科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第102回
【JSTnews6月号掲載】戦略的創造研究推進事業CREST 研究課題「腸-脳機能コネクトミクスによる腸内感覚の機能解明と操作」/創発的研究支援事業 研究課題「ライブ透明化法を用いた大規模イメージング技術基盤の構築」
生きた哺乳類の生体組織を透明化する試薬を開発
2026年06月11日 12時00分更新
哺乳類の生体組織を生きたまま、機能を損なうことなく深部を観察することは、生命科学分野における長年の課題であり、多くの研究者の夢でした。近年、生体組織を透明化する試薬が作られ、深部まで観察できるようになりましたが、毒性が強いためホルマリンなどで固定した死後の組織標本にしか使えず、生きた哺乳類組織には適用できませんでした。
九州大学大学院医学研究院の稲垣成矩助教、今井猛主幹教授らの研究チームは、生きた組織が不透明に見える主な原因が、細胞の内外で光が屈折・散乱するためであると考え、生きた培養細胞をさまざまな屈折率の液体に浸して光の透過しやすさを観察。その結果、細胞外液の屈折率を1.36~1.37にすると生きた細胞が最も透明に見えることを見いだしました。次に、血液中に含まれるたんぱく質の一種であるアルブミンの水溶液を使えば、細胞機能を損なわずにこの屈折率を実現できることを発見。アルブミンを溶かして屈折率を調整した培地を用いて生きたマウスの脳で実験したところ、通常では難しかった大脳皮質の深部(深さ495マイクロメートル、マイクロは100万分の1)においても神経細胞の微細構造や神経活動を観察できました。生きたマウス脳の透明化を4カ月以上にわたって繰り返し行っても、脳内の炎症や行動異常が見られなかったことから、脳の正常な機能を損なわないことがわかりました。
この成果は、これまで困難だった組織深部における生体機能の計測を可能にするものです。神経科学や発生生物学の発展に広く寄与することが見込まれます。
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