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Red Hat Summit 2026 現地レポート 第3回

「Red Hat AI 3.4」を発表したRed Hatのプラットフォーム戦略とその立ち位置

AIの進化にオープンソースは追随できるのか ―― Red Hat APAC担当CTOに聞く

2026年06月29日 09時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 Red Hatは、2026年5月、米アトランタで開催した「Red Hat Summit 2026」で、「メタルからエージェントまで」を掲げるAIプラットフォーム戦略を打ち出し、同戦略の中核となる「Red Hat AI 3.4」などを発表した。

 OpenAIやAnthropicといったプロプライエタリ勢の話題が先行するAI業界において、オープンソースを軸とするRed Hatはどのような立ち位置を描いているのか。同イベントの会場で、APAC担当CTOであるVincent Caldeira(ヴィンセント・カルデイラ)氏に話を聞いた。

 なお同氏は、金融テクノロジー分野で20年以上のキャリアを持ち、現在はLinux Foundation傘下の各財団やAgentic AI Foundation(AAIF)など、AIエージェントの標準化に関わるオープンソースコミュニティの議論にも深く関与している。

Red Hat APAC担当CTO ヴィンセント・カルデイラ(Vincent Caldeira)氏

AIにおいてもオープンソースは“最も持続可能なイノベーションモデル”

── まずは、Red HatのAI戦略の核心について教えてください。

 Red Hatはオープンソース企業であり、AI戦略の中心にあるのもあくまでオープンソース技術だ。この技術を軸に、アクセラレータ(GPU)やデータ、モデルといった重要リソースを統合管理できるプラットフォームをエンタープライズ向けに提供する。

 NVIDIAが提唱するAIの「5層モデル(電力・チップ・インフラ・モデル・アプリ)」に準えれば、Red Hatは「インフラ管理」と「アプリケーション構築」という2つの層に注力している。最良のオープンソース技術をキュレーションし、単一のエンタープライズプラットフォームとして顧客やパートナーに展開するのが我々のアプローチだ。

── AI分野においてオープンソースコミュニティはどのように機能しているのでしょうか。

 AIで使われるコンポーネントの多くは、Linux Foundation傘下のいずれかの団体により統治されている。例えば、分散コンピュートやアクセラレータ向けカーネル開発の基盤を担うのが「PyTorch Foundation」だ。彼らが管理する深層学習のライブラリ「PyTorch」こそがAIにおけるLinuxだと考えている。

 Kubernetesによるオーケストレーションの領域を主導するのが「Cloud Native Computing Foundation(CNCF)」であり、AIワークロードへの対応をここ2年で急速に進めている。

 さらに、2025年末に発足したのはエージェンティックAIの標準化を進める「Agentic AI Foundation(AAIF)」だ。Red Hatはゴールドメンバーとして参加しており、私自身もガバナンス領域でアイデンティティ管理やセキュリティについて議論している。

── 合意形成を重視するオープンソースの開発スピードは、急速に進化するAIに追いついているのでしょうか。

 プロプライエタリモデルは、資金力に物を言わせれば開発スピード自体は速い。数十億ドル規模の資金を投じて最高のデータサイエンティストを囲い込む、OpenAIやAnthropicがその例だ。しかし、そうしたモデルはユーザーから見れば「ブラックボックス」であり、ユーザーが最適化を図る手段が限られる。

 さらに、プロプライエタリベンダーの収益はトークン量などに比例するため、ユーザーの利用を最適化するインセンティブが乏しく、むしろ多く使わせたいという力学が働きやすいのが実情だ。

 一方、オープンソースコミュニティは異なる仕組みで動いている。最適化されていない提案を進めようとすれば、コミュニティが「それはオープンではない」「その方向性には協力できない」と反応し、ブレーキがかかる。

 ここで重要なのは「速さ」の定義だ。本来、実験段階のスピードではなく、本番ワークロードで安全にスケールできるまでのスピードで測るべきだ。コストが高すぎる、リスクが高い、透明性がないといった理由でスケールできないなら、それは本当に「速かった」とは言えない。

 オープンソースコミュニティが標準化に時間をかけるのは、コストやセキュリティ、スケーラビリティといった複雑な課題について、解決できると確信できるまで議論を重ねるためだ。その意味で、オープンソースは依然として“最も持続可能なイノベーションモデル”だと考えている。

── プロプライエタリモデルと比べてのオープンソースモデルの位置づけはどこにあります?

 2年前まではベンチマーク上でも見劣りしていたが、状況は大きく変わっている。2025年後半のLinux Foundation Researchの調査では、オープンモデルの性能は最先端モデルから約3カ月遅れる一方で、コストを90%削減できることが示された。

 実際、エージェントの構築で最も使用されるモデルのひとつは、Alibabaのオープンモデル「Qwen」だ。金融やヘルスケアなど、規制の厳しい業界でも広く採用されている。多くの企業では、オープンなベースモデルを自社データでチューニングする方が、特定用途では性能を発揮することを知っている。

── AIエージェントの標準化はどのように進んでいますか。

 「MCP(Model Context Protocol)」はもともとAnthropicが提供したものだが、現在はオープン標準としてAAIFの主要プロジェクトのひとつとなっている。私自身はゲートウェイのワーキンググループに参加し、アプリケーションとツール間のネットワーキングやトラフィック管理を担うAIゲートウェイの標準化に携わっている。さらに、もうひとつの重要な標準として、エージェント間の相互運用を定める「A2A(Agent2Agent)」もある。

 これらの標準を実装するオープンソース製品として、「Kagenti(コードネーム)」が公開されている。SPIFFE/SPIREによるアイデンティティ管理やA2Aを実装しており、開発者が複雑な標準を自前で実装する必要がなくなる。CNCFにも同様の課題に取り組む競合プロジェクトも存在するが、同じ標準に基づいているため、時間とともに収斂していくだろう。これもオープンソースの強みだ。

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