科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第106回
【JSTnews6月号掲載】さきがける科学人/国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業(BOOST)次世代AI人材育成プログラム(若手研究者支援)「日本語が表現する文化的側面の理解と計算のための自然言語処理」
ファンタジーの魔法使いのような人工知能に夢を見た。日本語のニュアンスを捉える自然言語処理を研究
2026年06月17日 12時00分更新
赤間怜奈。東北大学 言語AI研究センター 准教授/国立国語研究所 次世代言語科学研究センター 准教授。宮城県出身。2021年東北大学大学院情報科学研究科博士後期課程短縮修了。日本学術振興会特別研究員(DC1)、東北大学データ駆動科学・AI教育研究センター助教などを経て、21年より理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員、25年より国立国語研究所次世代言語科学研究センター助教(クロスアポイントメント)、26年より現職。25年よりBOOST(若手研究者支援)研究代表者。
Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 一緒に働いてみたい人がいた
小学生の頃に読んだ、はやみねかおるさんの「怪盗クイーン」シリーズに登場する人工知能が印象に残り、この分野への興味の出発点となりました。さらに「愛・地球博」で、楽器を演奏したり道案内をしたりするロボットが「人工知能」として展示されているのを見て、その存在が現実のものだと実感しました。
修士課程を修了したら就職するつもりでしたが、投稿論文が自然言語処理分野のトップ国際会議に採択され、思いがけないうれしさに気持ちが大きく動きました。「博士課程に進んだら、こういう喜びが続くかもしれない」という予感を胸に進学を決めました。
博士号取得後には、学生時代から書籍や論文を通して密かに憧れていた研究者の下で働く機会が訪れました。研究者になりたかったというよりも、その先生と一緒に働きたくて就職した結果、研究者になっていたというのが実感です。
Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 日本語のニュアンスと世界観の表現
現在は、日本語が表現する文化的側面の理解と生成をテーマにした自然言語処理の研究に取り組んでいます。私が研究を始めた頃の対話モデルは、内容は正しくても会話を続けるうちに突然「人格」が変わったり、文体の一貫性がなかったりして違和感を覚えていました。同じ内容であっても、言い方1つで相手に与える印象は大きく変わります。相手との関係性や場面に応じた細やかな言葉の使い分けは、日本語話者にとっては自然な営みですが、コンピューターにとっては簡単ではありません。この課題に正面から向き合い、言葉の使い分けに宿る繊細なニュアンスを正確に捉える言語理解技術と、日本語特有の世界観を表現する文生成技術の実現に向けて研究を進めています。
自然言語処理の分野は英語中心の研究開発が進みやすい傾向にあります。日本語話者が直感的に理解しやすく、安心して使えるAIを提供するためには、日本語研究の専門家と共に取り組むことが不可欠だと考えています。そこで現在は、日本語研究の専門機関である国立国語研究所にも籍を置いています。目指しているのは、正確に伝わるだけでなく、使うほどに日本語の豊かさを感じられるAIです。
Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 自分を知り、多くの世界に触れて
進路やキャリアを選ぶにあたって大切なのは「自分をよく知ること」です。どんな性格で、どんな条件がそろえば力を発揮できるのか、どんな環境で学ぶのが向いているのか。さまざまな経験を通して自分への解像度を高めることが、納得できる選択につながります。
研究は挑戦と失敗の繰り返しで、うまくいかないこともありますが、自然言語処理の分野は研究が社会に還元されるスピードが速く、検索や翻訳、カスタマーサポートのAIなど身近な場面で実感できます。「この問題を解いたら社会は良くなる」という手応えが支えになります。苦労して書いた論文の採択や学生の受賞など、日々の小さな成功を仲間と分かち合えることも大きなやりがいです。
世の中には多くの学問があります。できるだけ多くの世界に触れて、その中から本当に面白いと思えるものを自分に合った方法で見つけてください。自分らしい選択をした場所で生き生きと活躍されることを願っています。その場所が自然言語処理の分野であれば、とてもうれしく思います。
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