科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第104回
【JSTnews6月号掲載】創発的研究支援事業 研究課題「着床期胚浸潤に着目した妊娠成立機構の解明」
子宮内での胚の着床の分子機構を解明、不妊治療の発展に期待
2026年06月15日 12時00分更新
不妊症は世界の成人人口の約6人に1人が直面する問題です。近年の生殖補助医療の進歩にもかかわらず、良好胚を繰り返し胚移植しても妊娠しない着床不全は不妊治療の最大の課題となっています。子宮内に入ってきた胚が子宮内膜と結合する着床時に、多段階の精密な制御が行われていると考えられますが、その多くはまだ解明されていません。
筑波大学生存ダイナミクス研究センターの藍川志津准教授らの研究チームは、胚が子宮内膜に着床して生育し、胎盤が形成される際にどのような分子機構が働いているかを探りました。同チームは以前の研究で、低酸素環境下で活性化して遺伝子の発現を調節するたんぱく質「Hif2α」が着床時の胚の浸潤に重要な役割を果たすことを突き止めましたが、その仕組みはよくわかっていませんでした。今回は、胚が浸潤した子宮内膜上においてどの場所でどの遺伝子が発現しているか網羅的に解析し、Hif2αが着床期に胚接着部位周辺の子宮内膜から分泌される酵素「Lysyl oxidase(Lox)」の分泌を促して子宮内膜のコラーゲン構造を再編成することを発見。Lox欠損マウスでは、胚の浸潤不全や胎盤形成異常で流産や胎仔発育不全が起こることを実証しました。
ヒトにおいては胚栄養膜細胞自身が低酸素状態においてLoxを高発現することが培養細胞実験で報告されており、今回得られた知見は、ヒトの着床不全と関連している可能性があります。不妊症や妊娠高血圧症の病因・病態の解明につながることが期待されます。
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