米国のソフトウェア大手パランティア・テクノロジーズ(以下、「パランティア」)が、英国のロンドン市ともめている。
中央政府や地方政府が、契約相手の企業とトラブルになるとしたら、発注した業務の内容が政府側の要求水準に達していないとか、製品の価格が高すぎるといった理由からだろう。しかし、2026年7月9日のロイターによれば、両者の争いは業務の質や対価を理由とするものではないようだ。
ロンドン市警察とパランティアは、警察内の事務作業や犯罪捜査の証拠の分析といった業務を自動化するため、2年間で5000万ポンド(約108億円)の契約を締結することで合意した。だが、サディク・カーン市長が5月、市警と同社の契約を認めなかった。パランティア側は「公共の安全よりも政治を優先している」と反発している。市長室が表向き挙げた理由は「公開入札を経ていない」というものだった。しかし、パランティア側は市長室が同社の「価値観と倫理」を不当に考慮したと主張し、市長室はこれを否定している。
パランティアとロンドン市の争いは、法廷での訴訟に発展しそうだ。パランティアの何が、ロンドンの「価値観」に合わないのだろうか。
パランティアとの取引が政治問題化
英国では、ロンドン市だけでなく、国レベルでもパランティアと政府機関との取引が、政治問題化している。とくに2024年7月の保守党から労働党への政権交代が影響していると考えられる。
保守党時代の2023年11月、パランティアを中心とする企業連合は、イングランドの国民保健サービス(NHS)と最大3億3000万ポンドの契約を結んだ。パランティアなどが受注した業務の内容は、NHSの患者データや病床・手術の待機に関する情報を横断的に統合・分析するための「連携データ基盤」の構築だ。
パランティアが得意とするのは、形式の異なる雑多な情報の統合、管理、分析だと言われている。例えば、医療に関連する情報で考えると、極めて多様な情報が混在している。同じ疾患に苦しむ患者はロンドン市内に何人いるか、その疾患の治療や手術に対応できる医師はどの病院にいるか、各病院のベッドはどれだけ空いているか、手術室の空き状況は—。パランティアのデータ基盤は、こうした形式の異なるデータをつなぎ合わせ、分析し、ユーザーが必要とする情報を提供する。
医療情報は、個人情報の中でも最も取り扱いの難しい情報だと言われているが、パランティアとNHSの契約には反発が起きた。英国の医師会は「医療現場や国民に対する十分な説明がない」として、NHSを批判。労働者団体や人権団体を中心に、「NO パランティア」という反対運動も起きている。
では、なぜ英国でパランティアに対する拒否反応が起きているのだろうか。人権団体アムネスティのウェブサイトを確認すると、パランティアはイスラエル軍の作戦行動を支援するために技術を提供しており、ガザ地区におけるジェノサイド(虐殺)に関与している企業と契約すべきではないと主張している。
患者が情報の利用を拒否できない仕様である点も、英国内で批判を集めた。医師会が、各病院にこのシステムを使わないよう呼びかけたこともあって、各病院の利用が進んでいない現状がある。また、医療機関から統合された情報が、警察の犯罪捜査など別の目的に利用される可能性があるとも指摘されたようだ。
2024年7月の総選挙で、保守党から労働党に政権交代が起きたことをきっかけとして、NHSとパランティアの契約の解除や、更新しない方針について議論が起きている。2026年6月には英下院の科学・イノベーション・技術委員会が政府に対して、「容認できないリスクがある」として、契約の解除を求めた。
ロンドンの市長が、パランティアと市警の契約を承認しなかった出来事も、まさにこの流れの中で起きた。カーン市長は、契約の見直しを進める労働党の政治家だ。
個性の際立つ企業
パランティアと政府の契約が、欧州で政治問題として扱われる傾向があるのは、パランティアの個性の強さからだろう。創業者のひとりであるピーター・ティールは、ペイパルの創業者として知られる一方で、トランプ大統領の有力な支援者としても知られる。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
- 第395回 「メモリが高すぎる」米ユーザーらが半導体大手3社を提訴
- 第394回 米国AI依存の危うさ Fable禁輸で“ソブリンAI”注目集める
- 第393回 ノルウェー、小学校で生成AI禁止へ 学力低下で進む「脱デジタル」
- 第392回 3メガバンクがステーブルコイン、SBIと競争激化か
- 第391回 「有力なAIができたら事前に見せるように」トランプ氏が大統領令に署名
- 第390回 日本のユニコーンは8社どまり 政府目標「100社」への遠い道のり
- 第389回 米軍も使うAIシステム、日本導入へ? パランティアに政府が接近
- 第388回 米国の半導体規制緩和でも、中国がNVIDIAに飛びつかない理由
- 第387回 米国、海外製ルーター禁止 中国系TP-Linkに“異常なレベルの脆弱性”
- この連載の一覧へ


























