラスチック粒子であるマイクロプラスチックは、数マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルから100ナノメートル以下の目に見えない大きさのものもあり、海洋生態系や人体への影響が懸念されている。山内さんは、孔の大きさが異なる2種類の多孔体を組み合わせることで、安価で簡便なマイクロプラスチック検出法を開発した(図5)。

 その方法は、孔の径が数百マイクロメートルの多孔体を用いて、その表面を、孔の径が数十ナノメートルの多孔体フィルムでコーティングするというものだ。マイクロプラスチックが多孔体フィルムに結合することによって発生する信号を解析することで、マイクロプラスチックの量と種類を特定できる。「大きな孔で物質を取り込み、小さな孔で検出する仕組みです」と山内さんは説明する。マイクロプラスチックを種類ごとに分類する過程を必要とする従来の方法に比べて9割以上コストを削減でき、マイクロプラスチック以外にもさまざまな物質を検出するセンサーに応用できるという。

図4 Pt原子を孤立させた金属ナノ多孔体の模式図(左)と電子顕微鏡画像(右)。電子顕微鏡画像で、赤い丸で囲んだ明るい点が1個のPt原子。
出典:Science Advances, 10, 25, 2024, AAAS 

図5 マイクロプラスチックを検出するナノ多孔体の写真(左上)とその電子顕微鏡画像。左下の比較的大きな孔の多孔体の表面を拡大すると、より小さい孔が表面に並んでいることがわかる。出典:Nature Communications, 15, 4351, 2024, Springer Nature

全合成の概念で無機化学を
もっともっとエレガントに

 ERATOプロジェクト期間中、人材の交流が活発になったことも大きな成果だ。オーストラリアのクイーンズランド大学の教授でもある山内さんは、名古屋大学の学生がクイーンズランド大学で講義を受けて最先端の実験設備に触れる機会を提供したり、クイーンズランド大学の研究者を名古屋大学の専任教員として採用したりしている。ERATOに参画していた研究者が世界中の大学で教員として活躍しているなどの国際化に貢献してきた。

 ERATOで導電性ナノ多孔体の研究を率いてきた山内さんの大きな原動力の1つは、「無機化学をエレガントな学問にしたい」という願いだという。有機化学では、1つの分子からいくつもの工程を経て複雑な分子を合成する「全合成」という手法がある。「無機化学においても、原子をコントロールし、AIの力も借りて組成を考え、空間を設計して、物質・材料にする『無機全合成』と呼ぶべき一連の流れを作り上げたいのです」と語り、今後も導電性ナノ多孔体の研究にまい進する考えだ。

とがった人間になれ。常識や既存のルートに縛られず、自分だけの視点で未知の可能性を切り拓くことが、研究の原動力になります。無機ナノ材料の創製を通じて、次世代無機多孔体という新しい材料科学を確立し、世界に通じる独創的な研究で社会と未来に貢献していきたいです。

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