企業のデータ活用リードタイムを劇的に減らす分析アプリ生成ツール「Morph」
DX推進の中で、データを分析するためのシステム導入・運用には大きな負担がある。また、データエンジニアの工数は慢性的に不足しており、十分なデータ活用は難しい。そのような課題に向け、法人向けソフトウェアサービスを展開するのが株式会社Queueだ。同社はビジネスにおけるデータ分析の高度化への解決策として、生成AIを活用した分析とアプリ構築が容易に準備できるツール「Morph」をこの10月にリリースした。株式会社Queue 創業者兼CEOの柴田直人氏に「Morph」の概要と開発の背景を伺った。
複雑化したビジネス現場のデータ活用を解決させる解の1つ
業務効率化を目的に複数のSaaSを導入する企業が増えている。しかし、DXを進めたい現場では各種SaaSから必要なデータを取り出し、加工、分析しなければならない場面がまま見られる。特にスタートアップや中小企業では複数のSaaSは統合されておらず、欲しいデータを得るために少なくない時間が奪われているのが現状だ。
また一方で、大企業は自社が持つ大量のデータを収集して解析し、マーケティングや戦略立案に役立てようとしている。だが、ビジネスチーム側が使いたいデータをすぐに引っ張り出せるようにするには、エンジニアチームにデータ分析の負担がかかり、既存のデータ分析やBIツールが十全に生かされているとは言い難い。
これらの課題に対処するために作られたサービスが「Morph」だ。「データアプリケーション構築をサポートするデータワークスペース」と銘打って10月31日にパブリックローンチされ、グローバルでの提供が始まっている。
LLM(ChatGPT)を利用したプロンプトからノーコードで各種SaaSからデータを抽出し、集計やチャートを作成するようなコーディング支援に加えて、SQL、Python、マークダウン、Reactを用いたリッチなデータアプリケーション構築が可能となった。
ビジネスチーム側からの要望に対して、エンジニアやデータサイエンティストが簡単にデータアプリケーションを構築できるのが最大の特徴だ。
このような進化の背景には、パブリックベータ版での学びがあったと柴田氏は語る。「AIによるコード生成が注目されており、企業内でのデータ活用の動きもある。だが、そういった背景のもとでの実稼働では新たな課題が見えた」という。
2023年のローンチ当初はビジネス部門が自らの工数からデータを活用する未来を考えていたが、現状の環境はそれを許容していない。例えば、エンジニアのみにしかできなかったデータ分析を生成AIを使って行う場合、「プロンプト自体が書けないユーザーへの対処」が必要であり、さらにはそこからコードを出力できたとしても、「AIによって書かれたコードの正誤判断ができない」ため、結局のところそれらの負荷はエンジニアへ戻ってきてしまう。
ビジネスの現場で求められるデータ活用は高度化が進んでいる。単純な機能では物足りないが、複雑化したダッシュボードは簡単に使いこなせない。そこをつなぐためのデータアプリケーションが求められており、既存ツールでは対処できない実態をMorphは解決しようとしている。
工数を2割削減して本来の業務へ注力
柴田氏いわく、いま最も注力をしているのは、BigQueryのような企業のデータが貯められる場所での活用だ。エンタープライズ企業の場合、ビジネス部門にとってほしいデータはすぐに手に入らないのが常だ。
エンジニア側は社内からの多数のデータリクエストに困っており、ビジネス側はリアルタイムにデータがほしくても、依頼してからのリードタイムに不満があるという。データサイエンティストは希少であり、人材が足りている企業は存在しない。
また企業のデータをためる技術基盤はそろってきたが、アクセス管理やインターフェースの作成については難易度が高いのが現状だ。データエンジニアの工数が基盤構築で埋まっている場合、そのデータへのAI適用やアプリ化は誰がやるのか。「エンジニアが簡単にアプリを構築でき、かつビジネス部門がすぐに使える場所があるといいのでは」という発想がいまのMorphの中央を占めている。
目に見える成果としては、データサイエンティストがビジネスコンサルも実施するシーンで、財務レポートの工数が2割ほど削減されたそうだ。従来はアプリケーションエンジニアの手を借りていたダッシュボードやUI、データ自体の調整をMorphに任せられるため、データサイエンティストに求められる「機械学習のモデル作成」に注力できたという。
「誰かがやらなければならない」仕事はAI導入やDXが進んでもまだまだ残っている
当初のMorphは、オールインワンのデザインプラットフォームであるFigmaのデータ版を目指していたというが、そこには壁があったようだ。データ分析をするには、データを抽出・変換し、データベースを構築し、ダッシュボードを作らなければならない。専門の知識がない人でも、データを一瞬で可視化できるようにするには、生成AIだけではまだ足りないようだ。
Morphが既存のBIツールと異なる点としては、ビジネスサイドも含めた「こういうUIにしたい」というニーズがわかることだという。ビジュアル化を重視したReactへの拡張などもコードを意識せずタグのみでできるため、分析にとどまらない表現が可能となっている。また分析結果をPythonで可視化し、さらに動的なアプリにすることで、継続的にチームで利用もできるという。
まさに社内をつなぐ機能となっており、導入した企業では、データ分析の活用が以前よりなめらかになったと評価されていると柴田氏は語る。
今回の日本は先行リリースであるが、海外も含めて同時展開を進めており、新機能リリースもサンフランシスコでのイベント出展に合わせている。生成AIの登場から、データ分析へと活用し進める各種ツールは、ライバルも多い領域となっているが、日本発のITツールとして、海外も含めた好事例となることを期待したい。