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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第101回

【JSTnews6月号掲載】イノベ見て歩き/2025年度「STI for SDGs」アワード 科学技術振興機構理事長賞「世界各地からリチウムを独自技術LiSMICで超高純度回収」

セラミックス膜を使った世界唯一の独自技術で超高純度リチウム回収、資源循環を目指す

2026年06月10日 12時00分更新

文● 本橋恵一 写真● 島本絵梨佳

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星野 毅。LiSTie株式会社 CEO/CTO。 

 社会実装につながる研究開発現場を紹介する「イノベ見て歩き」。第30回では、リチウムイオンのみを選択的に分離するセラミックス膜を開発し、超高純度分離・回収システムの商用化を目指すLiSTie株式会社CEO/CTOの星野毅氏を訪ねた。リチウムはスマートフォンや電気自動車などの蓄電池に使われる重要な金属だが、その精製にあたっては自然環境や労働環境への悪影響が懸念され、急増する需要に対する供給も課題となっている。

精製と回収に使える新技術
特殊イオン伝導膜がカギ

 都心からつくばエクスプレスで約30分。商業施設と住居、そして緑が心地よく同居する柏の葉キャンパス駅のほど近くに位置するLiSTie(リスティー)。同社では、高純度リチウムの分離・回収技術を開発している。リチウムイオン電池(LIB)は小さくても大量の電気を蓄えられ、現代社会には欠かせない。電気自動車などの普及拡大とともに、太陽発電で日中の電気を蓄える大型の蓄電池の需要も拡大することが見込まれる。さらに、そう遠くない将来に実用化が見込まれるフュージョンエネルギー(核融合)発電にも欠かせない。

 リチウム利用の問題はサプライチェーンにある。リチウム塩湖や鉱山は、チリやアルゼンチンをはじめ、中国など世界各地にある。しかし、リチウムの精製は、中国が独占している状況だ。「地政学的リスク以外にも課題があります。塩湖や鉱山から産出する炭酸リチウムを利用するには水酸化リチウムに精製する必要があります。この精製には大量のエネルギーが必要で、時間も薬剤も多く使われ、労働環境も懸念されています。より環境負荷の少ないリチウム精製の方法が求められているのです」と同社の星野毅CEO/CTOは話す。

 さらに今後は、LIBのリサイクルも拡大していく。星野さんは、廃棄電池などから不純物を取り除き、効率的に高純度のリチウムを回収する装置を開発し、リサイクルリチウムの販売を目指している。

 リチウムを回収する仕組みのカギは、セラミックスでできた特殊イオン伝導膜だ。リチウム、ランタン、チタンによるセラミックスの板を作る際、リチウムだけが少し不足するようにしておく。そうすると、リチウムが欠損している部分にリチウムだけが入り込み、反対側ではピストン式でリチウムが飛び出してくる(図1)。微細な穴が開いたフィルターを使用する方法と違い他の元素を通さないため、不純物の多いリチウム溶液から純度の高いリチウムを回収できるのだ。

 ただ最初は実用化するには透過速度が遅かったという。そのため、膜の面積を広くしたり、温度を変えたりとさまざまな方法を試した。打開策となったのは、セラミックス膜の表面に塩酸で吸着層を作ることだった。その結果、リチウムが入りやすくなり、透過速度は約100倍にまで上昇した。また、80度から90度程度で透過速度が最適化することもわかった。セラミックスの種類も1つではない。塩湖や鉱山由来のリチウム溶液からの精製に適したセラミックス膜だけではなく、使用済リチウムイオン電池由来の不純物が多い溶液からリチウムを回収するのに適したセラミックスもあるという。

図1 膜はセラミックス製で、陶器のような硬い手触りだ(左)。厚さ1ミリメートルにも満たず、リチウム以外の元素を通さず高純度のリチウムを分離できる(右)。

コンテナ型装置の実証を開始
世界各地の現場で運用を想定

 星野さんは量子科学技術研究開発機構(QST)で本技術を開発した。2019年にはJSTの大学発新産業創出プログラム(START)で実用化研究を実施。その後、2023年にQST 認定ベンチャーとしてLiSTieを起業した。当初は、海水から取り出したリチウムをフュージョンエネルギー発電の燃料にしたいと考えていた。「でもフュージョンエネルギーの実用化は早くても2030年代と少し先の話です。その一方で、電気自動車用に代表されるLIBの大型化が進み、早ければ2030年にはリチウムの需給バランスが崩れてしまうことが見込まれます。そこでもっと早い段階で自分の技術を社会に還元できないか、と思いLiSTieを立ち上げました」。社名の由来は、Lithium、Sustainable、Tie(結ぶ、つなぐ)で、自分たちの技術を次の世代につなぎたい、という思いを込めた。その後も研究開発を進め、現在は事業化可能性調査などを進めている。

 リチウムを回収する装置はLiSMIC(リスミック)(Li Separation Method by Ionic Conductor)ユニットと名付けた。運用に当たっては、コンテナ型を想定している(図2)。40フィートコンテナ(幅・高さ約2メートル、長さ約12メートル)に相当する形状であれば輸送しやすく設置も容易だ。塩湖などリチウムの採掘現場に持って行き、そのまま使用することを想定している。

 製品化に向け、まずはベンチサイズのユニットを作り、2026年5月からベンチ実証を開始した(図3)。その結果を基に、コンテナのハーフサイズのユニットを製造し、2028年には本格的な商業化を目指す。「日本のリサイクル事業者向けであれば、1ユニットで対応できるでしょう。しかしチリの塩湖でリチウムを精製するとしたら、400台くらいが必要になります。そのためには大手企業との連携が必要になります」。実際に、2025年度の「STI for SDGs」アワードの受賞が契機となって大手企業との事業連携の計画がスタートしたという。

図2 一般的に流通しているコンテナと同じ40フィートサイズ内に、多数のセラミックス膜を装着した分離装置が収められている。運搬した後、そのまま現地で運用できる設計だ。

図3 ベンチ実証に使うユニットの内部。真ん中にある白い箱の中に5センチメートル角ほどのセラミックス膜がセットされている。この膜の左から原液を流して精製する。

核融合発電に不可欠な同位体
エネルギー問題解決の未来へ

 LiSTieは2030年の株式公開を目指している。その頃には、現在使われている電気自動車の廃車が増えるという見通しがあり、LiSMICユニットの世界需要も急増していくだろうと星野さんは見込む。さらに、当初の目標だった核融合向けのリチウム精製も見据えているという。

 核融合を起こすのは水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウム)で、このうち三重水素は、核融合炉内で生じる中性子とリチウム6が反応してできる。海水中に含まれるリチウムのうち、92.4パーセントはリチウム7という同位体で、リチウム6はわずか7.6パーセントしか含まれていない。「リチウム6はリチウム7よりもわずかにセラミックスを透過しやすいのです。セラミックスを直列に並べて次々と透過させれば、だんだんリチウム6の割合が増えていき90パーセントまで高められます。我々の技術が、核融合に必要な資源の供給に役立つと考えています」。

 フュージョンエネルギーが実用化され、エネルギー問題が解決する未来を思い描きながら、自分の技術で世の中を変えることを目指し、星野さんは動き出している。

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