縦型ショート動画や衛生データを用いた不動産業務DX、犯罪予測システムなど多彩なスタートアップが登壇
B Dash Camp 2024 Spring in Sapporo「Pitch Arena Final Round」レポート
2024年5月22日から24日、業界最大級の招待制カンファレンス「B Dash Camp 2024 Spring in Sapporo」が札幌市内で開催された。最終日の24日にはスタートアップピッチ「Pitch Arena Final Round(決勝)」が行われ、2日目に15社が出場した「First Round(予選)」を通過した6社が登壇した。
今回の決勝では企業の課題解決や業務DXを図るSaaSなどに加え、グローバルな展開を見据えた犯罪予測システムのほか、広がりを見せる縦型ショート動画といった多様なソリューションを展開するスタートアップが注目を集めた。結果は以下の通り。
優勝 株式会社Singular Perturbations
準優勝 emole株式会社
野村賞 株式会社Singular Perturbations
ノバセル賞 株式会社Smart Craft
AGS賞 株式会社Penetrator
パーソル賞 emole株式会社
UPSIDER賞 株式会社GOKKO
以下、各社のピッチの模様を紹介する。
警備支援ソリューション「CRIME NABI」を開発する株式会社Singular Perturbationsが優勝
「Pitch Arena Final」で優勝し、野村賞も受賞したのは犯罪を減らす警備支援ソリューション「CRIME NABI」を開発するSingular Perturbationsだ。
「CRIME NABI」は、犯罪予測AIを用いた警備計画の策定、管理、評価を効率化する警備支援ソリューションだ。過去の犯罪統計や人口統計、衛星画像などのデータを基に独自のアルゴリズムで起こりうる犯罪を予測し、パトロールの経路などの計画を立てて実行支援することで犯罪対策を行うというもの。
ブラジルにおける複数の州軍警察や市警団などでの導入で効果が認められ、中南米地域を中心とした11の政府機関で採用されているという。同社は今後、サイバークライムやAIリスクに対応するセキュリティ基盤技術をシステムに連携させることで、複雑化する犯罪への対策を強化していきたいとする。授賞式で代表取締役CEOの梶田氏は「技術をさらに磨いて、多くの人を幸せにしていきたい」と語った。
話課金型ショートドラマ配信アプリ「BUMP」を提供するemole株式会社が準優勝
準優勝を勝ち取り、パーソル賞も受賞したのはショートドラマ配信アプリ「BUMP」を提供するemoleだ。2022年12月にこのアプリをリリースし、日本で「ゼロからこの市場を切り開いてきた」と語る代表取締役の澤村氏は、2020年に中国で誕生し急成長したショートドラマ市場について、これから日本でも急速に拡大すると力を込める。
「BUMP」は1話3分のショートドラマ配信アプリで、漫画アプリと同様に話課金型の料金体系を採用している。また、作品へのコメントやSNSシェア機能など、視聴者が感想を共有しやすい仕組みも備えているという。
リリースから1年4カ月で110万ダウンロードを突破、SNSでの切り抜き動画などの総再生数は10億回を超えているとのこと。今後について澤村氏は、「グローバルにサービスを展開しながら、クリエイターに挑戦の機会を提供していきたい」と語った。
製造業をDXする情報管理クラウド「Smart Craft」を展開、株式会社Smart Craft
Smart Craftは、製造現場の業務プロセス情報をデジタル化し、一元管理するクラウドサービス「Smart Craft」を展開している。
同社代表取締役の浮部史也氏は、製造業は日本の基幹産業である一方で現場はアナログかつ属人的な業務が多く残っているとし、DX推進による業務効率化が求められていると指摘。「Smart Craft」はモバイル端末やIoTデバイスの活用によって、製造データの収集から分析までをワンストップで実現するという。生産計画の立案や進捗確認、実績データをクラウド上で一元管理することで、日常業務の効率化や現場の問題把握、改善を促す。
大手企業での導入が続き、有償トライアルからの正式採用率100%を誇るという。浮部氏は今後の展望について「製造現場の生産データを一元化したデータ基盤を構築し、AI活用による生産の効率化や収益改善にコミットしていきたい」と語った。
衛星データとAIで不動産用地を探索する「WHERE」を提供、株式会社Penetrator
Penetratorは、衛星データとAIを活用して企業が求める不動産用地を探す「WHERE」を提供している。かつて不動産業界で営業職に従事していたという阿久津氏。同業界には取引可能物件とその地権者を探す「物上げ(ぶつあげ)」という業務があるのだが、現地に行って物件を探し個々の地権者情報を調べたり、人づてに地権者を紹介したりしてもらったりと、いまでもアナログな手法に頼っており、非常に手間が掛かっているという。
「WHERE」は、衛星データから画像解析AIで不動産をピックアップし、法務局の登記データと連携することで、地権者情報を特定するシステムだ。希望エリアと物件種別を指定するだけで、指定した物件の地権者情報を取得できる。
同社はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の知的財産やJAXAの業務で得た知見を利用した事業を行い、JAXA所定の審査を経て認定された「JAXAベンチャー」だ。月面の衛星データからAIでクレーターを解析するというJAXAの技術を、地球の不動産探索に応用しているという。阿久津氏は「衛星データを使っているため世界中の不動産もすでに探索可能」としたうえで、「今後は世界の不動産市場を狙いたい」と語った。
縦型ショートドラマのクリエイター集団「ごっこ倶楽部」運営、株式会社GOKKO
GOKKOは、人間関係から生まれるさまざまな「愛」を主題とした縦型ショートドラマのクリエイター集団「ごっこ倶楽部」を運営している。 中国発の縦型ショート動画ブームは北米やイギリス、オーストラリアにも広がり、日本国内でもZ世代を中心に支持を集めているという。
同社代表取締役の多田氏は「ごっこ倶楽部」の強みを、脚本から撮影、編集、視聴データの分析まですべてのプロセスを内製化している点、と紹介。また、スマートフォンの縦型に特化した制作ノウハウとSNSマーケティングを駆使して、作品を拡散することも得意だとした。
同社が制作した作品は口コミで拡散され、これまでに投稿した動画の累計再生数は27億回を突破、SNSの総フォロワー数は270万人を超えるという。多田氏は「今後も日本の縦型ショートドラマ界をリードし、役者とクリエイターの未来を開拓しながら海外展開を目指したい」と語った。
採用一次面接を効率化する「OSUMITSUKI」を展開、PortRay株式会社
PortRayは企業の採用1次面接を効率化し、企業と求職者の双方の負担軽減を図る面接サービス「OSUMITSUKI」を展開している。
同社代表取締役の鹿野氏は企業における面接試験の非効率性を指摘。国内では企業の1次面接試験が年間約3000万回行われているが、その7割が採用基準に満たない応募者を見極めるために実施されているという。
「OSUMITSUKI」は、転職希望者に対して共通の評価指標による面接とスコアリングを実施し、受験者の経験やスキルを判定する。受験者には面接結果として2次面接以降に進める企業を紹介。企業にとってみれば一定基準をクリアした応募者のみに絞ることができる。これにより転職希望者と企業の負担を軽減するとしている。
また鹿野氏は、多くの企業で面接評価のナレッジが共有されておらず「面接がうまく行えていない」との課題もあることを指摘。そこで「OSUMITSUKI」で共通の評価指標を作成したのだという。「サービス運用により蓄積したデータやノウハウを生かし、転職以外の市場にもサービスを拡大させたい」と今後の展望を語った。