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マレーシアの食を変えた日本発スタートアップが躍進。廃棄率2%の産直フルフィルメントをゼロから構築

農家からレストランに新鮮野菜を届ける産直ECプラットフォーム「SECAI MARCHE」

連載
このスタートアップに聞きたい

 東南アジアの急成長するEC市場において、特に生鮮食品の流通システムは大きな課題として残っている。物流インフラが整っていないため廃棄率が高く、市場に出回る農産物の質も低い。そんな中、日本・マレーシア・シンガポールに拠点を持つ株式会社SECAI MARCHEは、ゼロからECと連携したフルフィルメントシステムを開発。生産者と消費者を直接つなぐプラットフォームを提供し、急激な成長をとげている。生産者は物流費の負担なく、都市部の飲食店へ販路を広げることができ、売上も大幅に向上させ、新たなエコシステムが現地で形成されている。日本発の海外展開スタートアップとして展開する同社の共同代表である早川 周作氏と杉山 亜美氏に話を聞いた。

株式会社SECAI MARCHEの共同代表を務める早川 周作氏(左)と杉山 亜美氏(右) (画像:SECAI MARCHE)

東南アジアの農産物直販ECを実現するため、フルフィルメント・システムをゼロから構築

 東南アジアのEC市場は急成長しており、2025年には日本のEC市場と同等の約25兆円規模になると言われている。特に食品の成長率が高く、さらなる成長が期待されているなか、課題となるのが生鮮食品の物流システムの遅れだ。

 マレーシアでは、生鮮食品を市場に届ける冷蔵冷凍トラックや冷蔵倉庫といった設備が十分に整っておらず、農家が収穫した野菜は、むき出しのトラックで運ばれるのが一般的だ。温度管理されていないトラックでの長距離輸送で野菜は傷み、産地から消費地まででの廃棄率は50%にも上るという。

(画像:SECAI MARCHE)

 都市部のホテルやレストランでは、経済成長にともなって珍しい郷土野菜やハーブなどのニーズはあるものの、日本のクール便のようなサービスもないため、農家からの産直を届けるプレーヤーも存在しなかった。

 そのような東南アジアの環境下で、ゼロから産直プラットフォーム事業を展開しているのが日本とシンガポール、マレーシアで事業を展開するSECAI MARCHEだ。生産者と消費者をダイレクトにつなぐことで双方のビジネスチャンスを創出するプラットフォームによって、情報と物流を集約できれば、商品はもっとスムーズに流れる。Amazonの隆盛以降、国内外も含めてそのようなプラットフォーム事業展開を耳にすることは多いが、言うは易く行うは難い。

 SECAI MARCHEは、生産農家から飲食店へ農産物を届ける農産物直販サービスとして、すでに受発注や決済といったECシステムだけでなく、集荷や検品、梱包、配送といったフルフィルメントサービスまで提供している。

 生産者と飲食店は双方ともに利用料は無料で、生産者が値付けした商品代に商流マージンとして20~30%を上乗せしたぶんを収益とするビジネスモデル。農家にとって出荷の手間や費用の負担なく、都市部への販路を拡大して収入を増やせることもあり、目下高い成長を続けている。マレーシア、日本、シンガポールで事業を展開し、サービスを利用する生産者の売り上げは2倍から4倍へ伸びているそうだ。

自社開発の物流システムで配送コスト4.8%、廃棄率2%を実現

 同社の創業は2018年で、サービス展開のスタートは2019年にさかのぼる。まずは「SECAI MARCHE」のECシステムをリリースし、翌2020年には受注や在庫、出荷までを一括管理するフルフィルメントサービスの提供を開始した。当初は、配送などを外部事業者に委託していたが、品質の維持とコストの両面を鑑み、自社でゼロから物流システムを構築することになったという。

(画像:SECAI MARCHE)

「ちょうどコロナ禍で飲食店が営業停止していたので、その2年間で倉庫や物流におけるシステムへの開発に費やせました。コロナ明けにBeyond Next Ventures、楽天ベンチャーズからの資金調達を得て、倉庫や配送トラックなども含めたフルフィルメント機能を強化しています」と早川氏。

 日本国内にも同様の産直ECサービスは多くあるが、いずれも既存の宅配業者を利用している。自社でフルフィルメントサービスを提供するメリットは、配送と廃棄のコストを抑えられることだそう。SECAI MARCHEでは、4000品目と多品目を扱っているが、主要な生産地に集荷センターを設置して効率的に集配送することで、配送コストは売上比に対して4.8%と食品を扱わないB2Bの大手Eコマース並みに抑えられているという。

「例えば、日本で価格1000円程度の野菜1箱を産地から直接クール便で送ると1400円ほどの配送料がかかりますが、弊社の場合、配送コストは4.8%で約48円と圧倒的に安く運べます」(早川氏)

(画像:SECAI MARCHE)

 既存のECサイトとの違いとしては、マーケットプレイスとして商品を購入させその手数料でビジネスをするのではなく、生産者の商品を全量で買い取り、運びきって商品の20~30%のマージンを乗せて販売し、現金回収までを一貫している点だ。

 そのため、すべての商品の生産地から消費者までの流通がリアルタイムに把握できている。需要と供給バランスを最適化して廃棄率を最小化でき、収益性が高いのも同社の強みだ。積み上げたデータとAIを用いて消費者であるホテルやレストランの需要を予測し、生産者への発注・配送することで在庫を減らし、廃棄率を2%まで削減している。

(画像:SECAI MARCHE)

 杉山氏は「大手の物流はすでにサービスが完成されており、現地に当てはめるのは難しい。我々は現地の潜在的な課題を拾いながらフルフィルメントのシステムをゼロから作っていった。これはスタートアップだからこそできたことです」と話す。

 すでに1500件のホテルやレストランが利用しており(2024年9月時点)、2019年のシステムリリースから4年間で売上高は10倍に拡大。3年後には売上100億円超の達成と日本国内でのIPOを目指している。

 マレーシアではすでに産直ECサービスとしての高い認知を確立している。現地の物流業者から冷蔵トラックを貸し出したい、といった声がかかるほどだ。さらなる市場拡大に向けて、既存の10倍規模となる大手企業レベルの大型倉庫に移転する予定だという。

誰も手を付けていない領域。ゼロからシステムを開発すれば、必ずナンバーワンになれると思っていた

 早川氏は、日本、香港、タイ、米国で農業生産法人の経営し、生産管理システムの開発や海外直販の経験をもつ。杉山氏は、過去にマレーシアで起業し、日本茶の輸出入事業と日本茶カフェを経営したことがあり、SECAI MARCHEには、2人の生産、流通、販売の経験が活かされている。

 早川氏は、「既存のやり方では大変で儲からないビジネスだから、今まで誰も手を付けていなかった。我々はゼロベースでシステム要件をまとめるところから作りこめたのがよかったのかもしれません。市場は大きいので、システムさえできあがれば、必ずナンバーワンになれると思っていました」と話す。

 両者ともに東南アジアでの事業経験があったとはいえ、よそ者の日本人が生活の基盤となる食や物流に切り込むのは相当な苦労があっただろう。どのように信頼関係を築き、認知を広めていったのか。

「キープレーヤーを仲間に入れるところから始めました。当社のフルフィルメントを使っていただくため、主要な生産者や新しい手法への抵抗がない若い生産者を味方につけて、消費者側についても大手のホテルやレストランから仲間になってもらいました。幸いマレーシアは親日国なので、日本人の話にはとりあえず耳を傾けてくれます。影響力のある方々に足しげく通いながら、口コミで仲間を増やしていくことに意識して取り組みました」(杉山氏)

 最初のうちは農家の収穫を手伝ったり、収穫袋を担いで1件ずつレストランに売り歩くこともあったという。

 現在は、認知拡大に向けて高級ホテルやレストラン向けのイベントを定期開催しており、その活動がメディアに取り上げられて、マレーシア国内での知名度は上がってきているそうだ。

 事業拠点は、東京、マレーシア・クアラルンプール、シンガポールの3つ。市場はマレーシアがメインだが、日本の生産物も取り扱っている。早川氏と杉山氏は両者とも過去に日本の食を海外に販売するビジネスでの起業経験があり、今も日本食を世界へ広めたいという思いは強い。

 杉山氏は、「日本産の農産物は売り方次第でもっと売れると考えています。東南アジアでは日本の食材は専門の売り場に置かれ、高額で特定の人しか買わないものと思われています。SECAI MARCHEで、日本産もマレーシア産と同じように買えるようになれば、生活の中に溶け込める商材になりうる」と話す。

 サービス開始から5年がたち、以前は日本産にまったく興味がなかったシェフが日本産の商品を積極的に買うようになるなど、消費者行動も大きく変化しているそうだ。

 一方で生産者側に対しては、市場の需要予測をフィードバックすることで、売れ筋の野菜を計画的に生産するように農家のマインドも変わってきているという。買取価格は農家が決めているフェアなトレードであり、既存の流通チャネルに加えることで関係する生産者収益も大幅にアップし、新たな設備投資に回るサイクルも出始めているという。

 都市側の購入するホテルやレストラン側としては、付加価値が高い商品であり、圧倒的に品質がよく、既存流通価格より安いため、買わない理由がないと早川氏は強調する。

 同社の起業のきっかけには、農業法人を経営する中で価格の決定権がないため、弱い立場に置かれている生産者への考えがある。

「農家が儲からない今の仕組みを変えたい。生産者に支払われる対価を流通事業者が決めるのはフェアじゃない。消費者と生産者のダイレクトなフェア流通をつくることがミッションです」と早川氏。杉山氏は、「今はBtoBですが、今後はBtoCにも展開する計画です。消費者の選択肢が広がり、生産者も安定的に稼げる世界を創造したいです」と将来を展望する。

 直近の目標は、マレーシア・クアラルンプールの生鮮食品流通シェアを現状の10%から50%以上に拡大し、メインのプレーヤーとなること。10月には、システムを他社にライセンスし、タイでの事業を開始する見込みだ。その先は、東南アジア諸国や南米など生鮮流通が不十分な地域から市場シェアを押さえ、世界全域へ拡大していく計画だそう。

 海外の料理動画を見ながら、現地ならでは材料をポチっと注文して、世界のこだわり食材がすぐに自宅に届く――そんな世界が近いうちにやってきそうだ。

(画像:SECAI MARCHE)

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